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【徹底分析】“完璧な機械”バイエルンがPSGを破った理由…時代の最先端を行く王者が示した3つの要素

異例の長期戦となった2019-2020シーズン。フィナーレを飾るチャンピオンズリーグ決勝は、クラブ創設50周年で初優勝狙うパリ・サンジェルマン(PSG)をハンジ・フリック体制で圧倒的な強さを見せるバイエルン・ミュンヘンが1-0で下し、史上初の全勝優勝で7年ぶりとなるビッグイヤーを掴んだ。

試合序盤から両者猛烈なプレッシングを仕掛け、随所にハイレベルな攻防が繰り広げられた。一進一退の中、先発に抜擢されたキングスレイ・コマンが59分に先制弾。このゴールが決勝点となり、バイエルンが3冠を達成している。

近年まれに見るハイレベルなファイナルであったことは間違いない。そんな大一番を分けたものは何であったのだろうか? バイエルンがPSGを上回った理由はどこにあるのだろうか? スペイン大手紙『as』で試合分析を担当するハビ・シジェス氏に紐解いてもらった。

以下に続く

文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎

■時代の最先端を行く王者

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パンデミックの日々に行われてきた奇妙なチャンピオンズリーグは、奇妙なことなど何もない決勝で幕を閉じた。不滅たるバイエルン・ミュンヘンが、その思想と伝統でもって再び欧州の覇権を握ることで。彼らがこの勝利で声高に叫んでいたのは、余裕、良質なプレー、勇敢さ、だった。相対的に見て、その三つの要素はパリ・サンジェルマン(PSG)に足りていなかった。PSGは準決勝、そしてこの決勝でよりチームとしてプレーしたが、ときに頼り過ぎてきた個の力が不発に終わっている。

強大なバイエルンは耐えなければならない時間帯にしっかりと耐えて、その後チアゴ・アルカンタラのプレーを通じて本来の凄みを発揮。最後にはフリックが率いるチームらしく、ピッチ中央までDFラインを上げて相手陣地に押し入り続けた。今回の決勝では、極めて高いプレーリズムで、相手に大きな圧力をかけるフットボールの流行を確認することができたが、そうしたフットボールにおいてバイエルンに勝るチームは存在しないように思える。

■序盤のPSG攻勢とキーマン

20200823 Ander HerreraGetty Images

バイエルンは序盤こそ、試合の舞台にも対戦相手にも怖気付くことのなかったPSGに苦労を強いられている。トーマス・トゥヘルのPSGは相当に高い位置からプレスを仕掛け、ネイマール、彼とトリデンテを形成する内の一人がバイエルンのセンターバック2枚に襲い掛かり、またチアゴにはPSGのメトロノームであるアンデル・エレーラがマークについた。PSGのこのハイプレスを前にバイエルンは小さく縮こまることになり、チアゴよりもゴレツカにボールを渡す回数が多くなった。PSGはバイエルンをサイドに追い込んで、そこから彼らを喰らおうとし、圧迫されるバイエルンはセンターバック2枚がニャブリとコマンにロングボールを出す苦肉の策に終始している。

PSGは、足の運びが軽やかな内はじつに快適そうだった。バイエルンがハイプレスをかいくぐったときにはミドルゾーンまで後退して、罠を伴う1-4-5-1の守備ブロックを形成。罠というのは、ディ・マリア&ムバッペが両サイドバックの守備を助けることなく、デイヴィス&キミッヒの後方を狙えるポジショニングを取っていたことだ。バイエルンはバルセロナ、リヨンとの試合でも、DFラインを高く設定しているために両サイドバックの背後を突かれていた。コマン&ニャブリと相対するケーラー&ベルナトの守備を助けていたのは実質的にエレーラとパレデスで、デイヴィス&キミッヒのオーバーラップにも気を配っていた。特にエレーラは準決勝ライプツィヒ戦と同様に出色の出来。ケーラーのカバーのほか、チーム全体のプレスの調整役を買って出て、攻撃面でも周辺状況の把握能力を駆使して存在感を放った。ディ・マリア、ムバッペの決定機を導いたパスは見事としか言いようがない。

一方でバイエルンも、そのプレスの強度を決して落とさなかった。彼らはこのチャンピオンズを通してそうプレーしてきたし、それは決勝であっても変わらなかった。フリックはPSGの中盤の選手たちが背を向けてプレーするように仕向け、ネイマールへのパスを断とうとした(彼がボールを受けた回数は36回)。ブラジル人FWはそれでもチャンスを享受していたものの、有利な状況でボールを受けることはほぼなかった。マルキーニョスもパレデスもビルドアップに苦慮して、ムバッペがそのチャンスをふいにしてしまったカウンターを一回成立させるのが関の山。アタッキングサードでバイエルンの脅威になっていたのは、エレーラだけだった。

■“完璧な機械”

Bayern Munich Champions League 2019-20Getty Images

バイエルンはボールを自分たちのものとして(ポゼッション率62%、パス成功率84%)、PSGはその劣勢を規律あるコレクティブなプレーでもって対等に持ち込もうとしていた。トゥヘルのチームが手にしたチャンスは、トランジションから生まれている。バイエルンがデリケートなゾーンで犯したミスからネイマールやムバッペが明確な決定機を迎えたが、しかし決定力のなさとノイアーのセーブを前にそれを逸してしまった。

詰めの甘さを露呈するPSGを前に、バイエルンがリアクションを見せた。PSGがプレスの強度を落としていく、または規律が乱れていくのは予想できたことだった。そこからチアゴのリサイタルが始まっている。彼のコマンを探す、パレデスの背後を狙うプレーは、確かにPSGの弱点を突くものだった。PSGはエレーラがその献身性を発揮したが、それでもケーラーがコマンを止めることができず。チアゴはパレデスの戦術的判断力のなさ、プレスのタイミングのズレもしっかりと把握していた。

ただし、そんな極上のチアゴがリーダーシップを発揮しても、バイエルンは過去の試合のように精緻な攻撃を見せるわけではなかった。少なくとも、フィニッシュフェーズのプレーでは。だが、この試合が何を求めているかという点では、とても賢明だったと言える。前半、彼らはパレデスの後方、またはレヴァンドフスキが強さを発揮するクロスからゴールを目指し、その二つの狙いからゴールを生み出してみせた。チアゴがマークのない状態で顔を上げると、前方にはミュラーと内に絞っていたキミッヒがいた。そしてマルキーニョスが誤ってチアゴに駆け寄るとPSGの守備バランスが崩壊。パレデスが中央を締めようとしたことで、キミッヒがサイドでボールを受けてドリブルを仕掛けられるスペースを得た。その結果、キミッヒはペナルティーエリア近くでボールを受け、そのクロスからコマンがケーラーの劣悪なポジショニングを突くことに成功している。

フリックは今季を通して、相手の中盤の背後に何人もの選手を配置する戦法を取ってきたが、これがはまった格好である。失点したPSGは、もはやアイデアが枯渇していた。ヴェッラッティの投入はパス回しの基軸を与えたものの、エレーラとドラクスラーの交代は最後の猛攻を仕掛ける上での助力にはならず、これまで何度も英雄となったネイマールとムバッペは期待されていたような水準になかった。自ゴールから40メートル離れた位置でプレーするなど最後まで勇敢さを保った、“完璧な機械”であるバイエルンは、PSGにとってあまりに巨大だった。バイエルンには、その長い歴史を誇る理由が確かにある。対してPSGは、その歴史を構築することに苦心している。

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