20240430_Fujita1(C)Kenichi Arai

精緻かつ大胆。藤田譲瑠チマが描いたヴィジョンと必殺のラストパスが日本をパリへと導く!

 U-23日本代表はAFC U-23アジアカップ カタール2024の準決勝で、U-23イラク代表に2-0で勝利し、今夏に行われるパリ五輪の出場権を獲得。試合の中では、藤田譲瑠チマが2アシストと大きな輝きを放った。【取材・文=川端暁彦】

■2本のパスが試合を決める

20240430_Hosoya(C)Kenichi Arai

 藤田のプレーについて、よく「洞察力がある」という書き方をしてきた。ゲームの流れを読むのはもちろん、相手チームをよく観察していて、隙を察し、隙を突くことに長ける。「勝てば五輪」というシンプルな状況だったU-23アジアカップ準決勝・イラク戦は、そんな藤田の特長がよく出たゲームだった。

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 ここまでの日本の戦いぶりを研究してきたであろうイラクは、5バックの布陣を敷きつつ、特に日本の右サイドを厳重に警戒してきた。ただ、藤田は「真ん中が空くフォーメーションになっていた」と看破しており、左右に揺さぶりながら中を刺すイメージを持ってプレーしていた。

 前半10分には荒木の足元へ縦パスを通し、準々決勝カタール戦の決勝点を彷彿とさせるシーンを演出すると、さらに28分だった。「寄せてこない割にラインが高い」と瞬時に見て取ると、一気に裏へロビングのパス。これが走り込んだFW細谷真大(柏)にピタリと合い、先制ゴールへと繋がった。

 さらに42分には左サイドでボールを奪ってドリブルで抜け出したDF大畑歩夢(浦和)のパスを受けると、ワンタッチでスペースへと流すパーフェクトなラストパス。これを受けた荒木遼太郎(FC東京)の得点をも演出してみせた。

「まず大畑が粘ってくれて、大きいスペースが真ん中にできたのが見えていたので、自分もうまく動き出せたと思います。荒木もうまく反応してくれました」

 2-0。藤田の2本のラストパスが、試合の流れを決定付けることとなった。

■上回った戦術眼

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 試合前から入念にイメージを固めていくタイプではない。フタを開けてみないとわからないというのが藤田のサッカー観なので、「こうしてこうと決め付けない」という話もよくしてきた。

 事前のスカウティングでイラクの中央を突けると思っていたというわけではない。それも当然、イラクの5バックはこれまでの彼らと異なるやり方だったのだから、穴は試合の中で見付けていくほかないのだ。

 その辺りは「相手の入り方とかサッカーの仕方とかを考えるより、まず場面・場面でうまく対応できたらいいなという感じの考え方。そんなに準備しては入らない」という藤田らしい柔軟な考え方だ。

「途中からビルドアップのところだったり、自分自身も結構フリーで真ん中で持てるシーンがあったので、1点目のような一発裏を出せるボールを狙っていこうかなという考えはありました」

 中央を突くプレーが増えたのも、事前の準備ではなく、試合が始まってから相手を観た上での判断だ。

「(この大会のこれまでの相手は)基本的に中をすごく締めて外に追いやるような守備をしてくるチームばかりだったんですけど、今回に関してはボールに強くくる場面が多かった。相手の中盤中央の選手も二人で少なく、(松木)玖生と荒木が空いているように見えたので、そこをうまく使いながらプレーできた」

 日本は攻撃時に藤田をアンカーに置いた4−3−3の形になるのが基本的なやり方だが、松木と荒木の2枚に対し、相手の守備的MFも2枚。藤田が持つと周りに誰もいないか、守備的MFが出てくると二人が空くといった構造になっており、そこを使っての“やりたい放題”となっていた。

 普段のサッカーを捨ててまで入念な日本シフトを施したつもりで、藤田譲瑠チマという男を「安パイ」だと勘違いしてしまったイラク側の失策と言うほかない。日本の司令塔を空けてしまったことで、ズバズバと急所を刺され、敗勢に追い込まれることとなった。

■次はアジア王者へ

20240430_Fujita2(C)Kenichi Arai

 パリへの切符は手にしたが、チームの旅路はこれで終わったわけではない。

「まずは(パリ五輪出場権獲得を)達成できてよかったなと思います。でも、まだもう一つあるので、もう一つ締めて、チームとして優勝を持ち帰れたらいいなと思っています」

 勝ってアジアの頂点に立ち、パリ五輪へと挑む。藤田のヴィジョンは、ここでも明確だった。

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