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世界では「自分たちのサッカーが選べない」。U-24日本代表MF田中碧が東京オリンピックで実感した“11人対11人”で勝つという意味

■「自分は日本でしか通用しない」

「チーム全員でゴールを目指すという絵を描かせることができなかった自分の責任だと思っている。彼らの力をもっと生かせるような、選択肢を与えられるような選手にならないといけない」

 MF田中碧は6試合の死闘を経たあとで、そんな言葉を最後に残した。外野からすればよくやっているように見えた部分も多い大会だったが、当人が感じていたのは「自分の力不足」だった。

「Jリーグでやって来て優勝もしたし、自分自身もすごく成長したなと感じていたけれど、それが何一つ通用しなかった。練習試合とは違う本気の世界。それを初めて経験して、圧倒的な差を突き付けられた。自分は日本でしか通用しない選手なんだ。まだまだ足りないなと感じた」

以下に続く

 こんな言葉まで残し、ただただ悔しさをにじませていた。

 本人が語ったとおり、田中にとってこれが初めての「世界大会」だった。U-24南アフリカ代表との初戦後には、「前半は少し僕も硬かった。少々置きに行ったプレーをしていた感じだった」と苦笑いも浮かべていたくらいだ。同時に、Jリーグで培った自信を持って臨んだ大会で、船出の感触は決して悪いものではなかった。メキシコとの第2戦を終えたあと、こんな言葉も残している。

「世界相手にも自分たちが主導権を握ってやり合える自信もあるし、自分たちのサッカーを捨てて勝ちにいくより、自分たちがやりたいことをやって勝てるチームだと思っている」

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 しかし、ノックアウトステージに入ってから、より厳しい現実を突き付けられていった。準々決勝のU-24ニュージーランド代表戦はボールを持っている時間こそ決して短くなかったものの、よりタフに、そしてよりオーガナイズされた形で戦う相手に苦戦を余儀なくされてしまう。個人と個人の勝負では負けていないどころか勝っている確信もあれど、試合の主導権はどっちが持っているか分からない。そんな感覚もあったのだろう。

 そして準決勝・U-24スペイン代表戦。「チームとして力の差はあった」と試合後に認めたとおりの内容で、日本は敗れた。勝機がなかったとは田中も別に思っていない。「自分も含め、ああいう展開でゴールに繋げられない。そこに差がある」という考えも吐露している。ただ同時に、思うところもあったようだ。

■「差」があったのは試合の大局観

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 迎えたメキシコ戦は1-3での苦杯となった。立ち上がりから相手に試合の主導権を握られて、セットプレーからのゴールで突き放された。個の力で圧倒された感覚は観ている側にもやっている側にもまったくない。テクニックはもちろん、体と体のぶつかり合いにおいても特段に劣勢だったわけではないだろう。だが、11人と11人が戦うサッカーというゲームを勝つという意味でどちらが“上手かった”かは、明らかだった。

「世界を相手にしたとき、自分たちのサッカーが選べないというか、同じステージで戦えない歯がゆさというのはこの試合でも、前回の試合でも感じていた」と切り出した田中は、こう続ける。

「ここ4、5年、個人個人が成長する重要性が言われて、強度だったりインテンシティだったりデュエルだったりという言葉が言われるようになり、各々が意識してやっていたし、その結果個人は凄い強くなったと思う。でも1対1では勝てるかもしれないけど、11対11で勝てるかと言われたら、この2試合含めて完敗だと思う」

 グループステージでの対戦時は、試合開始早々に久保建英の一発から日本が試合の主導権を握れる展開だった。ただ、個人がそれぞれ単発で仕掛けて潰されるという場面も目立っていたが、それでもなお“個の突破頼み”になってしまっていたのは否めない。田中はそこに差を感じているようだった。「彼ら(の個人での仕掛け)に助けられた部分は間違いなくあって、ダメなわけではない」と言いつつ、こうも語る。

「2対2だったり3対3だったりになったときに相手はパワーアップするけれど、自分たちは何も変わらない。それがコンビネーションという一言で終わるのか、文化なのか分からないですけれど、サッカーを知らなすぎるというか……。彼らはサッカーをしているけれど、僕らは1対1をし続けているように感じるし、それが大きな差になっているのかなと感じている」

 田中にとって、初めての世界大会で感じた明瞭な「差」は、「チームとしてどうやって戦い、そして勝つのか」という試合の大局観の部分にあったのだろう。

■目線は既に来年のW杯

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 もちろん、その言葉の矢印は田中自身にも向けられている。

「結局、今大会で点を取っている選手も、最後守っている選手も海外でやっている選手たちばかり。自信を持ってJリーグでやってきたし、いろんな世界の国とやりながら世界を意識してきたけれど、やっぱり違うなと感じた。もちろん自分がやってきたことに後悔していることはないけれど、それ以上に彼らは成長しているし、圧倒的な差があるというのをすごく感じている。僕自身もすべてを伸ばさなければいけない。チームとしてどうやっていくのかもそうですし、限られた時間であっても、それを作っていかないことには彼らと対等に戦えない」

 この言葉は、もう田中の目線が次の舞台に向いていることを示している。ごくごく自然に見据えているのは、日本のA代表と来年冬のワールドカップ(W杯)だ。

「もちろん素晴らしいボランチの選手たちがA代表にはいますけれど、別に負ける気はさらさらないですし、学ぶべきことはありますが、そこに割って入る気でいます」

 そう宣言した日本の若きボランチは、最後にこう付け加えた。

「メキシコやスペインから感じたものもあれば、これから欧州でやっていく中で感じるものもあると思っている。いままで以上の成長スピードでそれを力にしていかないと、彼らと同じステージでは戦えない。彼らと同じステージで戦う力を、その土俵に行く力をつけないといけないと感じています」

 ドイツという新天地での戦いはすぐに始まり、そしてW杯最終予選も9月2日に開幕する。初めて臨んだ世界大会で得た糧に初めての欧州舞台で得るであろう糧を加え、Jリーグで育った田中碧が、新たなステージへの一歩を踏み出していく。

取材・文=川端暁彦

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