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【戦術分析】「U-24日本代表はメダル候補。世界が敬意を払うべき」西紙分析官が絶賛!紐解く変化と久保建英の躍動

■スペイン紙分析担当が紐解くU-24日本代表

自国開催のオリンピックで、U-24日本代表は素晴らしい戦いを見せている。

1次リーグ初戦の南アフリカ戦は苦労の末に1-0で勝利すると、難敵メキシコ戦では開始約10分で久保建英&堂安律がゴール(2-1で勝利)。そして迎えた最終戦は、フランスを相手に4-0の圧勝だった。今大会で1次リーグ唯一の3連勝を達成し、堂々の首位通過で準々決勝進出を決めた。

そんな躍動するU-24日本代表チームを、サッカー大国スペインの大手紙『as』で試合分析担当を務めるハビ・シジェス氏はどう見たのだろうか? かねてより日本を注視してもらっていた中で、シジェス氏はある変化を指摘。そして「メダル獲得候補」と断言した。今回は、1次リーグ3試合で見せた日本の戦いを徹底的に分析してもらう。

文= ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間 慎一郎

■メダル候補

東京五輪に臨んでいる日本は、歩を進める度に大きな期待を生み出している。彼らの、おそらく文化や国民性などに由来する競争的性格の乏しさは、グループリーグを見事な形で突破して(準々決勝の相手がニュージーランドであることも含め)、その自信により強化されているはずだ。

今の日本はメダル獲得候補に数えられる。実際にそこまで届くのであれば、彼らと彼らの取り繕ったようなフットボールにとって大きな飛躍になるだろう。彼らのフットボール、それは戦術とフィジカルがいつも欠如しているが、技術を欠くことは決してない。東京五輪の日本はまだ不完全ではあるものの、しかし技術につながる才能、試合の主役になる意思、効果的なプレーでもって十分な魅力を感じさせている。彼らが取り組んでいることには、間違いなく意義がある。

■実践主義と久保建英&堂安律

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それぞれが異なる特徴を有していた南アフリカ(1-0)、メキシコ(2-1)、フランス(4-0)との対戦は、日本の新たな汎用性を露わにした。彼らは従来の考え方をすべて捨て去ることなく、試合の支配と引いて守ること、すなわち攻撃的にも受動的にもなれることを示したのだ。この二重人格性は、森保一がプレースタイルの見直しを図ったことに由来する。日本は彼らのアイデンティティー(巧みなボール扱い、攻撃を仕掛ける意思、頻繁なポジションチェンジ)を保ち続けながらも、それでいて実践的なチームになった。

その変化が顕著に表れていたのは、メキシコ戦。彼らは高い位置でのプレスにこだわらずに自分たちを抑制すると、トランジションから攻撃することに賭けている。堂安律と林大地が前に出ているメキシコのDF陣に先んじて、田中碧、久保建英、相馬勇紀がライン間へ向かう……。ゴール、そして勝利を手にする上では、そのやり方こそが最適解だったろう。

森保の基本システムである1-4-2-3-1で、日本の攻撃はとてもポジティブな感触を与えている。第一に、彼らは後方からパスをつなぐことにそこまで執着しなくなった。そのフィロソフィーから考えれば、当然それがファーストプランではあるのだが、以前のように極端ではなくなったのだ。センターバックが開くことでサイドバックが押し上げられ、遠藤航と田中が異なる高さで中継を担う。ボランチ2枚が異なるスペースを埋め、そして堂安と久保がサポートと突破の動きを見せることには、縦に攻撃する意図が見て取れた。その一方で、メキシコ戦のように相手のプレスに苦しめられれば、吉田麻也のロングボールに頼ることをためらわない。前述したように、今の日本は実践主義になっている。

日本からは良いバイブスが伝わってくる。とりわけ素晴らしいのは、久保と堂安の足と頭だ。彼らの連係はじつに自然で、その流れを止めることは難しい。トップ下としてしっかり機能していた久保は、そこにとどまるだけでなく堂安と頻繁にポジションを入れ替えていた。プレーが不安定だったりすれば、たった一人で責任を背負う危険がある久保だが、今大会ではそうした目に遭わずに済んでいる。森保は過去、このレアル・マドリーMFを左サイドに位置させて、そこで攻撃のすべてを任せようとしていた。翻って、五輪での久保は流麗な連係、鋭いドリブルを仕掛けようとボランチの横でボールを受けることを常とし、そして、これまでは彼の得意分野に決して含められなかった得点力で爆発している。

久保にとって、堂安や林が混雑するゾーンでスペースを空けてくれることは極めて重要だ。彼らだけでなく上田綺世、旗手怜央、さらにはサイドバックの酒井宏樹も、恐ろしきフランスとの試合でそうする大切さを理解していた。田中と遠藤航のまさに正確な配球から日本は多様な攻撃を見せることができ、良質な選択肢を持ちながらペナルティーエリアに到達している。少ないタッチから、シュートチャンスをうまいこと手にする選手たちにボールが渡って……、あとは決定力を求めるだけだ。

■不安要素は「守備面」

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南アフリカ戦ではメキシコ戦とまた異なるプレーを見せた日本だが、ニュージーランド戦も似たような展開が予想される。あの試合、後方に下がる南アフリカから主導権を譲られた日本は、堂々とした姿勢、明確な意思、そして落ち着きでもってボールを扱っている。南アフリカは中央を閉じてサイドを空けていたが、日本は中央に選手を集中させながらもオーバーラップする酒井と中山雄太がサイドのスペースを生かした。サイドから逆のサイド、そのまた逆のサイドと素早くボールをつないで、綻んだサイドを突いていく。この狙いは効果てきめんだったが、惜しむらくは詰めの場面がぼんやりしてしまったこと。左サイドの三好康児は消えていて、その一方で右サイドが空いたときには久保が久保らしく違いを見せた。

グループリーグの3試合を見た限りでは、日本の攻撃的長所はまったく損なわれることがなかった。彼らはただ単純に、良いプレーを見せている。そんな彼らに不安要素があるとすれば、いつものごとく守備面となるだろう。

そこまで厳しいことを求められているわけではないのに、メキシコがほとんど問題になるようなプレーを見せていなかったというのに、遠藤の安定性、中山の有効性、酒井の経験は、失点を確実に防げるという感覚をもたらすまでには至らなかった。試合終盤にルーサー・シン(南アフリカ)とロロニャ(メキシコ)の決定機を許したことはいただけない。かてて加えてメキシコ戦、1人多い状況での試合管理もまずかった。自陣に引きこもり、それでいてペナルティーエリアの支配もできず、吉田と板倉滉が出し抜かれてエンリ・マルティンのヘディングシュートを許してしまう……。あんなことは、もう二度と繰り返してはいけない。

日本はプレーエリアを谷晃生が守るゴールから遠ざけた方がいい。そのために、ハイプレスを活用できるときにはしっかりと使うべきだろう。森保はハイプレスの手入れを怠っていない(ちぐはぐになる場面もあるはあるが)。各ラインはちゃんと狭められており、そこから彼が細部にまで気を遣っていることがうかがえる。メキシコ戦、またフランス戦の立ち上がりでは、前線2枚のどちらか(久保か林、または久保か上田)が相手ボランチにパスが通らないようにしていた。

日本がチーム全体で守っている戦術的約束は確かに、後退する際の過剰な苦しみを防いでいる。前でボールを奪えなければ、ミドルゾーンに引いて再び奪取を試み、それでもダメなら後方まで引く……。ただ後方まで到達してしまうと、サイドバックのクロスやセットプレーから危ない場面をつくられてしまう。それは彼らのフットボールが構造的に抱える問題であり、もう少しだけ緩和させられることが望ましいだろう。

■掟

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グループリーグの活躍からすれば、日本はメダル獲得候補だ。その素材についてはブロンズ、シルバー、ゴールドのどれでもいい。ブラジルとスペインは彼らよりも上にいるように映るが、その差は絶対的なものではない。そう、この東京五輪は、日本がこれまでの長い旅の末に成功をつかむチャンスなのだ。彼らが今現在のパフォーマンスにさらなる強度を加えられるなら、両ペナルティーエリアでの確固たる強さをついに手にできるならば、最後には高い場所で手を振っているだろう。

日本の新世代は、そのフットボールによって世界から敬意を払われるべきだ。ただし、そうしたカテゴリーに実際に位置するためには、芝生の上で勝たなくてはならない。結局のところ、勝利だけが掟なのである。

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