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浦和からローマへ...南萌華、イタリア・女子セリエA挑戦。その前夜の決意

25日、三菱重工浦和レッズレディースは、なでしこジャパンDF南萌華のイタリア女子セリエA・ASローマへの移籍を発表した。

南は埼玉県吉川市出身。ジュニアユースから長年所属した浦和レディースを離れることになる。

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2016年にユースからトップ昇格し、なでしこリーグで経験を重ね、20年にはなでしこリーグ1部で優勝。翌21年にはWEリーグ発足とともにプロとなった。WEリーグ初年度の浦和は前期こそ「勝てない試合が多く、チームとしてとても苦しんだ」が、後期は皇后杯で優勝。初代チャンピオンはINAC神戸レオネッサに譲る形になったが、シーズンを2位で終えている。

「負けた試合には、もっと良くできたところが絶対にある。だからこそ成長してこられた」と語る南。WEリーグが存在する価値、海外移籍を決断した理由、そして将来への思いとは? ローマへの出発直前に話を聞いた。

将来の「女子プロサッカー選手」への大きな財産

WEリーグ開幕により「11」の女子プロチームができ、多くのプロ選手が誕生した。「オリジナル11」に顔を並べた浦和は、2005年に女子チームを設立しており、17年の歴史を持つ。

なでしこリーグでの経験もある南は、プロリーグ開幕の影響をこう語る。

「『女子プロサッカー選手』という職業が生まれたことは大きいと思います。サッカーに費やせる時間が増えて選手のレベルが上がり、チームごとの力の差がなくなりました。また、一人ひとりがプロとして意識を高く持つようになりましたし、将来的に必ずなでしこジャパンを強くしていくはずです。外国から選手が来る機会も増えました。日本の選手にはないものを持つ選手たちが加わることは、今後のWEリーグのレベルを押し上げる大きな力になります」

WEリーグは女子サッカーのレベルを底上げし、競技性や競争力を示すことだけが目的ではない。日本の女子サッカーを“次の世代”に届けたいという強い思いがあるのは、選手も同じだ。

「WEリーグでの一番の成功は、試合を見てくれる方が増えたこと。INAC神戸に勝利した国立競技場での試合は本当に最高でした。素晴らしい舞台で大勢のお客さんが見守るなか、私たちの、浦和レッズ(レディース)のサッカーが披露できました。浦和レッズを目指す子どもたちが増えるような試合ができたことは、私自身の自慢であり大きな自信になりました」

「女の子たちが気軽にWEリーグを見られる環境は、将来の女子サッカーにとって本当に大事ですし、女の子たちが目指す場所ができてとても嬉しいです」

観客を巻き込み、WEリーグを愛する人たちを増やすことも大きな目標となっている。昨年はコロナ禍ではあったものの「WE ACTION DAY」などで将来のプロ選手を目指す子どもたちとの交流も盛んに行われた。

「これまでは『自分の子どもを女子サッカー選手に』という親御さんは少なかったと思うんです。でも今ではサッカー教室に行くと、ご家族がすごく応援していて『将来レッズでプレーさせたいんです』と言ってくださる方がたくさん増えました。WEリーグになり『女子プロサッカー選手』という職業ができたのは、そういう点でもすごく意義があると感じます」

大きな追い風を感じるなか、次の目標として南は『新しい選手像』を提案する。

「サッカー選手として少女たちの目標になるのはもちろんですが、より『新しい選手像』を皆さんに見せたいです。たとえば、岩清水梓選手や大滝麻未選手が出産後に復帰する道を示してくれました。私は海外リーグに挑戦し、言語も文化も習慣も異なる中でこれから生活を送ります。人としての幅を広げられるような機会をサッカーが与えてくれました。サッカーだけに人生を捧げるのではなく、その先に広がる様々な道も示していきたい。多様な選手像を認知してもらえれば、女子サッカー選手という選択肢を考える人も増えてくるんじゃないでしょうか」

そして、海外へ。自身の力を示すチャンスと目指す選手像

将来への意欲あふれる南が海外移籍を意識したのは、2021年の東京五輪だった。準々決勝で敗退したスウェーデン戦で自身の力不足を感じ、「行かなきゃダメだと思った」と明かす。

「特にディフェンスは、スピードや強さのある選手と普通に戦えるようにならないと難しい。そのような選手とのマッチアップを日常的にできる海外に身を置いたほうが、自分はもっと成長できると思いました」

さらなる成長を求め、約12年間所属したクラブを離れて、イタリアへ渡る決意に至った。

「チーム(浦和)を愛しているからこそ、自分をここで終わらせるんじゃなくて、新たなステージでも通用することを見せたいと思ったんです」

ハングリー精神あふれる南の姿は頼もしい。WEリーグでのプレーと経験も、その決意を後押しする。初の海外移籍も「プレッシャーはないです」と力強く語る。

「WEリーグは、決してレベルが低いリーグではないと思っています。だからこそ、WEリーグで1年間プレーして培った力が海外で通用するのかを試したい。指標になれたらと思っています。長い間海外に身を置いてサッカーをする自分がいまだに想像できないんですけど、本当に楽しみです。海外にチャレンジして良かったと思える結果にしたいです」

今年24歳を迎える南。海外に移り、そして帰国した暁にWEリーグがどんなリーグになっていてほしいかを尋ねた。

「満席のスタジアムで、入場の時から歓声が聞こえて。試合中でも選手同士の声が聞こえないぐらいの大歓声で溢れかえっていてほしい」

南が移籍するローマは女子セリエAの21-22シーズンを2位で終え、8月に開幕する22-23女子チャンピオンズリーグへの参加資格を獲得している。

3月30日の21-22女子CL準々決勝のバルセロナ対レアル・マドリードには91,553人がカンプノウに詰めかけ、4月22日の準決勝のヴォルフスブルク戦では91,648人と女子最多の観客記録を打ち立て、満員となったスタジアムが大きなニュースとなった。観客の多さもだが、欧州での女子サッカーの位置付けは日本と明らかに異なる。

一つのプロクラブが男女両チームを持つのは普通のこととなっている。そんな世界に南は挑戦する。

「いまWEリーグは“女性の活躍”を掲げていますし、女性の指導者の増員に力を入れています。ですが個人的には、女性でも男性でも指導の差はあまり感じていません。将来的には“男女”という指標を掲げなくていいぐらい世の中が変わっていけばいいなって。WEリーグもそのきっかけのひとつになればいいですね」

南は2011年の女子ワールドカップ優勝を目の当たりにした世代だ。「あの優勝は衝撃的だった」と今でも胸に焼き付いていると話す。なでしこジャパンに憧れてサッカーを始め、女子サッカー選手になりたいと漠然と思いながらも、当時は女子プロサッカー選手が(日本に)本当に存在しているのかどうかさえ分からないままプレーを続けてきた。

しかし今の子どもたちは「WEリーガーになりたい」「女子サッカー選手になりたい」という明確な目標を持って進むことができる。

「今度は『南選手のようになりたい』と思ってもらえる選手になることが一番の目標です」と語る南。改めてどんな選手になりたいかを最後に尋ねてみた。

「日本だけじゃなく、海外の若い子たちにも憧れられたら嬉しいです。そして結果的に日本の女子サッカーを盛り上げていけたらいいなと思っています」

「世界中の人たちに知ってもらえる選手になって、誰が見ても尊敬できるような選手になりたい。私は夢を信じ続けて、サッカー選手になる夢を叶えました。今度は夢を与える立場として走り続けます」

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