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欧州組・田中碧が受ける洗礼…サッカー日本代表で躍動もドイツで苦戦、いま示すべき“新たな心臓”としてのプレー

 日本代表は11月にベトナム代表、オマーン代表とのカタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選を戦う。デュッセルドルフで経験を積むMF田中碧にとっても、この連戦は大きな意味を持ちそうだ。

■豪州戦で大きなインパクト

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 10月、日本にとって勝利が必要だったオーストラリア代表戦。勝利の立役者の一人となったのは、東京五輪以降で初の代表招集を受けた田中碧だった。

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 森保一監督が新たに採用した[4-3-3]システムのインサイドハーフを任されると、中盤の三角形を組んだ守田英正、遠藤航と共に存在感を発揮。巧みなポジショニングでボールを受けては周りを動かし、チャンスとなればゴール前に出ていく積極性を見せる。結果、8分にはチームの先制点となるゴールを奪取。土俵際に立たされたチームが手にした重要な勝利に、攻守において大きく貢献することになった。

 A代表3試合目にして抜群のパフォーマンス。「僕自身が成長して、チームを引っ張っていくくらいの立場にならないといけない」と力強く言い切る男からは、最終予選のキーマンになるのではと思わされるほどのインパクトを与えられた。

 オーストラリア戦で輝かしいスポットライトが当たる2ヶ月前、田中は東京の地で悔し涙を流していた。U-24日本代表として挑んだ東京オリンピックで、あと一歩メダルに届かず4位。決して何もできなかったわけではない。ただ、世界との差を理解していた上で、改めて差を感じさせられていた。

「力不足だと感じました。自分のプレーがすごく良かったかと言われると、そうではないけど、やれる感触はあった。ただ、チームの中のボランチという視点で見たとき、ボールを保持していても保持していなくてもゲームをコントロールするという点で、相手チームの選手とボランチとしての能力にすごく差があるなと感じました。細かいところを見れば全然やれます。でも、本当にもっと大きなもので見たときにまだまだ差があるなと感じたんです」

 自分のプレーだけにフォーカスするのではなく、チームの中にいる田中はどうだったのか。それを追求することで新たな可能性を探ることができる。そう考えたとも口にした。

「勝つために何をしなければいけないのかを考えなくてはいけないなと。仮にあそこで自分たちがスペインに勝っても、たぶんスペインより強いとは言えない。彼らと試合をして本当にスペインより強くなりたいと思ったし、そのために何をしなければいけないんだろうと考えるようになりました」

 その一つの答えが欧州で研鑽を積むこと。自分が知らない国、自分が知らないチームで何ができて、何ができるのか。それを理解する上でも海外での挑戦は必要不可欠なものだった。

■代表から帰還後に出場機会が減少

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 デュッセルドルフに渡って数ヶ月。田中は序盤こそ良いスタートを切った。だが、オーストラリア戦後、ドイツに戻ってからは苦しい戦いが続いている。チームの結果がなかなか出ない中で徐々に出場時間が減り、スタメンから途中出場へ。直前の試合では出場なしも経験した。

 ただ、これはいずれぶち当たる一つの試練だったと言っていい。代表とクラブチームを行き来する欧州組の難しさは理解していたこと。代表に行っている期間にチームが新たな形に取り組むことだってあるし、戻ったら定位置が無くなっていることもよくあることだ。そういう中で、地位を確立していくのが欧州組でもある。田中はこの壁こそが大きな意味を持つことを理解している。

「自分が活躍しないと次の道はない。彼らの判断基準、技術レベルに合わせて動き、立ち位置やプレーを変えないといけない。ブンデス2部はフィジカルチックなサッカーで、いろんな壁にぶつかっているけど、それを乗り越えればより良い選手になれると思う」

 しっかり現実と向き合う姿は田中らしい。以前にもこんなことを話していた。

「海外で日本人のボランチが活躍するのはすごく難しいと思います。それこそ言語も話せないので。どんなにうまくても不利な状況なわけです。それに190cmのアフリカの選手や180cm後半のドイツの選手がいっぱいいるのに、180cm手前くらいの日本人のボランチで言語を喋れなかったら、それは需要ないなと思います。だから、自分でなければいけない理由を示さないといけないんです」

 今回、再び田中は日本代表に選出された。クラブで出場機会を失っている状況を考えれば、難しいタイミングだったことは間違いない。それでも日本を代表して戦う以上、この活動でアピールすることが何より求められている。むしろ、そうしなければクラブに戻っても居場所を取り戻すためにさらなる時間が必要となるのは明らかだ。

 クラブと代表でチームスタイルや自身の役割は違う。だが、そういった中で様々なことに順応してこそ、より良い選手になれるというもの。今の田中にとって、日本代表のキーマンのような存在になること自体が成長へのステップとなる。

 11月シリーズはどんなポジションで、どんな役割でプレーすることになるのか。ここまで日本代表やデュッセルドルフで培ってきたものをピッチで表現することで、日本に勝利をもたらす活躍を見せてくれることを期待したい。

取材・文=林遼平

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