なぜパイェはマルセイユに戻りたかったのか?ウェスト・ハムでの不満と古巣への愛/コラム

パイェはずっとマルセイユに戻りたかった。フランスで得られなかったものをロンドンで得てなお、彼のホームはずっとマルセイユであり続けたのだ。

富と名声を手にしたかもしれないが、ウェスト・ハムへの移籍はディミトリ・パイェにとって幸せなものではなかった。残念なことに、それは紛れもない事実だろう。1500万ユーロ(約18億円)の移籍金でロンドンへ渡って18カ月後、パイェはウェスト・ハムのためにプレーしないと決めたのだから。

そう打ち明けられたスラヴァン・ビリッチ監督は怒りを露わにしたが、それほどまでに古巣へ戻りたくて仕方がなかったのだ。

「結局、どうするかは選手次第だよ。ディミトリ・パイェはここから出ていきたいようだ」

失望のさなかに口を開いたビリッチ監督は、さらにこう続けた。

「イングランドへの移籍は彼にとっては心地よいものではなかった。ウェスト・ハムへの移籍に合意してサインする時でさえ、彼はマルセイユが買い戻してくれることを願っていたのだよ」

パイェのエージェントを務めるジャック・オリバー・アウグステはマルセイユからのオファーを待ちわびるパイェを「崖から落ちそうになりながら、それでも端に必死にしがみついている象のよう」と表現している。それほどまでに、古巣への復帰を熱望していたのだ。

当初、象は崖から転げ落ちる……はずだった。しかし、彼は踏みとどまった。そう、移籍マーケットの終盤になってマルセイユへ復帰する道筋が見え、パイェはその道を真っ直ぐと進んだのである。

彼はウェスト・ハムに移籍したことにより、フランスでは得られないような報酬を得た。そして昨年2月には、プレミアリーグの強豪クラブも太刀打ちできないような大型契約を結んだ。しかし、パイェにとってはプロヴァンス地方から送られてきたオファーのほうが遥かに魅力的だったわけだ。

■“前科”とマルセイユの変化

このフランス代表MFは、かつて母国のクラブで同じような状況に直面したことがある。2011年1月、サンテティエンヌに所属していた時代の話だ。今回と同じような強引なやり方でパリ・サンジェルマンへの移籍を企てたが、その時は失敗に終わった。数日前に「決断したんだ。もう戻ることはない」と語った男は、後日チームメートの前でバツの悪い思いをして謝罪をするハメになった。

当時、サンテティエンヌで監督を務めていたクリストフ・ガルティエは『レキップ』紙のインタビューでこう語っている。「日常生活でも彼は選手なんだ。勝つことがあれば、負けることもある。しかし、いずれにしてもいつも自分の行動に責任を取らなければいけない」と。

今回、マルセイユよりウェスト・ハムのほうが移籍市場において力のあるクラブであることは明らかだった。しかし、このフランス人テクニシャンにとって幸運だったのは、マルセイユが18カ月前と同じ状態ではなかった、ということだ。

当時のマルセイユは、自分たちのスター選手を考えられないような安値でイングランドのクラブに放出しなければならないほど、財政が火の車だった。しかし、マルガリータ・ルイ・ドレフュス前オーナーに変わりやってきたアメリカ人の新オーナー、フランク・マッコートがクラブの明るい未来を約束したことで、徐々に事態は改善されていった。

実際のところ、パリ・サンジェルマンやモナコのような規模で選手の獲得に投資することは難しい。しかし、マッコートは“チャンピオンズ・プロジェクト”に則り、リーグ・アンにおけるクラブの地位を取り戻すと明言している。名門復活に向けて必要な“ある程度の投資”を行っていく準備はあるわけだ。

2500万ポンド(約36億円)という移籍金が“ある程度の投資”なのかはさておき、少なくともパイェ復帰のニュースはファンに希望を与えた。クラブが正しい方向に進んでいると思えるような出来事だったと言っていいだろう。

■蓄積していたウェスト・ハムへの不満

マダガスカル島の東、インド洋に浮かぶフランス領レウニオン島に生まれたとはいえ、パイェにとってのフットボールのホームはマルセイユだ。なぜなら彼の才能が証明されたのは、ナント、サンテティエンヌ、リールを経てマルセイユにやってきてからの話なのだから。当時、マルセロ・ビエルサ監督が率いていたチームで安定したパフォーマンスを披露できるようになり、その後の飛躍へつながっていった。

アルゼンチン人監督は去ってしまったものの、パイェのハートはマルセイユとともにあった。

そして、すべての問題がクリアになり、復帰が決定した。

イギリスがEUから離脱することが国民投票により決まって以降、ポンドの価値が下がったことで、マルセイユはパイェがウェスト・ハムから受け取っていた週給に近い額を用意することができた。かつ、野心に溢れた魅力的なプロジェクトの最前線に立てるというインセンティブは、他の何にも変えがたい魅力的なものに映ったのだろう。

対するウェスト・ハムは昨シーズン、ヨーロッパリーグ予選への出場権を手にしながら、昨夏の移籍市場で野心的な補強をする前に敗退が決まってしまった。パイェは今シーズン、プレミアリーグで74回のチャンスを作ったが、ゴールに結びついたのはたったの6回だけだった。他の選手より16回も多くチャンスを作りながらゴールにつながらない現実も、フラストレーションの原因になったと考えられる。

要するに、ウェスト・ハムはパイェを生かしきれていなかったわけだ。思い起こせば、かつて彼がマルセイユを去ったときも、チームは同じような状況だった。

■マルセイユで待つ未来とは?

「みんなを怒らせることが結構得意なんだ」

昨年、『レキップ』紙のインタビューでそう口にした彼が、その時から今回の事態を予見していたかどうかは分からない。少なくともフランスへの帰還は、ウェスト・ハムに関わるすべての人にとって気持ちのいい出来事ではなかった。少々刺々しい表現を使うなら、遺恨を残す形となったことは間違いない。特にチームのベストプレーヤーを失ったビリッチ監督は、今でも失望していることだろう。

しかし、もう決まってしまったことだ。当事者でない多くのファンたちは、両者が歩む未来が明るいものであることを願うしかない。

マルセイユのファンたちは両手を広げて彼を迎え入れることだろう。彼も二度とスタッド・ヴェロドロームを去りたいと思うことはないはずだ。

果たしてパイェは久々のホームで、どのような魔法を披露するのか。

一つ確かなことは「みんなを怒らせることが結構得意なんだ」と語っていた男が、少なくともピッチの上ではファンに笑顔を届けるようと、全力で駆けていくことだろう、ということである。

文=ロビン・ベイナー/Robin Bairner

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