2020シーズンの主役は誰だ!?このテーマを語るうえで、欠かせない存在がいる。15年ぶりに優勝を成し遂げた横浜F・マリノスにおいて、得点王とMVPのダブル受賞を果たし、一躍時の人となった仲川輝人だ。
27歳にして絶頂のキャリアを迎えている仲川だが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。大学時代の大ケガ、プロ入り後に直面した試練……。なにが彼を成長させ、奮い立たせたのか。DAZN(ダゾーン)で配信中の「Jリーグプレイバック #1」では、仲川をよく知る関係者の証言とともに、彼のこれまでのキャリアを振り返っている。
■柴崎、宇佐美らと同じ“プラチナ世代”
![2020-03-27-teruhito-nakagawa02.jpg](https://assets.goal.com/images/v3/bltc0fc434405b4a2eb/e1e35045bdea96dec540788d8359d6175358e724.jpg?format=pjpg&auto=webp&width=3840&quality=60)
アンジェ・ポステコグルー監督が掲げる超攻撃サッカーで、史上まれに見る激闘となったJ1を制した横浜F・マリノス。そんな横浜FMのサッカーで欠かせない存在となったのが仲川輝人だ。161センチと小柄ながら持ち前のスピードに、抜群の得点能力で攻撃陣をけん引。MVPに相応しい活躍を見せた。
「スピードがあるのが一番、それに加えてシュート、テクニック、プラス頭脳のところでどうすれば自分がゴールを狙えるのかというところを考えながらプレーしている。Jリーグの中でもトップクラスだと思いますね」
そう語るのは、横浜FMのレジェンド・中澤佑二氏だ。現役を退いた2018年まで仲川とプレーした間柄だ。中澤氏が見るこれまでの仲川は「右サイドを崩してアシストをする」イメージであったが、近年では「ゴールへの意識が非常に高くなったのと、より相手に対して脅威になっている」と称賛。今日ではレジェンドをも唸らせる存在にまで上り詰めている。
1992年生まれの仲川は、いわゆる“プラチナ世代”とも称される年代。日本代表MF柴崎岳や宇佐美貴史が同年代にあたる。前述のふたりが若くして注目を浴びる一方で、仲川が歩んできた道のりは苦難の連続だった。
■大学でのケガ、プロ入り後に訪れた試練
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川崎フロンターレの育成組織を経て専修大学に進学した仲川は、大学3年時に関東大学1部リーグの得点王を受賞。大学2年生の時点で、すでに横浜FMが声をかけており、つねに注目の存在であった。大学時代、仲川を指導していた専修大の源平貴久監督は、当時の彼をこう振り返っている。
「入ってきてすぐ主力でやってもらった選手。頼りになる選手ですね。スピードは今と同じようにあって、テクニック、ドリブル、シュート、どれもアベレージが高い選手でした」
“大学ナンバーワン”の呼び声も高かった仲川だが、卒業目前となった4年生のときに悪夢が襲う。右膝前十字靱帯および内側側副靱帯断裂に右膝半月板損傷。選手生命をも脅かす重傷だった。
それでも横浜FMは、かねてから注目していた仲川を獲得。それはクラブの仲川への大きな期待の表れでもあった。異例の形での加入が決まった仲川は、リハビリ生活から11カ月でデビューを果たすも、その後は出場機会に恵まれず。プロ初年度は2試合の出場にとどまっている。大学サッカーで華々しいキャリアを積み上げてきた仲川にとっては、屈辱のデビューイヤーとなった。
プロ入り前から仲川を取材し続ける横浜FMの番記者・藤井雅彦氏は当時の状況を次のように話す。
「当時のマリノスには、中村俊輔やアデミウソンなど、前線に能力の高く実績のある選手が揃っていた。そういった選手たちの牙城を崩せなかったのは事実です」
また、中澤氏も当時の仲川は「入団してしばらくは、自分のポテンシャルでプレーしていた。足が速いとか上手い選手はよくありがちなんですけど、それ以上のことをしない。それでできちゃうので。もったいないなとは思っていました」と振り返る。
■J2への武者修行が彼の運命を変えた
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その後も試合に出場できない日々が続き、出場機会を求めてFC町田ゼルビアへの期限付き移籍を決断。J2への武者修行を選択したのだ。町田では全試合に先発出場し、3ゴールをマーク。結果を残して横浜FMに復帰したものの、それでも出場機会は得られず。2017年夏には再びJ2のアビスパ福岡へ期限付き移籍。すると、この移籍が仲川に大きな影響を与えたと、藤井氏と中澤氏は語る。
「守備で決してサボらない、手を抜かないこと。具体的には今何をしなければならないかを自分で考えて行動できるようになったのが、一番の収穫かなと思います」(藤井氏)
「ボールを追いかけることにネガティブになっていない。気持ちのなかでしっかりボールを取るんだと。『自分がチームの守備の第一歩なんだ』という気持ちでボールを取りに行く。テルはJ2で経験したことが今できている」(中澤氏)
![2020-03-27-teruhito-nakagawa03.jpg](https://assets.goal.com/images/v3/blt767eeae472a3b86e/0ea1c349f9e31fecd7b36743342957c0e046a6ec.jpg?format=pjpg&auto=webp&width=3840&quality=60)
2度にわたるJ2への武者修行で、選手として大きく成長した仲川。その根底にあったのは横浜FMへの思いだった。大ケガをした大学時代に仲川のケアをしたのは、試合会場に来ていた横浜FMのスタッフであったのだ。
「彼がケガをした際、すぐにアフターケアをしたんです。もちろんクラブとしてオファーを取り下げるつもりはなかった。しっかりと責任を持って自分たちで面倒を見るという方向性を当時のスカウトと強化部は決めていた。彼もその動きの早さに熱意を打たれたと話していました」(藤井氏)
横浜FMへの思いは、幾多の試練をも乗り越える力となった。
「彼は期限付き移籍するときに『マリノスで活躍するために。マリノスは大ケガをしている自分を獲得してくれた。その感謝の気持ちをプレーで返したい』と、当時いつも言っていた」(藤井氏)
■困難を乗り越えて飛躍も、まだこれから
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そして迎えた2018シーズン。ここまで3シーズンを過ごし、横浜FMでの出場はわずか6試合。プロ4年目にすべてをぶつける覚悟だった仲川が“あること”を徹底していたと、藤井氏は明かす。
「2018年の最初に取材をしていてすごく印象に残ったことがあります。今年の目標とテーマを聞いたときに、彼は『自己管理をしっかりすること』と答えた。それまでの彼は、チャンスの場面で体調不良になってしまうことがあった。彼はそこを自分のなかで改善しようと考えた。小さなことからコツコツと努力していったのは、この後つながる活躍へのターニングポイントだったのではないかと思います」
さらに、ポステコグルー監督のもとで仲川の運命は変化していく。超攻撃スタイルを標榜する指揮官は、シーズン途中から仲川をレギュラーに抜擢。プロ4年目にしてようやくJ1初ゴールを決めると、ここからゴールを量産。2018シーズンはJ1で24試合に出場し、二桁にあと一歩迫る9得点を挙げたのだ。
「目に見えて自信がつきました。今までは、もしかしたら長いリハビリ期間だったかなと思うくらい。ゴールを取ってからの彼はいきいきと輝いていたと思います」(藤井氏)
そして迎えた2019シーズン、仲川はキャリアハイとなる15ゴールを挙げ、横浜FMの15年ぶり優勝に大きく貢献。仲川の活躍はデータにも表れており、枠内シュート数は2018年が18本だったのに対し、2019年は34本と増え、ドリブル成功率も2019年は2018年の36.5%から46.4%に増加。Jリーグでの活躍が認められ、2019年末にはEAFF・E-1選手権に臨む日本代表にも初選出を果たした。
試合に出られない日々が続いた。それでも「シャーレをマリノスのために掲げることをずっと目標として加入した」という思いが彼を奮い立たせた。どん底から這い上がってきた彼を“遅咲き”と呼ぶ声もある。長年にわたり仲川を取材する藤井氏も「遅咲きかもしれない」と話す一方で「まだまだ満開じゃない。もっともっと大きく綺麗に咲き誇ってほしい」と、さらなる飛躍に期待する。
多くの困難を乗り越え、リーグ最高の選手へと成長した仲川。2020シーズンの主役候補筆頭である“ハマのGT-R”が、再開後にどんなプレーを見せてくれるのか。史上初の2年連続MVPも期待される27歳に今季も注目が集まる。
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「※」は提携サイト『 Sporting News 』の提供記事です
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