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【サッカー日本代表/戦術分析】「嘘だと思うならイタリアを見ればいい」ベトナムがもたらした教訓。西紙分析担当が目にしたサバイバル

 日本代表は29日、カタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の最終節でベトナム代表をホームに迎えた。W杯出場を決めた前節のオーストラリア代表戦から先発9名を入れ替えて臨んだ一戦は、1-1で引き分けるという結果で終えている。

 最終予選を通じて見つめてきたスペイン大手紙『as』の試合分析担当のハビ・シジェス氏は、森保ジャパンの可能性に期待を寄せながらも、ベトナム戦で露呈した脆弱性を指摘した。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎

以下に続く

■指揮官の正当性が証明

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 ベトナム戦は想像以上の教訓を垂れていた。今回の日本のように自分たちが楽しむためのプレーしてはならない。すべてで劣る対戦相手などもはや存在しない、より均衡している現在のフットボールシーンにおいて、緩慢に試合に入ることなど許されないのだ。

 強豪と呼ばれる代表チームでもあっても、勝利は容易に手に入るものではなくなった。嘘だと思うならばイタリアを見てみればいいし、だからこそフットボールにおけるアジアの先進国、世界の途上国である日本も、さらなる躍進のチャンスを手にしているはずなのに。

 加えて、このベトナム戦は森保一の最近の決断、スタメン選出の正当性を証明するものにもなった。前半にプレーした選手たちは輝けず、本来レギュラーの面々(伊東純也、守田英正、田中碧、南野拓実)が出てきてから、日本はここ最近に見せていた良質なパフォーマンスを取り戻している。勝ち点などの数字、記録がまったく意味をなさない一戦であったものの、森保にとってはこれまでの考えを深める、整理するきっかけにはなったはずだ。

■久保は岐路に立たされている

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 控え選手たちをまとめて出場させた日本だが、この試みは失敗に終わっている。とりわけ旗手怜央と久保建英は、大切なチャンスを逃した格好だろう。森保はフォーメーションを変えることなく、これまでのプレーアイデアを維持しようと試みた。が、これまでと異なる選手名の並びは、これまでのパフォーマンスを再現できなかった。

 唯一良かったのは、三笘薫。このインターナショナルウィークの偉大な勝者は、世界中に植え付けた印象をそのままなぞらえている。彼が左サイドで見せるプレーだけが、あまりに面白みのない日本で、眠気を覚ましてくれる刺激だった。1対1の解決能力が非凡で、ラストパスの適切な判断力も見事。どこでプレーに関与し、誰と連係すべきかという意図がはっきり感じられる選手だ。

 では、ほかの選手はどうだったのか……。旗手はチームプレーの重荷を背負うことができず。ポジショニングが常に悪く、適切な高さが取れないばかりか、ベトナムの中盤が空ける隙間を生かそうという意思がまったく感じられなかった。柴崎岳についても調子が良いとは言い難かったものの、それでも失われることのない彼本来のクオリティーを時折ではあるが示している。中盤3枚の中では、唯一原口元気だけが相手DFとMFの間に入り込んで、縦への攻撃を可能にしようと試みていた。

 そうやって良質なチャンスが生まれたことからも分かる通り、日本のMFはその位置でボールを受け取って攻撃を活性化させなくてはならない。日本は中盤が適切なレベルになければ、できることがほとんどなくなってしまう。だからこそ、この一戦で苦しむことになったのだ。今回は試合をコントロールできず、輝かしいプレーは影を潜めた。もれなく久保も、曇っていた。

 日本の大いなる希望は、試合の主役になれなかった。少なくとも良い意味での主役には……。右サイドに据えられた彼は機能していなかった。というよりも、機能することを忘れていた。最も良いプレーを見せられるはずの中央のレーンから攻撃を仕掛けなかったために。彼はあまりにも楽をしていた。ボールを持っていないとき、相手の中盤の背後を取ったりセンターバックとサイドバックの間を突いたりする動きが見られなかった。ずっと足元でボールを受けようとしていたが、現代フットボールではメッシであってもそんな真似は許されないし、どこにも言い訳をする余地などない。

 久保は現在、自分がどういった選手になるのかが決まる岐路に立たされている。今回は最初に右サイド、後半からは交代するまで中央にポジションを取るようになったが、そのクオリティーを考えれば代表チームで結果を出して然るべきだろう。森保は彼のプレーに失望を覚えたに違いない。

■チームポテンシャルは間違いなくある

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 森保は同様に、ベトナムの先制点にも納得がいっていないはずだ。セットプレーはワールドカップのような短期大会で、チームの進退を左右する「運」のプレーとなるが、日本の守備はそれを「運」にし切れていない。決まったら相手にとってラッキーなのではなく、相手に必然的に決められている。あれだけ単純なファーへのCKで、なぜ守備の焦点がぼやけてしまうのだろうか。ファーでベトナムは3対2(吉田麻也&中山雄太)の局面を作り出しており、加えて中山はグエン・タイン・ビンのシュートを前にリアクションを取ることができなかった。こうしたミスは、あまりに許し難いものだ。

 森保は、結果などさして重要ではない試合で、目を背けたくなる状況を変える必要に迫られている。伊東、それから田中、守田、南野がピッチに立ち、人々はようやく日本の姿を認めることができた。伊東、三笘がサイド、田中、守田、南野が中央に位置した日本はベトナムを彼らのペナルティーエリアに閉じ込める。サイドの2人はドリブルやスペースを突く動き、壁パスなどで相手の守備を確かに削っていた。

 勢いを手にした日本に欠けていたのは、ゴールのみ。何も目新しいことではなく、しかし喫緊の課題というわけでもない。ここスペインでも、代表監督のルイス・エンリケは点を取るストライカーよりも、プレスを仕掛けられたり機動性のある選手を優先的に招集している。得点については、ゴールの近くでプレーしていれば、外すことがあったとしても最後には決まるという考えだ。森保もそのように考えて、カタールでは大迫勇也、浅野拓磨を彼のストライカーにすべきだろう。

 さて、こうして日本は今回のワールドカップ予選を終えた。軌跡としては右肩上がりで、最後に引き分けて……。いずれにしろ手応えはあった。遠藤航、守田、田中の中盤はベトナム戦の内容を見る限り絶対的で、そこに伊東のファンタジーと南野の覚醒が加わり、三笘も重みのある選手となっている。カタールへの道程で、日本は徐々にではあったが確かな足取りを見せていった。今の彼らには戦術的構造がある。高いプレーリズム、創造性あるプレー、コレクティブな働きを何よりも優先する確固とした戦術的構造が。

 もちろん、磨かなければいけないことはまだまだある。乱雑になってしまう守備、セットプレーでの永遠の脆弱さ、外してしまうゲームプラン……。日本は、森保がそういったことも解決してくれると信じなければならない。指揮官を含めて、このチームには間違いなくポテンシャルがあるのだから。

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