Thomas MullerGetty

ミュラーが指摘する中国サッカーの未来と課題「大事なのは選手への投資ではない」/独占インタビュー

数週間前、『Goal』との約束の時間に、トーマス・ミュラーは袖の短いバイエルン・ミュンヘンの灰色のトレーニングシャツに身を包み、アディレッタを履き、くつろいだ様子でゼーベナー・シュトラーセ(練習場)に現れた。

ミュラーは休暇の前に、予定されているアウディ・サマーツアー2017の中国・シンガポールへの遠征やアジアの思い出について語り、さらに中国のフットボールが将来的に「非常に大きな可能性を秘めている」理由についても語ってくれた。

■アウディ・サマーツアーへ向けて

――トーマス、バイエルンとともにまたアジアへ向かいますね。今度の旅について今の心境は?

以下に続く

僕たちは2年前にも一度アジアへ行っている。あの時は確かにハードスケジュールだったけど、刺激的な体験でもあったよ。もちろん日程が立て込んでいて、短い間にいろんな所に行かなければならなかった。だけど、バイエルンのことをよく知っていて、熱烈に歓迎してくれる大勢の人たちに会うこともできたんだ。何度も移動しなければならないだけじゃなく、試合やいろんな予定のことを思えば、大変な旅になるだろうと思うよ。だけどまた、とてもおもしろい旅になるだろうとも思うんだ。新しい知り合いが大勢できるだろうし、中国の人たちにバイエルンのフットボールを披露できるんだからね。

――前回のアジア遠征の時は、空港に着いてすぐ、まさに賓客のような出迎えを受けましたね。

その通り。中国には本当にフットボールが好きな若者が大勢いて、彼らは、バイエルンは素晴らしいプレーができるだけでなく、いいメンツが揃っているってことがわかっているんだ。僕たちは確かにそういうチームなんだからね(笑)。それにしてもあの時は、熱烈な歓迎を受けて、最初のうちはびっくりしたよ。2、3日経つと、慣れたけどね。楽しい経験だったよ。

――何か特別だと思えるような経験はありましたか?

とにかくアジア人はとても根気強くて、ホテルの前に集まった人たちの騒ぎがすごいんだ。ドイツだったらきっと警察に通報が行くくらいの音量だったね。

――文化についてはどうでしたか?

そうだね……。僕たちフットボーラーはいつも断片的な経験しかできないからね。僕たちがホテルを出るときは、たいてい何か催しに参加する時で、そういう時には厳重な警備がついている。簡単に土地や古い彫像を見物に行ったりはできないんだ。だから、何もかも100%吸収するのは難しいね。知ることができるのは、たまたま触れたものだけだよ。

――そういう旅行に備えるため、前もってアジア文化について学んだりはするんですか?

自分たちが出会うはずのものについて、重要なことや細かいことに関して少しは情報を手に入るけれど、文化についての講習を受けるとかそういったことはないね。

――かなりの量のPR活動が予定に組まれています。なかなか骨の折れることですが、一方で、特別な体験をすることもできますか?

まさにその通りだよ。2年前には、アディダス主催で河をクルーズしたんだ。その時は船のデッキでフットボールをやったのさ。それに、僕とフィリップ・ラームでダブルスを組んで、中国の卓球のトップ選手たちと試合することもできたしね。マヌエル・ノイアーと一緒にテレビ番組にもゲスト出演したし、この時も卓球の強豪選手と対戦したんだ。そういうのはいつも経験できることじゃないからね。彼らは本物の中国式サーブが打てるんだけど、そういうサーブは、2時間経ってもまだボールが回転し続けているんだ(笑)。

――あなたはプライベートでも卓球をやりますか?

しょっちゅうはやらないよ。だけど、リズムに乗った時にはなかなかの腕前だと思っている。以前は、ここゼーベナー・シュトラーセに卓球台があったんだ。残念ながら今はもうないけどね。卓球台は撤去されて、その場所に調理場が拡大されたんだ。そういうわけだから、たぶん今年の夏は2年前のようにはうまくいかないだろうね。でも、大丈夫だと思うよ。

――でも、あなたのプレーはヨーロッパスタイルなんですよね!?

もちろんだよ。僕の卓球はどっちかと言うとティモ・ボル(※ドイツ出身の卓球選手。元世界ランキング1位)のスタイルさ。ちなみに、彼は中国でも有名なんだよ。

*GER ONLY* Thomas Müller Asien 2015 FC Bayern Münchenimago

■中国のフットボールのこれから

――最近では、トップクラスのスター選手たちの中国スーパーリーグへの移籍がますます増えて来ています。こういう展開についてはどう思いますか?

ヨーロッパから選手たちが引き抜かれていく時には、天文学的規模の金額が支払われている。僕には少しわかる気がするよ。中国の人たちは、当然のように国内リーグの価値をちょっとばかり引き上げたいと思っているんだ。それに、ヨーロッパから中国へ行くのは遠い道のりだから、選手たちが移籍を決意する気になるような理由を作り出す必要がある。全体として見れば、すでにスーパーリーグにはそれなりの質が備わっているし、いくつかのチームではトップクラスの選手たちもプレーしている。だけど、今の状勢を100%評価することはできないね。

――長期的に見て、中国のクラブがヨーロッパのトップクラブと張り合えるようになると思いますか?

理屈の上では、もちろん可能だろうね。だけどそれは、どれだけの金をつぎ込むかに依存してくる。はるかな道のりだ。重要なのは選手に投資することだけじゃない。トップレベルのプレーをするためには、完璧な選手たちが調和してチームとして機能する必要があるんだからね。

――中国のフットボールを発展させるために大きな努力とお金が払われていますが、最初の成果が得られるまでにどのくらいかかるでしょうか?

基本的に、中国には巨大なポテンシャルがあるはずだ。暮らしている人間の数だけから考えてもね。組織の点から見ても、フットボール人口から言っても、非常に多くのことを成し遂げられるはずだ。それに、僕も知っているけれど、この数年間にフットボールのために非常に多くの努力が注ぎ込まれてきている。政治的な側面からもね。だから、この先10年の間にきっと、中国人のトッププレーヤーが現れることを期待できるだろうと思う。

――バイエルンは2015年に広州恒大と対戦しましたね。今のレベルはどのくらいだと思いますか?

当時の広州恒大戦で感じたことは、選手たちのフィジカル面がなかなかだったということかな。僕たちはPK戦で負けてしまった。つまり、片手間でやっつけられるレベルじゃないってことだ。確かに、あれは僕たちが最高に力を入れて臨んだ試合ではなかったけれど、それにしても中国の選手たちはコンディションが良く、敏捷かつ何をすべきかをわかっていた。彼らには世界レベルのコーチたちがついていて、外の世界からいくらかフットボール文化を持ち込んでくれている。中国のフットボールは順調に成長していると思うよ。

――中国の若いフットボーラーたちに何かアドバイスがありますか?

必要なのはフットボールを楽しむこと、そして一生懸命練習することだ。やる気を出す時と気を緩める時のメリハリをつけるようにして、何かを手に入れることができるような良い指導者やコーチを探さなければならない。けれど一番重要なのは、謙虚であることと、いつでも根底において、さらに自分を向上させるべく努力する心構えだね。

インタビュー・文=ニクラス・ケーニッヒ/Niklas Konig

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