017-10-08-japan-yuki-kobayashi(C)Getty Images

門外不出“ハリルノート”から紐解かれる攻撃陣に求められる資質…秘密兵器となるのは小林祐希か

■ハリルノートに記される攻撃のやり方

ハリルジャパンに選出された選手たちには、独自に編集された小冊子が手渡される。十数ページで構成されるA4版のそれを、ヴァイッド・ハリリホジッチ監督は「我々のアイデンティティ、我々のプレーの仕方が書かれているものだ」と説明してくれたことがある。今年の春のことだ。

「毎回合宿に来る前に、それに一度目を通してほしいと選手たちには言っている。この小冊子を通じて、チームの今後の発展を促そうとしているところだ」

命名すれば“ハリルノート”とでもなるだろうか。門外不出である中身の一部を、ハリルホジッチ監督が「我々にとって非常に重要なこと」と明かしてくれた。

以下に続く

例えば攻撃面での約束ごとに関しては、こんな記述がある。

「相手ゴール前で相手ゴールに対して背を向けてボールを受ければ、簡単にワンタッチで落として3人目の選手が裏を狙う」

標榜するスタイルの一つ、縦に速いサッカーを成立させるための青写真がピッチ上でほぼ完璧に具現化されたのが、昨年10月に行われたオーストラリア代表とのアウェイゲームで開始5分に原口元気が挙げたゴールだった。

この試合、ハリルホジッチ監督は、1トップに本田圭佑を起用。フィジカルの強さを生かしたボールキープ力を軸に、左右のウイングに入る原口と小林悠に相手の最終ラインの裏を狙わせ続けた。

ゴールシーンは相手のパスをカットした原口が、ボランチの長谷部誠に預けてから前方へダッシュ。長谷部の縦パスに反応した本田が相手をプロテクトし、振り向きながら時間を作って原口を追い越させた上で、ワンタッチでスルーパスを出した。指揮官が続ける。

「あまりクラブではやらないことも含まれているが、代表チームに来ればそういうプレーが求められていることを思い出させるために小冊子を持たせている」

アジア最終予選の10試合で日本が挙げた17ゴールのうち、“ハリルノート”に記された理想とするパターンから生まれたのは、オーストラリア戦での1点だけだった。もっとも、他にも目指すパターンは記されているはずだし、その一つに間違いなくセットプレーも含まれる。

ニュージーランド代表を2-1で振り切った6日のキリンチャレンジカップ2017。試合後の公式会見で、ハリルホジッチ監督はこんな言葉を残している。

「相手のペナルティーエリア付近でFKをゲットしようと試合前に強調した。ここ最近の20試合くらいで、相手のペナルティーエリア付近でのFKが全くなかった。受け入れがたいことだ」

ニュージーランド戦で目論見どおりに試合が運ばず興奮のあまりについ忘れてしまったのか、アジア最終予選では直接FKから生まれたゴールが2つある。

まずは逆転負けした苦々しい記憶が残る、昨年9月のUAE(アラブ首長国連邦)代表戦で決まった本田の先制弾。同10月のイラク代表戦の後半終了間際に飛び出した山口蛍の劇的な決勝弾。いずれも清武弘嗣の直接FKから生まれたものだ。

ただ、やはり全体的に見れば少ない。イラク戦からちょうど一年が過ぎていたことも、指揮官が抱く不満を増幅させていたのかもしれない。公式会見ではこうも語っている。

「ナカムラ(中村俊輔)を含めて、素晴らしいFKを蹴れる選手が(日本代表に)いたのは知っている。今の日本にはナカムラのようなキッカーがいないのが事実かもしれないが、それ以前に良いポジションでFKを得られなければ話にならない。例えばオーストラリアは、FKやCKから得点の6割を得ている。強豪と呼ばれる国もセットプレーからゴールを決めている」

ただ単に相手ゴール前でファウルを誘うよう指示を受けた選手たちも、さすがにちょっと混乱していたようだ。カリスマ性の強い指揮官の要求を、とにかく実践しようと必死になる。選手たちの脳裏に色濃く焼き付いているのは、初招集時に手渡される前出の“ハリルノート”となるだろう。

■秘密兵器となるのは小林祐希か

もっとも、物怖じしない強気な言動をトレードマークとするMF小林祐希は、相手ゴール前でファウルを獲得するための処方箋を思い描いている。

ニュージーランド戦から一夜明けた7日、豊田スタジアムでの練習後に語ったプレーは、“ハリルノート”に綴られた「ワンタッチで落とす」ことと対極に位置する動きでもあった。

「ファウルがもらえないのも、監督から『来たボールは簡単に落とせ』と指示が出ているからもらえないだけであって。もっとファウルが欲しかったら、もうちょっとキープしてから強引にターンする選手がいてもいいのかなとは思います」

何も反旗を翻しているわけではない。小林自身ももちろん“ハリルノート”に目を通している。選手が監督に指示に縛られすぎず、瞬時の感性で次のプレーを判断することもサッカーというスポーツの醍醐味だ。いつもは簡単にパスを出す場面でターンされれば、相手も虚を突かれて対応が後手に回り、ファウルを犯しやすい状況が生まれる。

「監督が求めていることをどこにいっても100パーセントで実践した上で、プラスアルファで何ができるかだと思っているので」

今回のニュージーランド戦前に語っていた小林の抱負は、ハリルホジッチ監督自身も求めているものだった。相手にとって意外性に富んだプレーが、予期せぬ状況を生み出す。だからこそ「それに関しては、選手一人ひとりが監督と話すべきだと思う」と小林も力を込める。

ハリルホジッチ監督は「CKからのゴールも少なかった」とニュージーランド戦を振り返った。この点に関しては香川真司に代わって60分から投入され、右CKを3本蹴った小林も苦笑いしながら反省する。

「1本目は良かったけど、2本目、3本目は(杉本)健勇しか狙っていなかった。アイツに点を取らせたいと思っていたので、あからさまにニアを狙いすぎてボテボテになっちゃいました。(キックの)質をもっと上げなければいけない」

同じ1992年生まれで、2012年3月から約3ヶ月間、自身がキャプテンを務めた東京ヴェルディでチームメイトにもなったFW杉本健勇へのエールも込めていたと小林は明かした。

もっとも、当時から利き足の左足に宿るキックの精度は高く評価され、前回の在籍時には約35メートルの距離から無回転の直接FKを叩き込んでいる。就任直後のハリルホジッチ監督が「FKを蹴れるキッカーがいない」と嘆いた時には「オレがいるよ」と手を挙げたこともある。

7日の練習ではインサイドハーフに入ってミニゲームで汗を流した。ピッチ上で異彩を放ったニュージーランド戦を経て、10日のハイチ代表戦(日産スタジアム)では先発に名前を連ねる可能性もある。ロシア大会まで残り約8カ月。指揮官の悩みを解消させる秘密兵器は、意外と身近にいるかもしれない。

文=藤江直人

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