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旗手怜央が語る欧州での強烈な体験。「アンジェさんの下でやれたのはすごく大きい」

 旗手怜央は、2022年1月、川崎フロンターレからスコティッシュ・プレミアシップのセルティックに移籍した。GOALでは、川崎F時代から旗手を追ってきた記者によるロングインタビューを実施。初の欧州移籍での実際、欧州CLでの強烈な経験、そして指揮官との信頼関係などについて語る。(聞き手:林遼平)

◎後編:自身のターニングポイント、日本代表への思いはこちら

■スコットランドのサッカーは日本とは別物

 グラスゴーに渡って約1年半が過ぎた。2022年1月の移籍は、現地ではシーズン中だが、旗手にとってはJリーグを1シーズン戦い終えた直後であり、ほぼオフの期間はない状況だった。疲れもあり、「なかなかコンディションが上がらない」なかで新しい環境にも適応しなくてはならない。しかし、最初の半年とシーズン1年を通してプレーした今とでは明らかな変化があったと語る。

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――環境への適応はいかがですか?

 最初の半年間は慣れない環境でやっていたので、生きるので精一杯みたいなところがありました。練習をして、試合をして、帰ってくるという生活です。どうしてもオンが充実していない分、オフにすごくストレスがかかっていました。ただ、今シーズンが始まってからは、生活に少しずつ慣れてきたことで、オフの日に出かけるといったちょっとした余裕ができました。今シーズンは気持ち的にも少し余裕を持ちながらやれたかなと思います。

――改めてスコティッシュ・プレミアシップは、どんなリーグだと感じていますか?

 いろいろな評価がありますが、やってみないと分からないリーグだと思います。球際はすごく激しいし、セルティックは首位だったので、どこのチームも負けたくないという思いがあって対人戦はすごく強く来ます。戦術というよりは、マンツーマンな感じで来るチームも多かった。身体能力の高い選手が多くいて、ボールを蹴って、競ってみたいな試合もあります。

 一番分かりやすいのは日本と比較することになると思いますが、日本と比べてどうこうというよりは、やっているサッカーがかなり違う。日本はより戦術的ですごく頭を使うクレバーなサッカーですが、こちらは本当に身体的によりバチバチするというか、フィジカル勝負みたいな感じがあります。僕的には違うサッカーをしているという感じがあります。

――今季はシーズンを通して公式戦45試合に出場しました。どんなふうに1年を振り返っていますか?

 やはりチャンピオンズリーグ(欧州CL)もありましたし、すごく充実したシーズンだったと思います。ただ、ケガの時期が1カ月ぐらいあったので、そこは改善しないといけない。いい面としては、より数字としてゴールやアシストのところが結果に繋がっていますし、チームとしての役割の部分もしっかりと果たすことができた。また新たに成長できたシーズンだったと思います。

■欧州CLレアル・マドリーの衝撃

 旗手は昨季、欧州CLグループステージ6試合に出場した。同組の対戦相手はレアル・マドリー、シャフタール、RBライプツィヒ。セルティックは6試合を戦い2分4敗の成績でステージ突破はならなかった。しかし、旗手自身は全試合にDMFあるいはインサイドハーフとして先発出場している。

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――CLは一つ目標としていた舞台だと思います。

 本当にレベルが高いなと思いました。基本的なところですけど、やはり球際の部分や戦術的な部分…、全部ですね(笑)。ただ、チームとしてもそうですが、完全に「参ったな」という感じでも全然ないんです。やれた部分もあるし、通用した部分もある。それでも通用できなかったところの差が結構激しいのかなと感じました。 

――通用しなかった部分というのを具体的に教えてください。

 やはり最後のゴール前でのクオリティーです。例えば、ゴール前までは行けるみたいなものはセルティックとしても数値として出ていたんです。ただ、最後のところでゴールを決めるところに差がすごくありました。本当に細かいところです。簡単なミスをしないんです。そういうミスをしてしまうと、CLのような場所では一気に行かれてしまう。一人ひとりの差ももちろんそうですけど、チームとしてそこの差は感じました。

――ご自身の出来は? レアル・マドリー戦では随所に好プレーを見せていたと思います。

 個人としては自分が持っている力はしっかりピッチ上で出せたのかなと思います。ただ、もちろんできた部分も多かったですけど、できない部分もたくさんあった。そこをいい意味で知れたのは良かったのかなと思います。

――CLという舞台はチームとしても雰囲気が変わるものですか? 開幕のセルティック・パークでのレアル・マドリー戦には57,057人で埋まりました。

 まずピッチに入った時のサポーターの雰囲気が全く違いましたね。本当にCL専用の雰囲気を作り出してくれていました。個人としてはレアル戦の時のあの緊張感は、どの試合にもなかったと思います。アンセムを聞いて鳥肌が立って、その後にピッチで並んでポジションに付いた時に目の前を見たら、ベンゼマやモドリッチ、トニ・クロース、バルベルデがいて「これ大丈夫か?」とめちゃめちゃ緊張しました。ただ笛が鳴って試合が始まった時には、その緊張がいい方向に行ったのかわからないですけど、試合前に感じたものとは全然違ったので、そこはすごく良かったです。

――技術以上にメンタルが要求されそうな舞台ですね。

 僕的に一個あるとしたら、どれだけ技術があって、どれだけいいフィジカルを持っていても、気持ちが整ってないと結局それはピッチ上で出すことができないのではないかということです。ここまで来ると、技術的にもフィジカル的にも、大学生と高校生がやるぐらいの差はないじゃないですか。そうなった時にメンタル的なところがすごく重要だなと思います。本当にCLを経験して、僕は6試合ともすごくいい状態でできました。ミスもありましたけど、そのミスを引きずらずにすぐ切り替えてプレーを続けることができました。そこのメンタルは改めて重要だなと感じました。

――例えば、CLで対戦する相手もそういったメンタルの強さを感じるものですか?

 レアルはすごかったです。これはやってみないと分からないと思うんですけど、何なんだろうな、焦ってない感じがすごく伝わってくるんです。それこそセルティック・パークで1戦目をやった時に、僕たちは前半結構良くて惜しいシーンを2回ぐらい作ったのに対し、レアルは1本もなかったんです。

 ただ、僕はピッチ上で「これ前半のうちに取らないとヤバい」と思っていました。なぜかって、レアルはすごく余裕みたいなものがあるんです。これは本当に目の前に立ってみないと分からないところだと思うんですけど、僕らが攻めている時も慌てていない。その雰囲気を僕は感じて「これ1点でも前半に決めないと、後半多分やられる」と思ったら、後半に入って3点決められました。これは「だろうな」と思いましたね。

――その雰囲気は今までに経験したことないものだったのでしょうか?

 ないです。初めて、チームや選手個人に「こいつらの余裕は何なんだ」と思いました。シャフタールやライプツィヒにも多少は感じましたけど、レアルのその雰囲気は明らかに違いました。あの試合は確かスタートで出た日本人が僕だけだったんです。だから他の人に共有したくてもできないんですけど、本当にビックリしました。技術もそうですし、能力もそうですけど、メンタルが大きく違うなとより感じました。

――そういう経験は海外に来たからこそ味わえるものですね。

 そういう経験は大きいと思います。そこからメンタルの重要性を肌で感じられたし、そういう相手と2試合ホームとアウェイで試合ができた。ライプツィヒやシャフタールもそうですけど、6試合できたのはすごく大きいと思いますし、今後もそういうレベルで戦っていく必要があるなと思いました。

■疑問は監督に直接聞きに言った

 セルティックは22-23シーズン、クラブ53回目となるリーグ戦優勝。また、スコティッシュリーグカップ、スコティッシュカップも制し国内三冠を達成した。チームメートの古橋亨梧は27得点を奪い、得点王を獲得した。旗手自身は公式戦45試合出場9得点11アシストの成績を残している。

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――欧州でプレーしてみて、ゴールやアシストといった数字の重要性はより感じるものですか?

 亨梧くんを見たら、まさにそう感じますね。だいたい亨梧くんが点を決めているので(大きく取り上げられる)。自分としても結構いいプレーをしていて、チーム的にも役割をちゃんと果たせてるけど、あまり表には出ない。そこは一緒のチームでやっているので、より肌で感じた部分です。

――チームには数字を求められているんでしょうか? それとも役割をこなすことを求められているのでしょうか?

 今シーズン、アンジェさん(ポステコグルー監督)の部屋に直接行って「僕の今の課題は何だ」みたいな感じで聞きに行ったことがあります。アンジェさんは「今はこうだ、こうだ」と教えてくれて、そんなやり取りを今シーズンは3、4回しました。

 これはCLを終えた後だったと思いますけど、「ゴール前まではいい形で行っているんだけど、最後の局面で数字を残せていない。ゴールだったりアシストだったりを求めていかないとダメだよ」と教えてくれました。そこからすごく自分自身で求めるようになりました。それと毎試合、終わった後にスタッフの方と映像を見る機会があって、そこで自分に求められているプレーや自分はこうしたいということをうまく伝えながら、結果を求めつつ自分の役割をしっかりこなせるように準備をしている感じです。

――今の話からも研究熱心さが伝わるのですが、それはセルティックに来てからですか?

 フロンターレに入ってからですね。それこそ川崎ではターンするところを求められていたので、自分のピッチ上で感じた感覚と映像で見た感覚をすり合わせていこうと思ってからユウキさん(吉田勇樹コーチ)とやり出して、それがだいぶ癖になって今も終わってからずっと見ています。ターンに関しては、もともとFWだったので、それこそSBも含めて出られるんだったらそのポジションで求められたことをやらないといけないなと思って、そこをすごく意識するようになりました。

――ポステコグルー監督との関係性も良かったんですね。

 アンジェさんは選手と一線を置く監督なので、あまり練習中は声を掛けてきません。ただ、僕は本当にアンジェさんの攻撃的なサッカーで成長させてもらっていて、自分でフリーのスペースを見つけることだったり、よりこちらのサッカーに合わせて前に強く行くところだったり、本当にあの人のおかげでここまで来られていると思います。

 今シーズンの前半はちょっと悩んでいた時期があったので、そういう時にチラっと行ったり、今年に入ってからも2回ぐらい行きましたけど、悩んだ時にあの人のところに行くと的確に毎回教えてくれるし、たぶん僕がこうなんじゃないかなと思っていたこともだいたいあの人が思っていることだったりするんです。新しいことを教えてくれたりもするので、本当に尊敬していますし、ヒントを与えてくれる人だなと思っています。一年半やりましたけど、アンジェさんの下でやれたのはすごく大きいなと思います。

◎後編:自身のターニングポイント、日本代表への思いはこちら

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Profile
旗手怜央(はたて・れお)
1997年11月21日生まれ、25歳。三重県鈴鹿市出身。ポジションはMF、SB。171cm/70kg。四日市FC-静岡学園高-順天堂大を経て、2019年に川崎F加入。22年1月よりセルティックへ完全移籍。日本代表国際Aマッチ1試合出場。

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