2018-06-19-nagatomo-japan-falcao(C)Getty Images

数々の悪夢を吹き飛ばした「サランスクの雪辱」。日本代表、劇的勝利の裏側を探る

■4年前の苦い記憶を乗り越えた選手たち

ブラジルで味わった数々の“悪夢”を一気に払しょくする勝利――。日本代表がコロンビアとの初戦で見事に白星を飾り、サランスクの地で最高のスタートを切った。

「サランスクの雪辱」とでも言おうか。今回のコロンビア戦は、躍進が期待されながら不完全燃焼に終わった4年前の苦い記憶をまとめて乗り越えるような展開になった。

開始3分で相手選手が退場して数位優位に立った西野ジャパンは、トップ下でスタメン出場した香川真司のPKで先制。だが、39分に直接FKを決められて1-1で前半を折り返すことになる。後半途中、コロンビアがハメス・ロドリゲスを投入してきたが、彼のコンディション不良も手伝って持ち味を封殺。相手に自由を与えず、余裕を持ってボールをつないでリズムをつかむと、途中出場した本田圭佑の左CKを73分、大迫勇也が頭で合わせて勝ち越し。そのまま逃げ切り、見事に勝ち点3を手にした。

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思えば4年前、コートジボワールとのブラジル大会初戦は本田圭佑のゴールで先手を取りながら逆転負けを喫していた。経験豊富なエース、ディディエ・ドログバの投入で完全に流れを失ってしまったのが最大の理由だった。吉田麻也は今回のコロンビア戦前日に「あの試合は修正できないまま、ズルズルと時間が経ってしまった悔いがすごく残っている」と話していたが、今回はピッチ内で状況をしっかりと把握。本調子でなかったとはいえ、途中出場してきたコロンビアのエース、ハメス・ロドリゲスに仕事をさせることはなかった。そして吉田は「いろいろなシチュエーションを想定して準備してきたので、僕だけじゃなくて、他の選手もパニックに陥らなかったのは非常に良かった」と笑顔を浮かべた。

数的優位な展開はブラジル大会の第2戦で対峙したギリシャ戦と同様だった。当時は一人少なくなってガチガチに守備を固める相手に対し、単純なクロスを放り込んでは跳ね返される展開の連続。結局、ゴールネットを揺らすことはできず、スコアレスドローで終わっていた。もちろん当時は初戦で黒星を喫していた状況があったが、今回は相手が劣勢ながらプレッシャーを掛けてこないと見ると、先制した展開も手伝って余裕の試合運びを披露。長友佑都が「前半から焦りはなかった。うまくボールを回しながら、相手がバテるのを待って後半に仕留めようと。経験ある選手がすごく落ち着いていた。あの経験(ギリシャ戦)が最後に勝利に結びついた」と振り返ったように、適切な状況判断を見せる。序盤こそフレッシュな相手の奮闘で大きく数的優位を生かすシーンは見られなかったが、1-1に追いつかれた後も30度近い気温と相手の消耗を視野に入れて焦れないサッカーを見せ、狙っていたセットプレーから決勝点を奪うことに成功する。

そして終始冷静な試合運びを見せた日本代表は、ブラジル大会の第3戦で1-4と完膚なきまでに叩きのめされたコロンビアに雪辱を果たすことになる。1-1で折り返した前半のスコア、後半のハメス・ロドリゲス投入という展開もブラジル大会と同様だったが、今回はまさに会心の内容で大きな結果を手にした。川島永嗣は「4年前の悔しさを晴らせたのは大きい。あの試合から止まっていた時間が、いろいろな意味で動き出した。監督が替わった厳しい状況で、自分たちにとっては自信になった」と過去を振り返りながら未来を見据えた。

■鋭く押し込んだ結果の退場とPK獲得

長友は開始直後の退場劇とPK獲得を「僕たちにとっては幸運だった」と話したが、この展開は決して日本代表が運に恵まれたわけではない。そこまで持ち込んだ選手たちの頑張りと判断があったからこそだ。

短期間でのチームづくりを求められた西野ジャパンがテストマッチで得た課題は、どのタイミングでプレスを仕掛けるか。そして前に重心を掛けるか。このすり合わせをとにかく続けてきた。そして立ち上がり早々に訪れたチャンスは、まさにチームとして鋭く押し込んだパターンだった。

相手の左クロスを昌子源が跳ね返し、それを香川がダイレクトで前線につなぐ。大迫勇也が相手DFともつれ合いながら前を向いてドリブルを仕掛けた。ここからのシュートはGKに防がれたが、後方から走り込んできた香川のシュートをカルロス・サンチェスがハンド。その後方からは原口元気、乾貴士も走り込んでいた。

まさに機を見るに敏。大迫は「キャンプに入る前から、みんなでずっと『立ち上がりがワールドカップを左右する』と話していた。理想の形で試合に入ることができた」と明かしているが、初戦の開始早々に訪れたワンチャンスを生かし、大会全体の戦い方にもプラスになる状況を手にした形だ。

そして何より、選手全員が自分に求められる仕事を理解し、全力を出し切り、最後まで走り切る状況に持ち込めたことも大きかった。

攻守に圧倒的な運動量を見せ、両チーム最多となる56回のスプリントを記録した原口は、勝利を手にした直後、笑顔を浮かべることもできずにピッチに座り込んだ。それは本当にすべてを出し切った姿だった。

「すごくきつかったし、最後の5分間くらいは倒れそうだった。何かやったわけじゃないけど、自分の仕事をやり遂げた結果、チームとして勝てたということで自分の仕事ができたかな。それが報われて良かった」(原口)

この試合でチーム最長の10.745kmを走り抜いた長友も言う。

「とにかく走って戦わないと話にならない。自分自身がそれを示したいと思っていたし、誰よりも気持ちは入っていたんじゃないかな。4年間、自問自答しながら自分自身と戦ってきた。だからこの勝利には、『うれしい』という言葉では表現できない感情がある」

ブラジルでは自分たちの実力を出し切れないままに大会を去る悔しさを味わったが、この試合ではチームとして統一された意識を披露した。そしてすべてを出し切って下馬評を覆した。

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かつての悪夢を振り払う勝利を経て、24日には初戦でポーランドを破ったセネガルと対戦する。次戦で勝利すれば、早々に決勝トーナメント進出が決まる可能性があるが、選手たちには充実した表情こそ見られても、浮かれた様子はない。日本代表はまだ勝ち点3を得ただけだからだ。

「まだ2試合あるし、一瞬たりとも気が抜けない状況。ここで勝ったからと言ってグループステージを突破できるわけでもない。もう一度気を引き締めたい」(長友)

「決めなければいけないシーンもあった。勝ったことばかりに目がいってしまうかもしれないが、冷静にそういうところも見ていかなければ」(乾)

選手たちが試合後に残したコメントからは、「勝って兜の緒を締めよ」という格言が十分に浸透しているように感じられた。

油断大敵ではあるが、コロンビア戦の勝利で手にしたものは決して小さくはない。そして日本代表の旅路に大きな世界が広がったのも間違いない。大迫が「ここで満足はしたくない」と残したように、本当の戦いはここからだ。ただ未来へと夢を乗せて――。日本代表が決勝トーナメント進出に向けて、次なる準備を進める。

文=青山知雄

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