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【森保一監督/ロングインタビュー前編】東京五輪の結果は「何を言われても仕方ない」。しかし、日本は“横から目線”で世界と戦える

 森保一監督のインタビューは、3つのテーマに分けてお届けする。前編は「4位という結果」について。【聞き手:川端暁彦/取材日:8月19日】

■「金メダル」とあえて言うようにした

——まずは東京五輪への挑戦、お疲れ様でした。森保監督は今でこそ「A代表兼任監督」ですが、最初は「東京五輪代表監督」としてこの仕事をスタートさせていますから、この大会について特別な思いがあったと思っています。

五輪代表監督のお話をいただいたときは、フリーの状態でした。報道で「五輪代表監督候補に森保氏」みたいなのが出ているのを見て、「そういう可能性もあるのか!」と思ったのが最初でしたね。

——そういう流れだったんですね。

東京で、日本で、オリンピックがある。そこに関わりたいという気持ちはやはり強かったですから。そこにどれだけプレッシャーがあるかは余り考えず…いや、当時も考えてはいましたね。でも、それ以上に東京五輪に向けて貢献したいという気持ちが強かったです。

――結果として、残った戦績は4位。メダルには届きませんでした。

結果については本当に悔しいです。あれだけ力を尽くして戦ってくれた選手たちを勝たせてあげられなかったことは本当に残念ですし、一緒に戦ってくれたスタッフ、応援してくれていた皆さんを喜ばせてあげられなかったことについて考えると本当に悔しい。試合を振り返れば、「勝てた」と感じるところもありますし、その一方で自分の中では結果を自然に受け止めている部分もあって、やり残してしまったとか、後悔しているという感情はありません。

——今回は史上初めて金メダルを明確な目標に掲げて準備して臨み、そして届かなかった大会です。だからこそ批判されるという部分もあるのだと感じていますが、スローガンみたいな目標ではなく、真剣に金を狙いにいったこそ得られたものもあると感じています。あのスペインにも本気で勝ちに行って、だからこそ見えてきているものって絶対あるんじゃないかなと思うんですが、いかがでしょうか?

就任当初、僕は「メダル」としか言ってなかったんです。ただ、そこをアバウトにしていたら選手と目指す基準としてダメだなと思って、「金メダル」とあえて言うようにしました。そこに届かず、メダルを獲得できなかったわけですから、結果については何を言われても仕方ないと受け止めています。やっぱり監督である以上、そこに責任はついてくると思っていますから。

それにこれはスーパーポジティブな考え方に聞こえるかもしれませんが、「取れなかったのは監督が悪い」という批判が出るのは、「日本サッカーのレベルはそこに届かない」とみなさんが思っていたら出てこないですよね。「世界大会4強、すごいね、よく頑張ったね」で終わっていると思うので。メダルを取れるだけの力が日本にあると思うからこその批判であり、感じた悔しさの発露だと思います。僕はネット情報を見ていないのですが、周りの人からは結構心配の声がいっぱい届くので、恐らく監督に対して相当厳しいことを書かれているのだろうというのは分かっています。でもそれは、日本サッカーへの期待の裏返しでしょうから、試合の内容をちゃんと考えてくれた上の批判であれば、それはまったく問題ないと思っています。

——選手の悔しがり方を観ても、そうですよね。スペインに負けたあと、誰も「まあ仕方ないよね」という雰囲気にはならなかった。「勝てたはずだろ!」という怒りにも近い悔しさにあふれていました。

戦う前に持つ目線の話ですよね。選手が持っている目線からすると、もう五分だと思っています。世界のどの国を相手にしても、選手の目線は下から見上げる相手ではない。もちろん世界のトップ10と比べれば力量の差はありますが、欧州で日常的にやっている選手たちが増える中で、自然とどの国を相手にしても「戦える」という感覚を持てるようになっています。これは育成年代から日本サッカーが積み上げてきた大きな進歩ですよね。それはあらためて感じた大会でした。

——実際、対戦国との力の差は感じましたか。

冷静に見て、スペインはFIFAランク6位で、ブラジルが3位。で、メキシコが11位なんです。おおよそ一桁台のチームに対してはまだまだ差はあると感じています(※)。
※5月27日時点A代表FIFAランク。日本は28位。

スペインと戦って良い試合はできたと思いますが、足りない部分をたくさん感じるゲームでもありました。そこは受け止めてやっていかなければいけない。ただ、11位のメキシコについて言えば、互角に戦えると思っています。3位決定戦で負けてはいますが、親善試合で何度も戦った感覚も踏まえると、また戦ったときに「どちらに勝敗が転ぶか」っていうところまでは持っていけると思います。そこに関して日本のサッカーの成長は確実にあった。上から目線、下から目線、あと横から目線があるとしたら、“横から目線”で世界大会を戦っていけると感じていますし、選手も間違いなくそう思えるようになっています。

■「追い越せ」も考えられる段階に来ている

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——変に悲観しすぎる大会でもなかった、と。

重ねて言いますが、結果を出せなかったことを批判されるのは仕方ないと思っています。ただ、試合の内容について言えば、世界に追い付け追い越せとやってきた中で、「追い越せ」を考えられる段階に来ていると思っています。もちろん、追いつかなければいけないところはいっぱいあります。ただ、そこだけじゃないのも確かなんです。「追い越せ」を考えられるところに来たのは本当に選手たちが頑張ってきてくれた成果ですし、育成からやってきたことが花開いているから。選手や指導者の皆さんが日々積み上げてきたものが日本のサッカーの発展にちゃんとつながってきていることを感じています。

——結果が出なかったのは個別的に検証するのは重要なことだと思うんです。僕もいろいろ書かせてもらいました(笑)。ただ、「メダルを獲れなかったから全部ダメ」は違うのではとも思います。

内容的には日本の選手たちは世界の代表選手と比べても戦える、同じ土俵で、同じ目線で戦える感覚がある中で、じゃあどうやったらわれわれの勝つ確率を上げられるのかというところです。「結果が出なかったのは監督に原因がある」でいいんですが、日本サッカーが積み上げてきたものを全否定する必要はまったくない。そういう内容の大会だったと思っています。

——結果でいっても、今回は主要な世界大会で初めてグループステージ全勝でした。

そこはまったく力がなかったら勝てないでしょう。日本サッカーの育成の成果としての地力はあります。サッカーの現場に携わる選手や指導者の方々には、普及・育成の段階から積み上げたことによって世界と同じ目線で戦えるようになっているということを感じていただければ。

「フランスは絶対的に上だ」とか「自分たちと比べてスペインはすごすぎるから絶対に埋められるはずがない」とか思い込んでしまったら、本当に埋められない差になる。いま代表にいる選手たちはそうではない、そういう感覚で戦ってはいないということをお伝えしておきたいと思っています。選手たちがタフなメンタリティを持って、すごく成長してきているというのも、冷静に大会を見直していただけると、感じていただけるのではないかとも思っています。

——いまインターハイの取材で福井に来ているんですが、今回は時差がなかったということで、夏休みの合宿をしていたような選手や指導者の皆さんが軒並みちゃんと試合を観ているんですよ。静岡学園みたいにOBの旗手怜央選手が出ていた学校の選手たちにはなおさら強い刺激があったみたいです。

いや、悔しいですね、そういう話を聞くと何と言えばいいのか…。本当に、このオリンピックで結果を出して、特に育成の指導者の方々に自信と誇りを持ってもらえるようにしたいというのは、すごく自分のモチベーションだったので…。旗手は本当に這い上がっていくお手本のような選手で、彼は追加招集で呼ぶことが多かったんです。でも、呼ぶたびに成長していって自分で自分のチャンスを広げていった。ああいう努力してきた選手の素晴らしい成長ぶりを観てもらえたのだと思う一方で、それを結果に結びつけられればもっと大きな刺激があったのかもしれません。そこは残念ですし、あらためて悔しくなりました。

——その悔しさを無駄にしないことが肝なのかなと思っています。次回は東京五輪を通じて森保監督が感じた「足りなかったもの」についてフォーカスさせていただければと思います。

中編「日本サッカーに足りなかったもの」に続く

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