2021-07-31-JapanU-24©Getty Images

現地取材記者がU-24日本代表の東京五輪を総括!JFAも認識する指導者養成の課題

両氏は、『GOAL Japan』のYoutube番組『しゃべGOAL』に登場。番組の中で繰り広げられた選手選考や森保一監督の采配についての議論を取り上げる。(構成=上村迪助/GOAL編集部)

■森保監督の誤算は

MF久保建英やMF堂安律、DF冨安健洋らこの世代の中心選手たちに、MF遠藤航、DF酒井宏樹、DF吉田麻也という強力なオーバーエイジ(OA)を迎え、史上最強の五輪代表とも称されたU-24日本代表。大会では、グループステージを初めて全勝で突破するなど華々しいスタートを切っていた。

しかし、試合を勝ち進むにつれて疲労の色は濃くなっていき、準決勝でU-24スペイン代表と120分間に及ぶ死闘を繰り広げた末に敗戦。3位決定戦のU-24メキシコ代表戦では、それまで獅子奮迅のパフォーマンスだった遠藤がPKの判定となるファウルを与えたところから先制されると、最終的には1-3で敗れて53年ぶりのメダルには届かなかった。

相手への称賛はもちろん、日本が4位で終わった要因については様々な議論がなされているが、そのうちの一つは開幕直前に18名から22名に変更となった大会メンバーが有効に使えていなかったのではないかという点だ。

例えば、ボランチの田中碧や遠藤らがフル稼働となった一方で、センターバック(CB)の町田浩樹や瀬古歩夢には出場機会がほとんど与えられなかったし、冨安、上田綺世、三笘薫は負傷からの回復状況を見ながらの慎重な起用となった。

川端氏はこのことについて、「一番の誤算は上田、三笘のところ」とする。

「ただ、難しかったなというのも正直なところです。(大会直前の)上田のケガがあって、最後までああいう状態だったのなら、早めに外して小川航基を呼んでおけばよかったのかもしれない。ただ、ケガは治る、初戦にも間に合いそうだとなったときの判断は難しかった。三笘も3位決定戦で素晴らしかったですよね。あのパフォーマンスを最初から出せる状態であれば…」

といった見方をすると同時に、結果論で語るとすればボランチの枚数を増やすべきだったと指摘する。

「ボランチの選手がもう一枚いたらというのは、結果的にあります。それは(大会中のトレーニングで)冨安がケガをしてしまって、ボランチの控えだったはずの板倉(滉)がそちら(CB)に回った。だから冨安の穴は板倉が埋めたけど、板倉の穴を埋める人がいなかったといった状況になってしまった。その中で、ボランチの人繰りのところが苦しくなって、その負担がだんだん上のステージに上がるほど出てしまったというところはあります」

とはいえ、「CBってもともと出場停止が発生しやすいポジションなので、実際日本はマルチ出場停止の危機もかなりありました」とも。森保監督の立場から「リスクヘッジでCBに控え選手を置きたくなるという気持ちも分かるんです。サブポジション的にボランチをこなせる選手は、中山(雄太)とか他にもいたので。例えば吉田と冨安ダブル出場停止みたいな状況を考えたときにどうすればいいのか…」と心中を推察した。

CBとしてバックアップメンバーとして招集された町田、瀬古は結果としてほぼ起用されなかった。しかし、板倉の穴があいたときに二人のいずれかをあてていれば、また違った風景が見られていたかもしれない。

■攻撃面での課題が露呈

japan-kubo-mexico(C)Getty Images

次に、試合中の采配にフォーカスしたい。日本は、グループステージこそ好調に駆け抜けたものの、決勝トーナメントでは三笘が個人技で奪った1得点しか奪えていない。林氏は「守備の戦術プランがすごく良かった」と語りつつも、さらに上を目指すためには攻撃面での組織的な動きが足りなかったのではないかと論じた。

「もう少し自分たちから相手を壊していく。相手が来るから守備はできるけど、自分たちはどうやって相手を崩していくのか。そこが見られなかった部分でもある」

決して、取り組みがなかったわけではない。しかし、チームとしてさらに成熟させられていればと悔やむ。

「もちろん、やっていこうとするゲームモデルはあったと思うんです。でも、やっぱりスペイン戦、メキシコ戦もそうですけど、どうしても単騎というか、1人で攻めていくことも多いし、誰がそこに絡んでいくかとかが見えなかった。チームとして攻撃の形をプラスアルファする工夫があって良かったかなと」

そういった攻撃面での課題については川端氏も「気持ちがあり過ぎちゃったところがあって。『俺が決めなきゃ、何とかしなきゃ』っていうのをそれぞれの選手が強く持っている中で、ちょっと視野が狭くなっている。もっとシンプルにやればもっと簡単なのにという状況でも難しくしちゃうみたいなのが…。本来の彼らであればそんなことないのに」と同意する。

■監督ライセンスについては現場も意識

決勝では、U-24ブラジル代表とU-24スペイン代表が激突し、個でも戦術面でも高いレベルの争いを繰り広げた。日本の3位決定戦においても、U-24メキシコ代表が立ち上がりからフルスロットルで攻勢をかけ、セットプレーで得点を重ね、試合巧者ぶりを見せつけた。

3位決定戦後に「反町(康治)技術委員長とも話しました」と明かす川端氏は、日本サッカー協会(JFA)も指導者育成の取り組みを変えていく意識を持っていることを伝えている。

「この大会を受けて、日本の指導者養成をどうしていくか、どう変えたらいいのか。反町さんなりにいろいろ腹案を持っているなと。単純に言うとS級ライセンス。今は限られた人が取れる形になっているのですが、もっと門戸を開いたほうがいいんじゃないか。これ僕は前から言っていたんですけど、反町さんは普通にやるつもりでした」

反町技術委員長は、今回の大会だけでなく、日常の風景からその必要性を強く感じいたようだ。

「言っていたのは、『自分がランニングをしている。サッカーの練習してるなと思って覗くと、非常に残念な指導者が目につく。これでしょ』と。『ここから変えないと結局日本サッカーって本当の意味で強くなれないよね』と」

日本サッカーにとって、あらためて世界の強豪国の高いレベルを感じる機会となった東京五輪。結果としてメダルを手にすることは叶わなかったが、今大会の経験は漠然とした“経験”ではなく、具体的な“改善点”として整理され、現場は次に向けて動き始めている。

▶田中碧が感じた「世界との差」とは?全試合取材記者が語る「日本が強くなるために」【しゃべGOAL:東京五輪総括|前編】

▶森保一監督が指揮したメリットと誤算…全試合取材記者が見たU-24日本代表【しゃべGOAL:東京五輪総括|後編】

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