2017-04-28-kawasaki-kobayashi©Getty Images for DAZN

遂に“目覚めた”川崎フロンターレ…小林悠が背負う主将、そしてエースとしての自覚とは/コラム

エースストライカーとキャプテン――今シーズン、ふたつの重責を担う川崎フロンターレの小林悠は、きっぱりと言い放った。

「前半をゼロで終えても、後半はどうなるのかなという思いがあった。攻撃がうまくいっていないから、正直、どうすれば得点が取れるのか、どうやったら相手を崩せるのかなという思いがありました」

冒頭から不安を煽るようなコメントを引用したが、川崎Fのサポーターには安心してもらいたい。これは明治安田生命J1第7節までの戦い方について聞いた小林の回答である。彼の言葉には、しっかりと「(J1第8節の)清水エスパルス戦の前までは」という前置きがあった。

昨シーズンまでコーチを務めていた鬼木達が監督に昇格し、今シーズンに臨んだ川崎Fは、新たなチームを作っていく過程で、攻撃の核となる連係を再構築する必要があった。しかしながら、メンバーも入れ替わり、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)との連戦を戦う中ではケガ人も続出。自慢のパスワークはうまく機能せず、第6節のヴァンフォーレ甲府戦からACLの広州恒大戦を含めて3試合連続で引き分けという結果に終わった。

「(1トップの)僕にボールを当てたとしても周りにフォローがいないから、外に逃げるしかなかった。だから、前線でも孤立しているところはありましたよね」

攻撃がうまくいかないもどかしさは、小林だけでなく、司令塔の中村憲剛も感じていた。

「正直、僕ですら若干、どうやって攻めればいいんだろうって感じでしたからね。きっと、周りは余計にそう思っていたかもしれない」

苦しい状況を打破すべく、指揮官は「もう1回自分たちのサッカーに立ち返ろう」と、原点回帰した。そうして迎えた清水戦は、試合終了間際に追いつかれて引き分けたが、明らかにそれまでとは戦い方に違いがあった。変わったのは「中」への意識である。小林が、その変化を教えてくれた。

「簡単に外を使わなくなりました。サイドから中央という攻撃は難しかったんですけど、一度、中を使うことでサイドのスペースも空いてくる。それこそ中を使わなければ、相手も怖くないですからね」

確かに清水戦は、執拗なまでに縦パスにこだわっていた。2列目の中央に大塚翔平が入ったことで、孤立していた小林のポストプレーも活きるようになった。ゴールへ向かう姿勢、パスワーク、連動性と、すべてにおいて迫力は増した。いや、取り戻したと言ったほうが正しいだろう。小林は続ける。

「清水戦で攻撃に手応えを感じられたので、そこがきっかけになりましたよね。前半のパス回しが後半になってジャブのように利いてくるのも分かった。(1-0で勝利したACLの水原三星戦と)ここ2試合は、このままいけば相手を崩せるという、自信というか、手応えが確信に変わりましたよね」

今季の小林は1トップを務めており、エースとして相手DFのマークも集中すれば、前述したようにポストプレーも求められている。前線からの守備も含めて、チームにおける役割は多岐にわたることもあって、肝心の得点は3得点にとどまっている。

「空中戦であり、ポストプレーを考えたとき、今のメンバーを見たら、自分が真ん中を務めるのが一番合っているとも思っている。今は(自分の得点以上に)チームが勝つことがすべてですから。いろいろな役割をやることも自分自身の成長につながりますからね」

いかにもキャプテンらしいコメントだったから、ストライカーとしての小林の意見を聞きたくなった。だから、エースとしての定義を聞いてみた。

「やっぱり、苦しい状況でゴールを決められる選手だと思う。今のうちは何点も決められるチームかと問われたら、そうではないと思いますし、数少ないチャンスをどう決めるかというのがエースだと思うので、勝負を決める、チームを勝たせるゴールを決めるために努力しなければいけないですよね。1試合に1回はチャンスが来るので、そこを決め切るかどうかは自分次第。そこに尽きるかなと」

今季の川崎Fは、苦しい時期も粘り強い守備により負けてはいないものの、公式戦の連勝が未だにない。チームが苦しみながらも、方向性を見出した今、エースのゴールがさらなる勢いをもたらすはずだ。それだけにアウェイに臨むJ1第9節のセレッソ大阪戦は、上昇気流に乗る好機である。

ふっと、以前、小林に聞いた話を思い出した。

「アウェイだとホテルに前泊するじゃないですか。試合に向けてスタジアムに出発するとき、ベッドも含めてめちゃめちゃ部屋を綺麗にして、メモ用紙に『ありがとうございました』って書いて出るんです。そうすることで、なんか気持ちが洗われるというか、ゆとりも生まれるんですよね」

今も続けているかと聞けば、小林は頷く。きっと、大阪でも彼はそうして部屋を出るのだろう。キャプテンとエースというふたつの重責に少しだけゆとりを持つことで、ストライカーは結果を残すはずだ。

文=原田大輔

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