Xavi Hernández Barcelona

【戦術分析】チャビは正しい道を歩んでいるのか?「本当のバルセロナに戻る戦い」を西紙分析担当が紐解く

現役時代、バルセロナに数々の栄光をもたらしたチャビ・エルナンデス。現役引退後は当然のように指導者の道へ進み、カタールでの2年間で7つものタイトルを掲げてきた。そして昨年11月、リオネル・メッシを失い、深刻な財政難にも苦しみ古巣を救うため、指揮官として復帰している。

そんなチャビだが、ここまでの結果だけを見れば「最高のスタート」とは言い切れないのかもしれない。ラ・リーガで指揮した8試合の戦績は4勝3分け1敗。チャンピオンズリーグでもベンフィカに勝ちきれず(0-0)、バイエルン・ミュンヘンには圧倒的な力の差を見せつけられた(3-0)。

以下に続く

それでも、スペイン大手紙『as』の分析担当を務めるハビ・シジェス氏は、ここまでのチャビ・バルセロナは「正しい道を歩んでいる」と断言する。そう言い切る理由を、ピッチ上の狙いやもたらした変化から考察する。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当

翻訳=江間慎一郎

正しい道

barcelona-xavi(C)Getty Images

自分たちバルセロナは一体どうして、ここまで大きな存在になったのだろうか――。深刻な危機に直面したときこそが原点に立ち返る絶好のタイミングとなる。チャビ・エルナンデス招聘の背景には、選手時代にアイドルだった彼を批判からの盾として利用するだけでなく、そうした動機も含まれていたはずだ。

スタイルを取り戻して、自分たちのプレーに対して傲慢スレスレの自信を持つ。バルセロナがそうするためにチャビ以上の適任は存在しない。選手としての彼は自分自身よりチーム全体を輝かせた、まさにバルセロナというフットボール概念の体現者だった。監督としての効果性には疑わしいところもあるかもしれない。が、バルセロナの哲学とアイデンティティーをともにしていることについて、疑いの余地などこれっぽっちも存在しない。

カタールというフットボール的競争力のまだ低い国で、指揮官としての最初の成功をつかんだチャビ。これ以上、バルセロナ監督就任の列車を乗り過ごすことはできなかった(日本の山手線レベルでバルセロナ監督の列車がやってくるのは彼の特権だ)。彼はボロ雑巾のようになったバルセロナで、権力を手にすることを選んだ。この場合の権力は、緊急事態の中でただ責任を背負わされ、時間との戦いに臨むことを意味するが、現在どうなっているかと言えば……チャビはこの戦いに勝っている。時間に対して先制点を決め、リードを奪っているのだ。

チャビのバルセロナは、正しい道を歩んでいる。もちろん、その道は簡単に歩けるものでもない。チームの総合的なタレント力は落ち込んでおり、負傷者もキリなく続出(アンス・ファティ、ペドリ……etc)。それでも、輝かしい未来が待ち受けているであろう若手たちが数多くいるのは確かで(アラウホ、エリック・ガルシア、ガビ、ニコ、アブデ、ジュグラ……etc)、チャビは彼ら全員にバルセロナがどうプレーするものなのかを手取り足取り教え込んでいる。いつの日か、バルセロナが本当のバルセロナに戻るために。

チャビの狙いと変化

Xavi Pique Barcelona 2021Getty

しかし、チャビがクラブ帰還を果たしたとき、“第三の選手(三人目の動き)”で優位性を導くポジショナルプレーについて、チーム内の何人かが理解していなかったというのは奇妙な話だ。それこそがバルセロナを他チームと一線を画す存在にしてきたのだが……。いずれにしてもチャビが、自分たちを他チームと一線を画す存在にしようとしていること、「自分たちこそがフットボールをプレーしている」と声高に主張している(または、したい)ことは、ここまでに率いたわずか数試合で確認することができる。

バルセロナのパフォーマンスは、明らかに改善された。使用するシステム(1-4-3-3か1-3-4-3)はどうでもいいとしても(クライフ一派にとっては「ただの電話番号くらい意味がないもの」である)、チャビが手を加えたことで、確かに戦えるチームとなっている。とりわけ良くなっているのが、ハイプレスだ。現在の彼らのプレスは、チームとして意思疎通が取れており、インサイドハーフ(ガビ)が1トップと同じ高さを取る1-4-4-2で相手を圧迫。中央のスペースを閉じつつ、どこで追い込むか見当をつけながら、相手が苦し紛れに出すボールをブスケツや両センターバックが先んじた動きで奪取する……。チャビはバルセロナに、往年のプレスの仕掛け方を思い出させている。

今のバルセロナは、どの選手も大量の汗を流すことを厭わず、ライン間のスペースを極力なくすよう努める。相手がボールを保持したとき、怠惰そのものだった前監督クーマン率いるチームの面影は、もうそこにはない。ただし、トランジションとセットプレーの守備についてはまだ改善が必要だ。後方に走るときの守りはお粗末で、意図的なファウルもなければ手薄なサイドへの警戒も足りず、自陣ペナルティーエリア内でガツンとしたプレーも見せられない。ボールを失ったときの準備は、相変わらず課題のままとなっている。

バルセロナはプレスほか、ポゼッション時のオートマティスムも取り戻した。ここでもチャビの厳格かつ体系的な指導があったのは、言うまでもない。ビルドアップでは後方に3人が並び(エリック・ガルシアは良質なパサーだ)、その前にブスケツが1人位置して距離感や今後の展開について調整を行なっていく。DFがそのままボールを持ち運んで、相手の最初の防衛ラインを突破することも珍しくない。そしてインサイドハーフ(フレンキー・デ・ヨングと、ニコかガビ)は、それぞれスペースを分け合いながら動き回り、相手選手たちの頭にある守備的秩序を掻き乱していく。以上が、バルセロナがポジショナルプレーで優位性を生み出すための鍵となっている。

現在のバルセロナは、ストライカー(メンフィスかジュグラ)が下がってきてインサイドハーフが生じたスペースを突こうとするとき、これまでと異なる雰囲気が漂う。それはチャビがガビやニコに対して、点を取る意識をしっかり植え付けたためだ。今のバルセロナはより中央でゲームを操るようになっており、それゆえに両ウィングに対して、より良い状況でボールを出せるようになった。

そう、チャビにとってウィングは絶対に欠かすことのできないピースである。彼はいつだって両ウィングをワイドに開かせているが、その意図は明確そのもの。相手が形成する守備ブロックの幅を広げて亀裂を生じさせ、脆くなった中央を突こうとしているわけだ。デンベレとアブデの役割はまさに重要で、ボールを運び、相手DFをひきつけ、可能ならば中へと切り込んでいかなければならない。とりわけデンベレは、ついに世界トップクラスと言われていた才能の片鱗をのぞかせている。彼のアナーキーとも呼べるプレーはチャビのバルセロナにとって、とても興味深い武器だ。指揮官が契約延長を切望しているのも理解できる。

時間

XAVI BARCELONA Getty Images

チャビは短い時間の中で、かなりの機能をチームに詰め込んだ。エルチェ戦でジョルディ・アルバをインサイドハーフのようにプレーさせるなどの示唆に飛んだ実験含めて。チャビのことを保守主義だと批判することは絶対にできない。彼はバルセロナに変化をもたらすためにやって来たのであり、そのために全精力を注いでいるのだから。

確かにチャンピオンズリーグ敗退は、チャビとチームのクレジットを随分と削ってしまったのかもしれないが、しかしベンフィカ戦のパフォーマンスは素晴らしいものだったし、時間をかければこのバルセロナはまだまだ良くなるはず。

結局のところバルセロナはビッグクラブであり、プレースタイルとともに死ぬのではなく、限られた時間の中で結果を出すことが求められる。が、それでもチャビのプロジェクトは感触が良く、もう少しだけ時間が流れることを許容しなくてはならない。バルサはかつての存在に戻るためのベースを、彼とともに構築している最中なのだから。

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