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“アジア最強”のイランを狼狽させた森保ジャパン。その勝敗を分けたもの

28日、日本代表はAFCアジアカップ2019(UAE)準決勝でイラン代表と対戦し、大迫勇也の2得点、原口元気の1得点で3-0の勝利を収めた。ここまで会心の勝利がなかったなか、まさに大一番で見事な戦いぶりを披露した森保ジャパン。その勝敗を分けたものは何だったのか。現地で密着取材を続ける飯尾篤史氏はその理由をこう分析する。

■アズムンが孤立した理由

イランとの大一番を終えたあと、森保一監督は試合のポイントのひとつとして「相手に敬意を払う。相手を知ったうえで、持てる力を最大限に発揮していこう、持てる力をすべて発揮しようというところで、選手たちが戦い抜いてくれたこと」と答えた。

事実上の決勝戦と言われたこのゲームの勝敗を分けたのは、まさに、相手への敬意の払い方だったかもしれない。

以下に続く

敬意を払って警戒し過ぎたのがイランで、敬意を払って相手を分析し、そこをしたたかに突いたのが日本――。

長友佑都がこれまで何度も「うまくいっているわけではない」と語っていたように、今大会における日本のパフォーマンスは、決して芳しいものではなかった。

だが、それでもイランにとって、何度も激戦を繰り広げてきた日本は最大の敵なのかもしれない。かつて名古屋グランパスの指揮を執り、「日本のことは20年間見てきた」と豪語するカルロス・ケイロスが監督なのだから、なおさらだろう。日本のサイド攻撃に対するケアは、慎重過ぎるほど慎重だった。

「最初のワンプレーで、完全に決まりましたね」と胸を張ったのは長友だ。

「僕が裏を取って惜しいシーンを作ったら、それで彼(アリレザ・ジャハンバフシュ)がかなり警戒していた。僕が高い位置を取ったら、ずっと付いてきたんです」

ジャハンバフシュは昨季のオランダリーグ得点王である。だが、いくら得点力が高くても、守備に奔走させていれば怖くない。同じ現象は、右サイドでも起きていた。

そのため、これまでの試合では4−5−1で守っていたイランはこの日、高い位置を取った日本のサイドバックにウイングが引っ張られ、5−4−1でブロックを固めることが多かった。日本の両SBが同時に上がると、6−3−1のようになる場面もあったほどだ。

これによって何が起きたか。イランの誇るエース、サルダル・アズムンの孤立だ。

ただでさえ、ここまで3得点の左ウイング、メフディ・タレミを出場停止で欠くというのに、両ウイングの重心は常に低い。そのうえ、縦パスのコースは日本のボランチに切られていて、ロングボールは冨安健洋の徹底マークに遭った。こうしてアズムンはイライラを募らせていく。

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▲アズムンは孤立し、ボールが来ても冨安に封じられた

■日本の狙いは明白だった

一方、日本は攻めるポイントが明確だった。

「スカウティングどおりですね。アンカーの脇が空くのは、中国戦を見て分かっていましたから」と原口元気は、攻撃の狙いを明かす。そのスペースを利用して基準点を作ったのが、初戦のトルクメニスタン戦以来の先発復帰となった大迫勇也である。

ポストプレーのうまい大迫は、前線で張っているイメージが強いかもしれないが、むしろ、中盤に落ちてきてパスを受け、前を向いてパスをさばくのがめっぽううまい。こうして大迫が空けた前線のスペースに2列目の選手たちが飛び出すことで、日本のコンビネーションは発動する。

つまり、大迫は周りを生かすタイプで、周りに生かされて輝く北川航也や武藤嘉紀とはタイプが根本的に異なるのだ。

孤立するアズムンとは対照的に、日本は大迫に面白いようにパスが入った。

先制点は、イランの選手たちがセルフジャッジでプレーを止めたのに対し、南野拓実と大迫はプレーを続けたことがすべて。「森保さんは練習中から、プレーをやめるな、続けろ、とすごく言っているので、それを拓実が実戦してくれた」と、原口は日頃からの意識付けの成果であることを強調した。

興味深かったのは、1点ビハインドになったあとの、イランのうろたえぶりだ。イランは今大会ここまで無失点、アジア勢との対戦では2012年以降39戦無敗という輝かしい記録を誇っていたが、逆に言えば、ビハインドの展開に慣れていないのだろう。失点した途端にオーガナイズが乱れ、日本は落ち着いて相手のミスを狙えばよかった。PKによる2点目と、原口の3点目は、いずれも敵陣で相手のミスからボールを奪い、ショートカウンターから生まれたものだった。

イランに与えた決定機はわずか2回。その何倍ものチャンスを作り出し、シャットアウト勝ちしたことに対して、長友は「チームの真価が問われる試合になると言っていましたけど、僕らが本物だということを今日、示すことができた」と自信を覗かせたが、その言葉は素直に頷けるものだった。

ファイナルの相手は、2010年から4年間、ともに戦ったアルベルト・ザッケローニ監督率いる開催国のUAEか、3年後のワールドカップ開催国で、スペイン化を進めるカタールか。激闘を制したチームが、それに安堵したのか、次の試合であっけなく敗れ去ことがよくあるが、今の日本なら落ち着いて試合に入り、したたかに勝機を手繰り寄せてくれるはずだ。

文=飯尾篤史

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