2018-06-24-japan-shoji

動じず、臆さず、ポジティブに――。日本代表が手にした対応力という名の成長

■痛恨の失点にも慌てず修正したチーム

現実主義と対応力。これこそがロシアの地で戦う日本代表の強さを象徴している。

セネガルとの第2戦で2度のビハインドを追いつき、引き分けに持ち込んだ日本代表。惜しくも勝ち切ることこそできなかったものの、難しい展開を乗り越えて勝ち点1を獲得し、これで1勝1分け。グループHで1位をキープし、目標の決勝トーナメント進出へ向けて、また一歩前進した。

初戦から無敗をキープする西野ジャパンに漂っているのは、不思議なほどの冷静さと勝負強さ。どんな展開になろうとも、ピッチ上の選手たちには焦りも、浮かれた様子も全く感じられず、まさに泰然自若とした戦いが続く。地に足の着いたサッカーで、じっくりとした試合運びを披露することができているのだ。では、その理由はどこにあるのか。

以下に続く

ロシア第3の都市・エカテリンブルクで日本代表が対戦したのは、初戦でポーランドを破ったセネガル。アフリカ勢特有のフィジカルに加えて、高い組織力を兼ね備えたチームである。日本代表は序盤から出足鋭いプレーと組織的な囲い込みを見せるセネガルに主導権を握られ、何度も圧倒的なスピードで脅かされるシーンを作られた。

そして11分、相手の右クロスに対してファーサイドでヘディングのクリアが小さくなったこぼれ球を拾われてシュートを許すと、GK川島永嗣のパンチングをサディオ・マネに詰められて早々に先制点を奪われてしまう。

粘り強いスタイルで勝ち点奪取を狙っていた日本にとっては痛恨の展開。スタジアムにはセネガルの民族楽器が奏でるリズムが一段と大きく鳴り響いた。個でも組織でも上回る相手にミスが絡む形での失点で、いきなり窮地に立たされてしまったかのように思われた。

だが、ピッチ上の日本代表は全く動じていなかった。歴戦の長友佑都は失点後の様子をこう振り返る。

「試合前のロッカールームで、1点取られる状況も、うまくいかない状況も絶対に出てくる。でも、頭はポジティブにいこうとをみんなで話し合っていた。だからみんなもナーバスにならず、ポジティブに考えられたんじゃないかな。メンタル的には全然ブレなかった」

事前のスカウティングで相手の実力を把握していたこともあり、先制される展開も想定していた。ディフェンスリーダーの吉田麻也は「相手の縦への速さは想像以上のものがあった」としながらも、「徐々に相手のリズムやスピードに慣れて、アジャストできるようになってから(自分たちの)良さを少し出せて、前半で追いつくことができた」と明かす。

■攻守に目立った臨機応変な対応

この「慣れる」というフレーズが、試合のポイントになった。

コロンビア戦に続いてスタメン出場したセンターバックの昌子源は「慣れるまでに時間が掛かった」としながら、ビルドアップでいろいろなプレーを試しながら打開を図っていたという。

「本当に前半の最初は難しかったけど、ドリブルで持ち上がったり、早めに預けて次のポジションを取ったり。自分の中でいろいろやってみようと思っていた。落ち着いてビルドアップできたと思うし、そこも消極的なパスではなく、強気に縦へ入れていこうと。リスクは負えないので、ボールを取られそうになったらシンプルなプレーを心掛けました」

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難しい相手に対してリスクを背負いすぎないようにしながらジャブを打ち、打開策を模索していく。昌子に関しては、守備面での対応力も光った。相手がプレミアリーグで実績のある吉田麻也ではなく、明らかに彼のポジションを狙ってきたからだ。

「19番(エムバイエ・ニアン)が自分を狙っていることを早い時間帯に気づいた。そこで『どうしよう』と不安にならず、『ああ、オレか』って冷静に受け止められたのが良かった。ここで起点を作られると相手の思うツボだったので、自分にできることを精いっぱいやって、ヘディングでもガツンと当たって勝っていたら、後半の最後はオレのことを嫌がったかな。19番とは前半からずっと言い合いをしていて、セットプレーとかでも肩をパンパンぶつけてきた。オレもやり返していたし、いい意味で楽しんでましたね」

日本代表の臨機応変さは、攻撃面でもしっかりと見られた。セネガルに押し込まれる状況が続く中、34分に左サイドを長友佑都が抜け出し、入れ替わる形でボールを受けてカットインした乾貴士が右足を振り抜いて同点弾を決める。この起点になったロングパスを出したのが柴崎岳。そこには試合展開を読んだ判断があった

「基本的にはしっかりつないで連係しながらの攻撃をイメージしていたんですけど、試合展開を見ながら(相手が)あまり裏への配球の対応が良くなかったので、ロングボールも混ぜながらの形に切り替えたところは個人的にはあります」

攻守に代表的なコメントを記したが、選手たちのコメントを聞いていると、全員が共通して試合中の対応や臨機応変さ、そしてチーム内のコミュニケーションについて触れている。準備をした上で、実際に相手を見て、必要に応じて変化する。これが西野ジャパンが持つ最大の強みである。

柴崎はこう続ける。

「二度のリードを許した中で追いつけたのは、チームの成長を感じている部分。先にリードされたとしても、落ち着いて試合を展開することができていると思いますし、そこは選手たち自身も感じている」

■W杯を戦うことで、成長していく

成長――これこそが西野ジャパンの強みを引き出している最大の要因だ。自身三度目のワールドカップとなる岡崎慎司は、この部分を強調する。

「ワールドカップは何が起こるか分からないし、うまくいかなくて当たり前。100パーセントの力を出せると思って本大会に入ると痛い目に遭う。60パーセントの力でも勝ち切ること、引き分けにすることの重要性を当初から口酸っぱくみんなで言い合えていたので、それがすごく大きい。これからも厳しい戦いが続くと思うけど、その中で日本代表が勝ち上がるためにはワールドカップとともに成長していくことが必要。それはこの2試合で徐々につかんできているので、この先もただ勝つだけじゃなく、成長しながら進んでいくことが自分たちが勝ち上がっていくための条件になる。このチームは現状に満足せず、次はもっと違うものを出していこう、ベースとして戦えている部分を持ちながら成長できる部分を増やしていこうと話し合える。それが今のチームの強みだと思う」

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成長の裏側にあるものは、やはり過去の苦い記憶だ。4年前、ブラジルの地で日本代表の前に閉ざされたのは大きく分厚い壁。だが、その向こうに新しい何かが待っていると信じて、その扉を開こうとしているのは、他ならぬ彼ら自身である。

「4年前は相手を圧倒したいと考えていたけど、それが崩れたときに自分たちで修正が効かなかった。例えば1-1で全く焦る必要はないのに、『こんなんじゃいけない』と思って自滅していた部分もあった。そういう部分が足下を見つめ直して、日本というチームを強くさせてくれている。これはまだ完全にできているわけじゃないので、ここから勝ち上がるためにはもっと成長していかないと」

そして岡崎は「4年前の経験はムダじゃなかった。全体的にワールドカップを経て成長している部分もあると思う」と続けた。終盤、再びセネガルにリードを許したが、途中出場した本田圭佑が持ち前の勝負強さを見せて同点とした。何度も大一番で結果を出してきた彼の存在も、日本代表としての大きな強みなのだろう。

結果はドロー。セネガル相手に勝利を引き寄せるまでには至らなかったが、決してネガティブな状況ではない。そこには試合中に見せた成長と、さらなる伸びしろがある。これだけピッチ内で臨機応変な判断と対応を見せることができれば、“試合巧者”と評していいレベルに達しつつあるとも言える。

負けを引き分けに、引き分けを勝ちに。ネガティブな考え方ではなく、目標設定を下にするのでもなく、想定内の部分を大きく取ることで、チームの幅を広げている。そうやって勝利に近づいていくのが西野ジャパンのスタイルだ。

引き分け以上で決勝トーナメント進出が決まる第3戦は、FIFAランキング8位ながら連敗で敗退が決まってしまったポーランド。だが、長友が「あまりにも一喜一憂しすぎると、ひっくり返されるという危機感はある」と言うように、選手たちは全く油断することなく、今まで以上に気を引き締めて試合に臨むだろう。

高ければ高い壁のほうが、登ったときに気持ちいい。それがチーム全員で成長しながらであれば、なおさらだろう。明確なサッカースタイルはない。だが、その臨機応変さが彼らのスタイルでもある。謙虚に現実を見据え、変化と成長を続ける日本代表が、今ここにある。

文=青山知雄

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