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圧倒的に負け越している浦和戦を前に。“怖い男”長谷川健太の腹のくくり方

 自身にとって初めてではない。しかし、クラブにとっては初のJ1優勝争いとなる。リーグ戦残り2節の段階で首位に勝ち点1差の2位につけるFC東京。タイトルを知る指揮官・長谷川健太はいかに今を乗り切るのか。第33節の相手は、リーグ戦7勝8分20敗と相性の悪い浦和レッズだ。【取材・文=西川結城】

■目の奥が笑っていない…?

 怖い男、長谷川健太――。

 サッカー界では、こんな表現で語られることが度々ある。噂が独り歩きしているのか、それとも本当に恐れおののくような強面なのか。

以下に続く

「怖い、怖いと言われることがあるんだけど、そんなに怖いかなあ? いたって、やさしいと思うけど」

 笑いながら本人がこう話すのを聞いたことがある。確かに、普段取材で接する際は、“基本は”柔和な語り口。ただ、目の前で聞いておきながらどこかで「うーん」と心の中でこっそり唸ってしまうことも。「目の奥が、笑っていないような」。そんなこと、とてもじゃないけど本人を前に言葉にはできないが、こう考えてしまっている自体、やっぱり怖がっているのかもしれない…。

 と、こんな感じで書くことができるのは、実は長谷川健太監督自体、とても実直な人だから。FC東京の監督に就任して今季で2年目。初めて取材した昨季当初は、噂通りの「怖い人かも」と少々警戒しながら話していたものの、指揮官のサッカーへの姿勢、負けん気の強さ、分け隔てのない人への態度など、とにかく真っすぐな一面を少しずつ垣間見ていくうちに、過度な警戒は取り除かれていった。

 仮にこの記事を読んだ長谷川監督は「ふざけんな!」と思うかもしれないが、彼の懐の深さであれば冒頭の「恐怖におののく…」みたいな文言も、監督自身のキャラクターを端的に表す『つかみのジョーク』と捉えてくれるに違いない。(監督、ごめんなさい 笑)

■戴冠を逃す経験を何度も味わった

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 11月23日、J1第32節・湘南ベルマーレ戦を1-1で引き分けたFC東京は、今季2試合を残す時点で首位から陥落し、横浜F・マリノスと勝ち点差1の2位になった。

 試合後の会見。ある記者が「長谷川監督はとても余裕のあるように感じるが」との質問に、間髪入れずに笑って返した。

「余裕はまったくないですよ」

 この一言が印象的だった。

 半分は本心だろう。まだ残り2連勝すれば自力優勝できる。ただ、もちろん保証などない。

 悲願のリーグ初優勝に向けて。今季のFC東京はシーズン初めからその一心で戦い続けてきた。開幕15試合負けなしの好調街道を突っ走ったことで、思いをより強くしていく。どこのクラブも当然優勝を目指して戦い始めるだろう。ただ、シーズンが経過する中で徐々に戴冠の可能性が高まってくることで、タイトルを現実視していくチームは少なくない。

 今季のFC東京は違う。初めから現在まで、一貫してリーグ優勝しか見ていない。その熱を最も感じているのは、チームを率いるその人、長谷川監督だ。これまで「勝負弱い」と揶揄されてきた選手たちから今季伝わるのは、「心底勝ちたい」というプロとしての欲、感情。それをひしひしと受け止め、集団として束にし、責任を持って指揮し続ける。誰よりもFC東京を勝たせたい、そして誰よりも勝ちたいのは、現役時代から強気で勝気な性格で知られる、長谷川監督なのである。

 ガンバ大阪時代は多くのタイトルをもたらした。2014年にはJリーグで三冠(リーグ戦、カップ戦、天皇杯)も達成した。ただ、清水エスパルス時代を含め、「たくさんのタイトルレースを経験してきて、たくさんの悔しい思いもしてきた」(長谷川監督)のも事実。惜しくも戴冠を逃す経験を何度も味わったことのある男は、人一倍勝負の世界の厳しさを知る。

 だからこそ、「余裕はない」は本音でもある。これだけタイトル獲得への熱量が高まっている今のFC東京と選手たちを、ギリギリのところで勝たせられない現実を受け入れないといけないかもしれない。儚い結末に終わることもある。

 その切なさを、身を持って知っているからだ。

■浦和には味スタで04年以来勝てていない

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 週が明けた11月30日、第33節・浦和戦に向けた準備が始まった。迎えるホーム最終戦の敵は、FC東京が2004年を最後に一度も味の素スタジアムで勝てていない相手だ。

 練習が終わり、記者の前に長谷川監督が座る。いつもと何ら変わりのない落ち着いた空気をまとっている。飛ぶ質問の数々に対して、表情を険しくするでもなく、気を揉むでもなく、普段通りに「本音」と「建前」をしっかり織り交ぜながら話していく姿も、プロの監督らしい立ち居振る舞いである。

 ブレない。いつ何時だって、揺らがない。その長谷川監督のスタンスは、我々が目にする姿勢だけにとどまらない。

 優勝争いの経験がない選手がほとんどのFC東京。ただ終盤戦を迎えても、気負い、焦りがあまりこちらには伝わってこない。

「僕らは未知の世界にいる。でもしっかりいつもどおり準備できるのは、一にも二にも監督が放つ空気が大きい。何より、健太さんがまったくブレていない。勝っても負けても、自分たちのプレーをやり続けるだけ。この安定感が、今のチームの最大の拠り所だと思う」

 自身も優勝経験のない主将の東慶悟が、実感を込めて話す。また広島やFCソウル(韓国)でリーグ制覇の経験がある髙萩洋二郎も同調する。「やるべきことをはっきり言ってくれる。それができれば試合に出られるし、できなければダメ。監督が示す方向にブレがない。僕らはしっかりついていける」。

■特別な語りかけはない

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 今週、長谷川監督が選手に何か特別な語りかけがあったのか。東は一言。「ないですね。本当にいつもどおり」。当たり前のように答えた。

 シーズン中頃のことだった。敗戦後の週の取材で、長谷川監督が話した言葉が今も耳に残る。

「今のFC東京は、まだいろいろな戦い方ができるチームではないかもしれない。ただ、強度の高い守備をして、相手が嫌がる速くて迫力のある2トップ(ディエゴ・オリヴェイラと永井謙佑)がいる。この武器を信じていい。今季は優勝に向けて、相手がこちらの武器をわかっていても止められない、凌駕するまでの質と勢いを出していかないといけない」

 負けられない浦和戦。きっと長谷川監督が強調したいことにも、迷いはないのだろう。

「わかっていても、止められない」

 FC東京には、これがあるからここまで勝ってきた。シーズンを通して、変わらない戦い方とスタンスがあるから、何にも左右も流されもせずに最後まで優勝争いができた。

 だから、「余裕はない」の半分は、嘘になる。揺らがない自信。それを試合にぶつけるだけ。そんな愚直な強い意志を、痺れるようなこの優勝戦線でも何ともない顔で隠す長谷川健太という監督――。

 勝負師の目をしている。腹のくくり方は、尋常ではない。巡り巡って、やっぱり彼はある意味で鋭く怖い人間なのかもしれない。

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「※」は提携サイト『 Sporting News 』の提供記事です

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