Trent Alexander-Arnold Jordan Henderson Andy Robertson LiverpoolGetty

プレミアリーグ最新戦術トレンドを探る:リヴァプールが示したSBの新たな役割、シェフィールドの「美学あるフットボール」

2日のナイトゲームでシェフィールド・ユナイテッドに勝利したリヴァプール(2-0)は、1試合未消化ながら2位に13ポイント差をつけてプレミアリーグ首位を独走。この勝利により、レッズはイングランド1部リーグで1年間無敗を貫いたこととなった。

2位につけるのはレスター。他の上位陣とは全く違う特徴を持つチームだが、今季トップ2を走る両者には共通点がある。

Goal』はこの2チームで獅子奮迅の活躍を見せるサイドバックに注目。さらに、今シーズンここまでに見られたその他4つの戦術的進歩にも焦点を当て、プレミアリーグの戦術的トレンドを分析する。

以下に続く

文=アレックス・キーブル/Alex Keble

■SBが重要なプレーメーカーに

Andrew Robertson Trent Alexander-Arnold Liverpool 2019-20Getty Images

2019年で最も重要な戦術的トレンドは、何と言ってもサイドバックが試合をコントロールする存在になったということだ。これは、ほとんどの試合が「アタッカーvsディフェンス」といった様相を呈していることと大いに関係がある。

守備的に引いた相手から脅威を受けないとなれば、最高峰のサイドバックはほとんど守備をする必要がなくなる。その代わり前線に張り出し、サイドから姿を消す。この動きによって引いた相手ディフェンスを間延びさせる用意が整うのだ。さらには、単純にこの状態からペナルティエリア内にクロスを挙げる選択肢もできる。

リヴァプールは最新サイドバック戦術論のよい見本だ。

トレント・アレクサンダー=アーノルドとアンドリュー・ロバートソンはおそらく世界最高のサイドバックであろう。リヴァプールの攻撃の中でこれだけ動きの多い役割を担うことで、この2人は事実上のプレーメーカーとなっている。

必要な時は中央に入り込み、アタッカーとワンツーで侵入する。敵陣深くからクロスを送ることもすれば、速いダイアゴナルパスを交換することもある。アレクサンダー=アーノルドとロバートソンは“アウトサイドに張り出した10番”とでも言うべき新たなタイプの役割を示しているのだ。注目すべきは、マンチェスター・シティのケヴィン・デ・ブライネが頻繁に右サイドに張り出しているため、たびたびリヴァプールの右サイドバックと同様のヒートマップを描いていることだ。

レスター・シティは、リヴァプールの次に上手くサイドバックを利用しているチームと言える。だが、その起用法はもう少し古典的なものになっている。

リカルド・ペレイラとベン・チルウェルが見事なオーバーラップを見せると、相手はサイドに釣り出されるため、ジェームズ・マディソンとユーリ・ティーレマンスがプレーするハーフスペースを空けることが可能になる。マディソンとティーレマンスは、2017-18シーズンにおけるマン・Cでのダビド・シルバとデ・ブライネに非常に似た役割をこなしているのだ。

■マンチェスター・Uとチェルシーの不調が示す攻撃戦術の重要性

Ole Gunnar Solskjaer Manchester United 2019-20Getty

最上位のクラブとその他のクラブの間で資金面に格差があることによって、プレミアリーグの試合は明らかに一方的な展開になってきている。ほとんどすべての試合は「ポゼッション対カウンター」の展開になっており、片方がアタッキングサードに攻め込み続け、相手は辛抱強く守り続けるようになった。

その結果として、“ビッグ6”では監督が詳細な攻撃戦術を組み立てることが必要になっている。具体的な動きが筋肉に浸透するまで練習し、アドリブに頼らない攻撃を展開する必要があるのだ。

2019-20シーズンは、エリートクラブがその必要性を理解するための重要なシーズンになることだろう。チェルシーは序盤こそ好調だったが徐々に後退し、マンチェスター・ユナイテッドはオーレ・グンナー・スールシャール監督のもとで問題を抱えている。退任したウナイ・エメリとミケル・アルテタ新監督の間で大きなコントラストを描いたアーセナルを見れば、上がったフォワードにスペースの埋め合わせを期待することができないことははっきり分かっただろう。

彼らのライバルは今、たゆまず継続してトレーニングし、敵陣深くに攻め込み相手を苛立たせている。相手DFの陣形を崩してスペースを作るためには、高い強度のプレッシングが必要であり、ポジションニングについても複雑なコーチングが必要だ。これらを実行しているのがユルゲン・クロップやペップ・グアルディオラなのだ。

この新しい潮流の中で、悪い意味での象徴となってしまっているのはマンチェスター・Uだ。「ペースとパワー」の信念を掲げたスールシャールだが、ピッチ上の馬鹿正直な戦術には似ても似つかないものとなっている。彼らはただセットプレーをうまく活かしているだけであり、リヴァプールやマン・Cのような論理的で機能的なプレーはシーズンに10回あるかどうかだろう。

チェルシーはフランク・ランパード監督のもとで文字通り“自由”にプレーしている。その結果、トランジションの場面でディフェンスが全くできなくなり、得点が枯渇してしまっている。選手時代とは違って、今のランパードは得点したときでもベンチ前をうろついているのみであり、チェルシーのフォワードはカウンターに備えるあまりワイドに開きすぎてしまっている。さらに、他のクラブはチェルシーの攻撃リズムを熟知してしまった。その結果、若いフォワード陣はアイデアがなくなってしまっていた。

■マン・Cとトッテナムは世代交代失敗の代償を支払うことに

マン・Cとトッテナムは、見事なまでに期待にそぐわぬシーズンを過ごしてしまっている。2チームともにメンバーの高齢化に見舞われてきたが、絶好の機会であるにも関わらず世代交代が進んでいない。最近のプレミアリーグのクラブはまさに「サメのように」動かないといけない、という見事な証拠だ。

モダンフットボールではハイテンポな動きが必要であり、深く引いた相手DFに侵入するためには動きを入念に共有する必要がある。エリートクラブは常に前に動き続けなくてはいけないのだ。そういう意味で、マン・Cの欠点は比較的はっきりしている。

ヴァンサン・コンパニの後釜探しに失敗したことが裏目にでてしまい、さらにはアイメリク・ラポルテが負傷。フェルナンジーニョがDFラインに下がって空いた中盤は、完全には埋められていない。それでも、マン・Cは危険な状況の左CBを補強しなかった。

最近になって、グアルディオラが戦術を切り替えようとしている兆候がある。フィル・フォーデンの台頭は徐々にパフォーマンスを落としているダビド・シルバを埋め合わせる好材料だ。しかし、今シーズンのタイトル獲得を狙うには明らかに遅すぎる。

マウリシオ・ポチェッティーノは選手の再契約をしない危険性をはっきりと分かっていたが、ダニエル・レヴィ会長は聞き入れなかった。多くの選手の契約を切って縮小を図ったのか、それとも単純に同じクラブで5年も過ごしたのに助言を聞き入れることをしなかったのか、そのどちらだろうか。兎にも角にも、その結果チームは膠着し、戦術は皆無に等しくなってしまった。スパーズは連動したプレスもパスもできなくなっている。

■シェフィールドとブライトンが牽引する「美学あるフットボール」

Chris Wilder Sheffield United 2019-20Getty Images

ボーンマスとサウサンプトンが低迷しているのは残念なことだ。攻撃戦術を得意とするエディ・ハウとラルフ・ハーゼンヒュットルの両監督は、近年のプレミアリーグの戦術に屈してしまい、12カ月以上に渡ってリアクションサッカーを続けている。

予想通り、ニューカッスル、バーンリー、ワトフォード、そしてウェストハムは良くない状況だ。そしてノリッジとアストン・ビラは間延びしたプレーエリアが災いして苦境にあえいでいる。プレミアリーグのほとんどのチームは、未だに失敗の火消しに忙しい状況だ。

そんな中、ブライトンとシェフィールド・ユナイテッドは新鮮な空気を吸えていると言っていいだろう。エリートクラブ以外のクラブも「美学あるフットボール」をすることができるという証拠になった。美学を追求できる秘訣は、ポゼッション・フットボールと深くブロックを形成するディフェンスのバランスだ。ダニエル・ファルケ(ノリッジ監督)とディーン・スミス(アストン・ビラ監督)は、この2チームから学ばなくてはならない。

グレアム・ポッターとクリス・ワイルダーはにこやかにベンチに座っているが、ボールを奪うと自動的にカウンターに入らずに、一度落ち着かせる。しかし、2人の監督の共通点はそこだけだ。

オーバーラップすることで有名なシェフィールドCB陣は戦術を滅多に語らないが、ポジションの変更やサイドを重視した攻撃を展開している。一方でブライトンは、中盤のアーロン・ムーイやパスカル・グロスがウイングのポジションから離れてスペースに入っていくことが重要なポイントだ。

■重要度を増すダイレクターの長期プラン

Ed Woodward Manchester UnitedGetty

今シーズンは6位から15位までが6ポイントの中にひしめき合っているが、プレミアリーグの順位は滅多に密集することがなかった。中位に位置するクラブが強みを発揮できていないことが一部影響している。

これまでのシーズンでは、1月の時点でははっきりとトップ6が形成され、2列目集団を4~5つのクラブが形成するという傾向が強かった。しかし今シーズンは、フロントの失敗が祟ったエヴァートンやウェストハムといったクラブが不調である。戦術についての方針があちこちにぶれてしまっており、長期的な成長の妨げになってしまっているのだ。

エヴァートンはロナルド・クーマン時代の忍耐強いポゼッション・フットボール、ウェストハムはサム・アラダイス時代のダイレクトなアプローチが取られた時期の選手が未だ多数所属している。その結果、エヴァートンはマルコ・シウバ前監督にチャンスを与えることができなかった。同じような理由で、ウェストハムもデイヴィッド・モイーズ監督の下で復調することはなさそうである。これまでの選手獲得方針は、モイーズと真逆のアプローチを取るマヌエル・ペジェグリーニ前監督が作り上げたものだからだ。

トッテナムも次の犠牲者になるかもしれない。ジョゼ・モウリーニョが時期監督として選ばれたということは、ポチェッティーノが何年もかけて築き上げた方針を投げ捨ててでも失敗を避けたいということなのだろう。

マンチェスター・Uの問題点も、一部は戦術のアイデンティティーにブレがあることだ。ワトフォードは一貫性のない経営陣が二転三転しているせいで危機的状況に陥っている。

プレミアリーグのダイレクターたちが包括的な強化戦略を実行していけば、10位以内で終えた翌年に残留争いに巻き込まれるような、目まぐるしく状況が変わるクラブは少なくなるだろう。

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