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渡辺晋監督が進める「仙台スタイル」の構築とアップデート。浦和に敗れてつかんだ“次”への希望

■届かなかった3年後のチャンピオン

ベガルタ仙台を率いて5シーズン目の渡邉晋監督は、その5季目で最後の公式戦となる天皇杯決勝戦を戦い抜き、試合後に湧いたのは何より、悔しさという感情だったという。

「最後にこういうかたちで終われば非常に悔しさが残りますし、準決勝を突破した喜びよりも、数百倍、数万倍悔しい」

ひとつの大会の、ひとつの勝負に敗れた悔しさだけでない。長期的な取り組みからひとつの大きな成果を出すところまできて、それを逃した悔しさもあった。

以下に続く

話は2015年初頭に遡る。このとき、渡邉監督は就任2年目のシーズンを迎えていた。

2014年4月、当時のグラハム・アーノルド監督が成績不振により退任したことを受けて、コーチから昇格。J1残留争いに巻き込まれたチームの再建をフロントから託された。夏場のリーグ戦中断期間には攻撃で独自色を出そうと仕込んだものの、再開後に結果を出せず断念。まずは失点回避のため、守備的なスタイルを選ばざるを得なくなった。そして何とか1節を残し、クラブ創設20周年のシーズンでJ1残留を決めた。

引き続き翌2015年も指揮を執ることとなった渡邉監督は、チームを作るにあたり長期的なヴィジョンを描き、開幕前のチームに呼びかけた。

「3年後のチャンピオンを目指し、仙台のスタイルを作っていこう」

渡邉監督は仙台のクラブ史のうち、長期間をともにしている人物である。選手時代の2001年に甲府から移籍してJ1昇格に貢献し04年に引退。「ネクタイをしてクラブに関わってきた時期も、今の自分をつくる上で大きかった」と振り返る時期もあれば、育成部でさまざまな年代のコーチも経験。08年からトップチームのコーチになり、14年から現在まで監督を務める。トップチームの長として、“仙台スタイル”をどうやって築くか。15年にイメージしたのが、「3年後のチャンピオン」だった。

■“仙台スタイル”の幹と枝葉のアップデート

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かつてこのチームを率いた手倉森誠氏は、J2時代の08年に監督へ就任すると「5年でACLに行く」と宣言。当時は周囲に驚かれたが、実際にそれから5年後の2013年に仙台はACLでプレーした。

「当時はコーチという立場でしたが、私もあれを聞いて最初は驚きました。でも、言葉に出して目標を設定すること、そしてそれに対してしかるべき努力をすることが、本当に大事だということを学びました」。渡邉監督は自身もまた立てた目標に向けてチーム作りを進める。一言で「仙台のスタイル」といっても、スタイルには確固たる幹も必要だが、日々戦術の潮流が変わる中で、枝葉を整えるアップデート作業も必要になる。

2015シーズンひとつ取ってもそうだった。

攻守のバランスを考えながら進めていたところ、夏場に壁にぶち当たる。明治安田生命J1リーグ2ndステージ第7節・鹿島アントラーズ戦で、2点を先行しながらその後防戦一方になり、2-3の逆転負けを喫した。「守ってばかりではいけないと思い知らされた」。攻守ともにアクションをどう起こすかを大きく意識するようになった。この年の終盤には勝ち星が積み上がらず苦戦したが、前年のように大きく守備に傾くことなく先につなげた。オフには毎年のように欧州に足を運ぶなどして、最新の戦術やフットボールが街に根付く様を学んできた。

それから年月が経ち、仙台は徐々にそのスタイルを変え、J1の場で個性を発揮できるようになった。

J1でも最低クラスの経営規模の仙台は、なかなか大物選手を獲得できない。育てても、引き抜かれる可能性も高い。そのような中でも選手をやりくりし、育て、渡邉監督はクラブに関わる全ての者とともにスタイルを構築した。

自分たちと相手の両方の全体像を把握し、適切なポジションを取る。前線から最後尾まで連動したプレッシャーをかけに出る。自分たちのアクションで相手を動かす。そしてできたスペースへさらに動き、そのアクションの中でボールも動かす。試合を重ねるごとに、そのアクションの幅も広がっていった。

しかしスタイル作りに手ごたえを得ていた反面、なかなか結果は出ていない。リーグ戦ではトップ5入りを目標に掲げているが、就任以来まだそれは達成できていない。そもそも仙台のスタイルを磨いてきたのは、渡邉監督の言葉によれば「やっていて楽しいスタイルで、選手たちが躍動する姿を見てもらいたい」ということもあるが、「勝つ確率を少しでも高めるため」でもある。そこに、指揮官のもどかしさがあった。

■選手の成長、手ごたえに伴わない結果

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2018シーズンについて言えば、このスタイルの中で西村拓真はCSKAモスクワに引き抜かれるほど成長し、シュミット・ダニエルは日本代表デビューを飾るまで磨かれ、板倉滉や椎橋慧也は年代別代表と仙台での試合出場を重ねるごとに自信を増している。

野津田岳人のようにこのスタイルの中で新たな輝きを見つけた選手もいれば、梁勇基のように36歳にしてなお学び続ける選手もいる。一度はチームを離れた関口訓充やハモン・ロペスにも、「復帰したい」と思わせる場所に、この仙台はなった。だが、リーグ戦では11位に終わる。昨季より順位は上がったが、「昨季より苦しいシーズンだった」と指揮官は内容面で危機感を覚えていた。

天皇杯決勝戦で0-1の敗北を喫した後に、渡邉監督は今季リーグ戦終了時までの内容について、これからのスタイルの発展について難しさを感じた時期があったことをあらためて明かした。

しかし、今季最後の公式戦で「怖れずに、強気でしっかりポジションを取って、相手を食いつかせて、ボールを動かして相手を動かせば、これくらいやることができるというものを、最高の舞台で表現できた」と希望を得た。

それはこの1週間での、急ごしらえのスタイルではない。長期的に、そして手ごたえが得られなかったリーグ戦の終盤にも、状況を打開しようと選手もスタッフももがいていたからこそ、その表現ができたといえる。

だからこそ、結果を出せなかった悔しさもまた、大きかった。

渡邉監督にはJリーグYBCルヴァンカップ準決勝で川崎Fに敗れた昨季以来、何度となく口にしてきた言葉がある。

「『タイトルを獲る』と口にするのは簡単。でもそれを実現するには、いかにしてその目標に対して本気になって行動できるかが必要。それは現場の選手やスタッフだけでなく、フロントもそうだし、サポーターや、それを報じるメディアもそうかもしれない」

地道に努力を続け、イメージした“3年後のチャンピオン”には、限りなく近づいたが、届かなかった。しかしそのさらに先を目指して実現することを、明確にイメージできるチームになったことは確かだ。渡邉監督をはじめベガルタに関わるすべての人が、この天皇杯の悔しさを糧にして、先に進めるかが問われている。

文=板垣晴朗

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