2019-09-25-sakai_gotoku©J.LEAGUE

「違いとレベルが低いは、まったく異なる話」。酒井高徳、ドイツでの経験を経てJリーグを語る/インタビュー

 2012年、20歳で選んだのはブンデスリーガ・シュツットガルト。以後ドイツで7年半を過ごし、日本代表として2度のワールドカップも経験した。ハンブルガーSVでは、日本人初のキャプテンを務め、降格昇格にまつわる批判にもさらされた。欧州の2018-19シーズンが終了したこの夏、ヴィッセル神戸へ完全移籍。すでに神戸の主力としてチームを支えている。

 プレーの迫力や強度――。いま神戸で見せている姿にその成長は如実に表れている。何が彼を変えたのか? 欧州で長くプレーしたからこそ見えるものとは? スポーツライター飯尾篤史氏がリーグ戦3試合を経た酒井高徳に切り込むインタビュー。前編はJリーグと海外との違いについてお届けする。

■戻ってきたからこそ分かる成長

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――7年半ぶりのJリーグですね。ヴィッセル神戸に加入して4日後に迎えた浦和レッズ戦(8月17日、3-0で勝利)にさっそく出場し、ここまで3試合。驚かされたのはコンディションの良さです。夏にヨーロッパから復帰した選手はたいがい、暑さやJリーグのスタイルに戸惑うものなのに、インテンシティやスピードなど、早くも全開のように見えます。

以下に続く

「ありがとうございます(笑)。神戸への移籍が決まるまで、ハンブルクでトレーニングしていたんですけど、練習試合などで出番が少なくなりそうだな、というのを薄々感じていたんですよ。それで、どこに移籍することになってもいいように、コンディション調整をしっかりしていたんです。だから、帰国したときは割と良いコンディションで。

 だから、問題は暑さだけだと思っていて。僕は新潟出身だから、暑さに弱くて(苦笑)。なので、チームに合流してから試合まで3日ぐらいしかなかったんですけど、外でランニングしたり、部屋でクーラーを付けずにいたりして、身体を慣れさせました。そのおかげで、(復帰戦となった8月17日の)浦和戦では足が攣っちゃいましたけど、割と早く順応できたかな、できる限りの力を発揮できたかな、と思いますね」

――シュツットガルトを退団する2015年の夏にはモチベーションを落として身体を動かすことを怠り、新天地のハンブルクで苦労されましたよね。そうした経験も生きている?

「そうですね。あれは、プロとしてどうあるべきか、すごく考えさせられた出来事でしたね。あのようなミスはあれ一度きり。自分がプロ選手である限り、もう二度と犯さないと自分に誓ったので、今回の移籍に限らず、教訓になっていると思います」

――8年前と比べて、Jリーグの変化、成長をどう感じました?

「当時の僕はまだ18、19歳だったので、自分が通用したという感覚はなかったんですよ。それで8年間、ドイツでプレーして戻ってきて、まず感じたのは、Jリーグの変化や成長より、自分自身が成長したな、っていうこと。プレーの選択肢の幅やプレー中の余裕、さっきおっしゃってくれたインテンシティの部分、メンタルの部分、すべての面で成長していることを実感しました。

 ずっとドイツにいたり、ずっと日本にいたりすると、自分がどれくらい成長したのか分からないんですよね。今回、こうしてJリーグに戻ってきて、ああ、海外でやってきて、自分はいろんなものを学んだんだな、っていうことを試合中に感じられたのはよかった。そこは素直に、少なからず成長した自分を、日本のサッカーファンのみなさんに披露できたかな、って感じましたね」

■海外と日本、プレスの掛け方に見る違い

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――浦和戦のあとだったか、酒井選手の試合後のコメントで興味深いものがありました。Jリーグのプレスの掛け方やデュエルの部分がドイツと比べると緩い、というような。それはヨーロッパで長くプレーした選手だからこそ感じられるもので、ありがたい指摘だと思います。差し支えなければ、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?

「まず前提として、これは批判とかではまったくなくて。僕は日本人として、日本の良いところをたくさん知っているし、日本が海外に近づくために、自分も海外に近づくために、いろいろ考えながらやってきたし、これからもやっていきたいと思っていて。その上で話しますけど、プレスの掛け方については、日本はむしろ、ヨーロッパから見ても高いレベルで組織的にプレスを掛けられるんです。規律を守りながらプレスを掛けたり、引いて守ったり、絞る、カバーするといったことを真面目にやれる。逆に、海外では、それをなあなあにして、あり得ない形で失点することも多いんですよ」

――日本のほうが組織的に、しっかりプレスを掛けられている、というのは意外でした。

「ただ、問題なのは、せっかくプレスを掛けているのに、そこで取り切る文化がないこと。ドイツでは、最初にプレッシャーを掛ける選手は、ほとんど取れると思ってない。2人目もフィフティ・フィフティで取れたらいいな、くらいの感覚。でも、3人目は80%の確率でボールを取り切る。そうやって連係してプレッシャーを掛けに行くんです。でも、日本では、パッパッパッと寄せてコースを切っているのに、最初の1人がかわされると、それがすべて台無しになってしまう。

 一方、ドイツでは、1人目が勢い良く当たりに行き、かわされても2人目、3人目がすぐに行く。ボールホルダーに常にプレッシャーを掛けてヘッドダウンさせ、パスコースを限定しているから、周りの選手はインターセプトを狙いやすい。つまり、守備のポジショニングがすごくオフェンシブなんです」

――なるほど。1人目がかわされるとスカスカになるのが日本で、そうならないのがドイツだと。

「そうなんです。日本では、みんなが寄って来ているのに、連係してないから簡単にサイドチェンジを許し、チーム全体がガーッと下がらざるを得ない場面がある。実際、この3試合でも経験しました。だから、ボールを取り切るという意味でのプレスの掛け方、デュエルの部分に関しては、海外とは差があります。僕自身もやっていて、そこさえ掻い潜れれば、(マークは)どんどん剥がれていくな、と感じますからね。ただ、こうしたことを囲み取材ではしっかり伝えられないから難しくて(苦笑)」

――今回は、しっかり伝わるように原稿にすることを、お約束します(笑)。

「はい、お願いします(笑)。一部だけを切り取ると、僕がJリーグを批判した、という感じになってしまうので。そんなつもりはまったくなくて、実際に対戦して、うまいと思った選手や、嫌だなと感じた選手はいるし、チーム戦術がハマらなかった相手もいる。Jリーグのレベルが低いなんて、まったく思ってないです。違いとレベルが低いは、まったく異なる話なので」

■ドイツ2部の強度とは?

2019-07-21 Sakai Gotoku

――昨シーズンは、ドイツ2部でプレーされました。ドイツ2部とJ1だったら、どちらのほうが、レベルが高いんですか?

「難しいですね。選手個々のスキルで言ったら、J1のほうがレベルは高いかもしれません。ただ、サッカーは足下だけじゃないんだよ、っていうことを僕はドイツで教えられた。プレッシャーを受けた状況でどうプレーするのか、肉弾戦もあるし、劣勢の中でセットプレー1本でゴールをもぎ取る、だったり、ファウルを貰うようなプレーもあれば、相手にサッカーをさせないほど激しくプレーしたりとか。そうしたボールを使う戦術以外のことをドイツで学んできたので。

 そういう意味で言うと、Jリーグのチームがドイツの2部に入ったら、サッカーをさせてもらえないと思いますね。ドイツの1部、ブンデスリーガのチームでも、ポカール(カップ戦)で2部のチームと対戦するのを嫌がるくらいですから。だから、どこを見てレベルが高いと言うか。日本のほうが勝っているところもあるんですけど、試合の勝ち負けという点ではたぶん、ドイツ2部のほうが強いんじゃないか、と思います」

――まさに、そうしたボール以外の部分の重要性を、神戸やJリーグで伝えていきたい?

「そうですね。僕自身、うまい選手じゃないので、いかに力強さやパワー、迫力を出していくか。僕がドイツで経験してきたことを伝えるのは役割のひとつ。ヨーロッパから戻ってきたからといって、シザースで鮮やかにかわして、ヒールキックでいなして、とかをしようと思ってないし、できもしない。サッカーの本質はそこじゃないと思っているし、そこじゃない部分の重要性をすごく感じているので。今も練習中、若手に伝えたり、チーム全体に声を掛けたりしているところです」

――具体的には、どういったことを?

「さっきのプレッシングの話で言えば、『(相手に)返さすな、返さすな』とか『寄せろ、寄せろ』とか。まだチームに合流して日が浅いので、伝え切れていない部分もあるんですけど、徐々に自分の経験をすべて還元していきたい。ただ、大事なのは、チームが調和することであって、自分の意見だけを伝えることじゃない。自分の経験をチームにどうプラスαするか。チームメイトがどう思っているのか、チームとしてどうなのかを踏まえた上で融合させられるといい。

 それは僕だけの話じゃなくて、アンドレス(イニエスタ)やダビ(ダビド・ビジャ)、トーマス(フェルメーレン)に関してもそうで、彼らが持っているものを、チームにうまく融合させるのがベスト。それができたとき、“本当のヴィッセル神戸”になると思うので。まだ少しバラバラなところがあるので、全員ですり合わせていきたいですね」

――融合する、すり合わせるという点で、チームの潤滑油であり、架け橋になることが、ドイツ語ができて、海外での経験も豊富な酒井選手のミッションになってくるのかな、と思います。

「そうですね。ただ、ミッションというほど、大きく捉えてなくて。もともとコミュニケーションは好きだし、人と関係を築くのも得意なので、外国人選手たちとうまく絡んでいけると思うし、日本人選手は知っている選手も多い。そういった意味で、肩肘張らず、いつも通りチームに溶け込み、いつも通り声を掛け、周りの話に耳を傾けていきたいと思っていて。

 そういう選手がひとりいれば、『自分も言っていいんだ』『聞いてもらえるんだ』っていう雰囲気になると思う。それって、目立たないことだけど、大きな意味があるんじゃないかなって。試合中の声掛けひとつで、チームの負担を軽くできる、無駄なエネルギーを使わないで済むことがある。だから、そういったことを、みんなが自然にできるようになるように、まずは自分がやっていければ、と思います」

■新潟ユース時代があるから

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――そう言えば、神戸での背番号は24番になりましたね。アルビレックス新潟でも、ハンブルクでも、この番号を背負っていましたが、酒井選手にとって特別な数字なんですか?

「そうなんです。僕は新潟のユース時代、片渕浩一郎さん(前新潟監督)に3年間指導してもらったんですけど、片渕さんに人間性の部分やプロ選手としてどうあるべきか、といったことを教えてもらったので、とても感謝しているというか。今の自分があるのは、ユース時代の3年間のおかげだと思っていて。その片渕さんがプロ時代に付けていたのが24番で、僕が新潟のトップに昇格する際、『高徳に24番を付けさせてくれ』とクラブの人に話してくれたそうなんです」

――片渕さんがクラブの人に。

「はい。でも、その話を僕は片渕さんからではなく、クラブの人から聞いて、すごく感激して。それまで背番号なんて気にしたことがなかったけど、それからは、片渕さんの名に恥じないようにプレーしなきゃダメだな、背番号に誇りを持たなきゃダメだなって。シュツットガルト時代は、すでに24番を背負っている選手がいて、2番になったんです。自分にとって24番は、誇りに思っている番号ですね」

――片渕さん本人から託されたわけではない、というのが、またいいですよね。

「そうなんです。僕が着たということもあって、新潟の24番はユース出身の選手が着る伝統の番号になっているみたいなので、僕も、新潟で引き継いでくれている選手たちの模範にならなきゃいけない、と思っていて。サッカー選手として、いい姿をみせられるように頑張りたいと思っています」

■DF 24 酒井 高徳 Gotoku SAKAI

1991年3月14日生まれ、28歳。176cm/74kg。新潟県出身。三条サッカースポーツ少年団→レザーFCJrユース→アルビレックス新潟ユース→アルビレックス新潟→シュツゥットガルト→ハンブルガーSV→神戸。J1通算78試合出場1得点、ブンデスリーガ通算170試合出場2得点、ブンデス2部通算31試合出場、欧州EL通算11試合出場1得点、日本代表国際Aマッチ42試合出場。

■インタビュー後編:神戸での今はこちら

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