2017-04-07-real-madrid-zidane(C)Getty Images

なぜジダン監督は多彩な戦術を繰り出せるのか?背景にある“経験と参謀”/コラム

ジネディーヌ・ジダンが初めてレアル・マドリーのベンチにやってきたとき、彼は監督というよりもポスターのようであった。

吹けば飛んでいってしまいそうなポスターとして掲げられたジダンは、白い巨人を導くために必要な戦術を持ち合わせていないと批判を受けた。当初は、まるで監督ライセンスが誰かからプレゼントされたかのように、フットボール選手の経験が無いかのように、そして世界で最も優れた選手のひとりではなかったかのように扱われていたものだ。

しかし、時間の経過とともにこのフランス人監督はベンチに座るだけの理由があることを証明し、知識不足に疑問を呈していた人たちを見返すこととなった。

以下に続く

■ジダンが戦術の豊富さを見せつけた試合

2016年11月に行われたアトレティコ・マドリー戦は、ジダンの監督としてのキャリアを決定づけた試合だった。この試合、ジダンが持つ器用さによってシステムを変化させていったレアル・マドリーは、アトレティコ・マドリーの“チョロ”シメオネ監督に戦術の豊富さを見せつけることに成功した。試合前、シメオネはレアル・マドリーが古典的な4−3−3のフォーメーションを採用すると予測していたはずだ。しかし、ジダンはその裏をかき、4−4−2のフォーメーションでロヒブランコ(アトレティコ・マドリーの愛称)を完璧に封じ込めてみせた。

その夜、非常に合理的なプレーでピッチの隅々まで支配したレアル・マドリーは、結果として2つの目的を成し遂げることができた。一つはアトレティコにいかなる攻撃の糸口も与えないこと(特にファンフランとフィリペ・ルイスがプレーする両サイド)。もう一つはイスコに自由を与え、ピッチ上で輝きを放たせることだ。

セルヒオ・ラモスがベンチに座る中だったが、マドリーのイレブンは完璧な仕事をこなした。ガレス・ベイルとルカス・バスケスがサイドを制圧し、中盤に配置されたマテオ・コバチッチとルカ・モドリッチがピッチを上下に何キロも走り回った。そしてセンターフォワードとして前線に張り付いてコンパクトな陣形を形成したクリスティアーノ・ロナウドがハットトリックを決め、イスコもピッチを躍動した。レアル・マドリーとアトレティコ・マドリーが最後に対戦したこのダービーで、マラガ出身のイスコはレアル・マドリーのシャツを着て以来、最高のパフォーマンスを発揮した。

後半に入ってもアトレティコ・マドリーに反撃を許さなかったジダンは再び柔軟さを発揮し、戦術を変化させた。まずはフォーメーションを4−1−4−1に変え、怪我で欠場していたトニ・クロースの代わりにコバチッチにカゼミロの役割を担わせた。その前でプレーするモドリッチとイスコがチームにさらなるバランスを与え、両サイドは引き続きベイルとルカス・バスケスが務めた。中盤にほぼ5人の選手を配置することで、アトレティコの反撃の芽を摘むことに成功したのだった。

しかも、それだけでは終わらなかった。さらにゴールを重ねたレアル・マドリーはアトレティコにとどめを刺すべく、イスコに代えてカリム・ベンゼマを投入し、今度はフォーメーションを4−3−3に変更してみせた。一試合の中で3種類のフォーメーションを自在に使い分けたレアル・マドリーは、ロヒブランコを寄せ付けなかったのだ。

ジダンはこれまで、監督として多くのオプションを有していることを証明している。4−4−2、4−3−3、4−2−3−1、4−1−4−1、そして3−5−2と、実質ほぼすべてのシステムを知り尽くしている。3バックを採用した試合では好結果を手にしていないものの、良い感触を残しているのは確かだ。UEFAチャンピオンズリーグ準々決勝第1戦、アリアンツ・アレーナで行われるバイエルン・ミュンヘンとの試合や、サンチャゴ・ベルナベウで行われるマドリーダービーで採用する可能性も捨てきれない。

とはいえ、ダービーでジダンが最も採用する可能性の高いフォーメーションは、攻撃時の4−3−3、守備時の4−4−2だろう。その戦術を選択した場合はガレス・ベイルが犠牲となり、チームの勝利に向けて守備にも貢献することが求められるだろう。

■豊富な戦術はどこからきているのか?

戦術レベルの話をすれば、ジダンは監督としての学習期間に、それまでのキャリアで蓄えてきた多くの知識の恩恵を受けた。このフランス人がバイエルンでジョセップ・グアルディオラから学んだことは忘れるべきではないし、ドルトムントでもユルゲン・クロップの仕事を学んだ。また、カルロ・アンチェロッティ監督のもとではアシスタントを務め、ジョゼ・モウリーニョの仕事ぶりも近くで見てきた。また、選手としてはマルチェロ・リッピやビセンテ・デル・ボスケから多くのことを学んだはずだ。キャリアを通じて知名度と異なるスタイルを持つ世界有数の名監督たちからフットボールを吸収する機会に恵まれたおかげで、ジズーは今、幅広い戦術オプションを有している。

さらに、ジダンは優秀なアシスタントにも支えられている。例えば、研究熱心で彼が最大限の信頼を置くダビド・ベットーニ。また、ルイス・ジョピスはGKコーチとしてケイロル・ナバスのパフォーマンスを向上させるだけではなく、対戦相手を細部まで分析する役割も担う。そのおかげでジダンは常に最高レベルの情報を手にしながらチームを指揮できるのだ。こういったスタッフ陣が、ジズーの監督としての輝きをさらに増すことを助けている。

ジダンが収めてきた結果を見れば、彼に懐疑的な人にも明らかだろう。ほんの1年で3つのタイトルを勝ち取った後も、リーガで首位を走り、CLでも勝ち残っている。彼の戦術の豊富さは、それを裏付ける様々な要素によってもたらされているのだ。

文=フアン・ イグナシオ・ガルシア=オチョア/Juan Ignacio G-Ochoa(マルカ紙マドリー番)
協力=江間慎一郎

■放送日程

レアル・マドリー対アトレティコ・マドリー
4月8日 22時30分〜

広告