2018-01-02-cerezo-osaka

「美しいサッカー」から「勝つサッカー」へ…2017年2冠を獲得したセレッソ大阪の変貌とは

2018年の幕開けを飾る元日の97回天皇杯決勝。山村和也、水沼宏太の2ゴールで逆転に成功したセレッソ大阪が、120分間の死闘を戦い抜き、2-1で歓喜の瞬間を迎えた。タイムアップの笛が埼玉スタジアムに鳴り響くと、右ふくらはぎ負傷を押してフル稼働した山口蛍がガッツポーズしながらピッチに倒れ込み、清武弘嗣、リカルド・サントスらがもみくちゃになって喜びを分かち合った。

1年前のJ1昇格プレーオフでファジアーノ岡山を下してJ1復帰を決めたチームがわずか1年間でJリーグルヴァンカップと天皇杯の2冠を制し、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)本戦出場権を獲得するなど、一体誰が予想しただろう。尹晶煥監督も「ありえない1年だった」と驚き半分に語ったが、彼らは粘り強くタフに戦える集団へと変貌した。この横浜F・マリノスとの大一番は今季セレッソの成長ぶりを象徴するものだった。

柿谷曜一朗、山口蛍、杉本健勇の3人がケガで先発から外れる中、12月23日の準決勝・ヴィッセル神戸戦を勝利し、ファイナルへと勝ち上がったC大阪。「獲れるタイトルは全部取って終わりたい」と清武も決戦前に語気を強めていたとおり、全員の士気はかつてないほど高まっていた。左足首を手術した杉本の復帰は叶わなかったものの、柿谷と山口も先発に復帰。現時点でのベスト布陣で横浜を迎え撃つことができた。

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とはいえ、横浜もエリク・モンバエルツ監督体制のラストマッチということで非常にモチベーションが高かった。序盤から球際での激しさや厳しさを前面に押し出し、C大阪に襲い掛かる。前半8分には左サイドバック・下平匠のアーリークロスに1トップ・伊藤翔が抜け出し、胸トラップから右足を一閃。いきなり先制弾を叩き込んだ。

この瞬間のセレッソは、木本恭生の反応が遅れ、伊藤をフリーにする致命的ミスを犯してしまった。「その前に1回、(伊藤が)オフサイドになった場面があって、しっかり対応しなければいけなかったのに、やられてしまった。元日の決勝ということで、今日はスタジアムに入った感覚がいつもと違った。メンタルの部分が足りなかった」と木本は目に見えない重圧を吐露したが、チーム全体が独特な雰囲気に飲まれていたのは確かだろう。前半は動きが硬く、中盤で不用意にボールを失うミスも多かった。マリノスの術中にはまったと言っていい45分間だった。

■指揮官の言葉に奮起した後半

「球際で負けている」と尹晶煥監督からズバリ指摘され、気持ちを切り替えて挑んだ後半。選手たちは冷静にゲームの立て直しを図った。「ルヴァンで優勝してからチームに自信と余裕が出てきたこともあって、同点にできる自信はみんなの中にあった。負けているからといって焦ることはなかった」と山口も言うように、集中力を切らすことなく反撃のチャンスを伺い続けた。

その好機が訪れたのは後半20分。山口からパスを受けた水沼の思い切ったミドルシュートが発端だった。これを相手守護神・飯倉大樹がセーブ。DFがクリアしたボールが山村のところに渡り、彼は確実に右足シュートを決めた。「いいところにボールが転がってきた。フリーだったんで決めるだけだった」と背番号24は淡々としていたが、杉本の代役として1トップに入り、献身的にターゲットマンとしての仕事をこなした彼の一発がセレッソを生き返らせた。

試合は1-1のまま延長戦へと突入。勝負を決めたのは、延長前半5分の2点目だった。左サイドに開いた山村のクロスに反応し、下平の背後に右から飛び込んだ水沼が角度のないところでヘッド。これが見事にゴールマウスへと吸い込まれたのだ。

「準決勝と一緒で来るかなと思って走っていたら来たので、急に感覚が研ぎ澄まされたかなと(笑)。ホントに諦めずに走り切ることは大事ですね。疲れているからこそ、諦めずに走っていたら、ああいう予測が働いたりする。準決勝、決勝とそれが出たのかなと思います」と背番号16は2戦連続の殊勲弾に目を輝かせた。

■選手たちが語る変化

彼のような選手がC大阪に加わったことは2冠達成の大きなポイントだろう。1年前の移籍当時、水沼は「セレッソはアカデミー出身のうまい選手が多いけど、ACLに行ったり、J2に降格したりと波が激しい。自分みたいな選手が頑張って走って戦う部分をもたらしたい。うまい選手が走れたら間違いなく強くなれる」と力を込めていたが、肝心なところでハードワークしきれなかったり、集中力を途切らせてしまうところが最大のウイークポイントに他ならなかった。

尹晶煥監督も始動時から3部練を行うなど、泥臭く戦える集団に生まれ変わるための意識改革に着手。セレッソのモットーである「華麗な攻撃」の前提として「強固な守備の構築」に時間を割いた。シーズン序盤は最終ラインと中盤が高い位置を取れず、前線の杉本や柿谷が孤立するなど、攻守のバランスをうまく取れずに苦しんだが、それを水沼、松田、山口のような走れるタイプの選手がサポート。4度のケガに見舞われた清武さえも1試合12㎞近い走行距離を記録するなど、試合を重ねるごとに全員の走りや献身的な動き、泥臭いプレーに対する意識が確実に変わっていった。

「セレッソは長い間、レヴィー(クルピ=G大阪新監督)のスタイルから抜け出せなかった。レヴィーは『美しいサッカー』『楽しいサッカー』を志向する監督で、最終ラインからビルドアップして攻撃するのがメインだったけど、尹さんになってからはゴールキックを蹴る回数がすごく増えて、自分も足が痛くなるほどだった(苦笑)。尹さんは『勝つサッカー』を求めてシンプルにタテを突いていく攻めを増やしたんだと思う。リードして5バックにすることもそう。今日も水沼の2点目の後に5バックにしたけど、ああやってみんながお互いを助け合う守りができるようになったのも大きい。強い気持ちを見せられたから2つタイトルを取れた」とセレッソで10年プレーし、紆余曲折を味わってきたキム・ジンヒョンもしみじみと語っていた。

■来季リーグ戦で強さを…

95年のJリーグ初参戦から長い長い時を経て手にした2つのタイトル。この意味は選手やクラブにとっても非常に大きい。ただ、ここで満足したら何も始まらない。本当に真価が問われるのは2018年シーズンだ。

「天皇杯とルヴァンは一発勝負。そこでの勝負強さ、ビハインドを跳ね返せる力はついたかなとは思いますけど、1年間通して安定して力を出してリーグで優勝するのはホントに難しいことだって改めて感じた。次はそれにトライしていかないといけない。4年前(2014年)もセレッソはACLに参戦したけど、最終的にJ2に落ちたし、自分自身も途中でケガをして半分を棒に振った。何もできずに落ちてしまった。そうならないように心身ともにうまくケアしながら、1年間しっかり戦えるようにしないと。あの時を経験している選手も何人かいるし、4年経ってみんなある程度の年齢に来ているんで、経験をうまく生かせると思います」と山口は苦しかった2014年の教訓を生かして、来季に挑むつもりだという。

こういった共通意識をチーム全体が持って新シーズンを戦うことは何よりも重要だ。「セレッソはいい時と悪い時の差が大きい」とOBの香川真司(ドルトムント)や乾貴士(エイバル)も繰り返し言っていただけに、その悪い癖を完全に払しょくすることが彼らに課される次なる命題。今回の2冠を常勝チーム構築の足掛かりにすべく、セレッソには高みを目指し続けてほしいものだ。

文=元川悦子

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