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なぜ楽天はバルサの胸スポンサーになったのか?/インタビュー

11月16日、バルセロナと楽天は世界中を驚かすパートナーシップ契約を締結した。年間5500万ユーロ(65億円)と言われる巨額契約の背景にあるものとは何か。今回の契約についてはもちろん、グローバル化が進む世界の現状とスポンサーシップのあり方の変化、そして日本のJリーグがこの時代において考えるべきことについて、世界最大のスポーツ調査会社『ニールセン・スポーツ』の秦英之社長に話をうかがった。

――まず本題に入る前に『ニールセン・スポーツ』について教えていただけますか。
「簡単に言ってしまうと、スポンサーシップの効果測定を中心にスポーツの投資に対する効果を測っている会社ですね。権利を買う側とブランド側の両方に情報を提供させていただいていて、全世界のスポーツリーグに数字を出しているイメージです」

――そうした専門家の視点からすると、今回の楽天とバルセロナの契約はどのように観ますか。
「楽天側が現状で持っているニーズと、今回のスポンサーシップがもたらす効果は非常にマッチングしていると感じています。楽天の三木谷さんもハッキリとおっしゃっていましたが、楽天側の目的は世界における楽天ブランドの『認知向上』にあります。スポンサーシップの段階として最初期段階にあるのがこの『認知』です。まずは知ってもらうことですね。その点でユニフォームの胸スポンサーというのは、さまざまな種類のスポンサーの中で最も強い効力を発揮すると言われています」

――確かにバルセロナのユニフォームに見知られぬブランド名が入っていれば、「ちょっと検索してみよう」とかなりますよね。
「バルセロナクラスのクラブになると、それだけで全世界にリーチができますからね。三木谷さんのやりたいグローバルな市場に対するブランドへの訴求。それが非常に効果的にできると思います。バルセロナとレアル・マドリード、それにイングランド・プレミアリーグのトップクラブなどは世界規模へのリーチが非常に高いんです。効果は欧州に限定されません。特にアジアなどの発展途上国で訴求できるのは大きい。その認知を起点にした多面的効果が期待できます」

――年間65億円(5500万ユーロ)とも言われている金額についてはいかがでしょうか。高くはないですか。
「前回の契約が3000万ユーロと言われていますから、金額的には大幅にアップしていますよね。ただ、正直に言いますと、今回は露出だけでも元は取れると思います。日本で朝のニュースを観ていても、この話で持ちきりでしょう。この時点で露出効果は本当にありますよね。これに加えて年間の露出もありますし、欧州CLやクラブW杯などの機会でさらにクローズアップされるでしょう。グローバルでの露出価値を考えれば、十分に元は取れてしまうと思います。今回のスポンサーシップを純粋に『広告宣伝』の点で考えても、世界中に楽天に対する認知を広げる効果はあると思います。ブランドの認知拡大を軸に展開する今回の契約は理想的なモデルでしょう。ビジネス上の目的がハッキリしていますから。目的の明確化が契約の最適化に繋がっています」

――バルセロナの前スポンサーはカタール航空でしたよね。
「少し前まで大型スポンサーとしては中東の企業であったり、韓国の自動車、電機のメーカーが多かったと思います。(電機メーカーの)サムスンの戦略もそうでしたが、これも狙いはブランドの訴求ですよね。欧州の有名クラブに出すことで世界中にブランド名を訴求できるわけです」

――日本企業も昔は多かったですよね。ユベントスの胸スポンサーはサムスンではなく、ソニーでした。
「マンチェスター・ユナイテッドの胸スポンサーはシャープでしたね。1980年代から90年代にかけて日本企業がやって来たことを中東や韓国の企業が近年やっていたという言い方もできると思います。国をまたいでの事業展開において、スポーツはそれだけ有用なんですよね。たとえば古くは富士フイルムが五輪のスポンサーになることでライバルのコダックを倒したなんて言われていますし、パナソニックがブランドを米国に浸透させたのはアトランタ五輪が切っ掛けでした」

――その中で楽天が新たに出てきた。
「そもそも近年、日本企業が欧州のクラブスポンサーに返り咲いている流れもあるんですよ。日産が欧州CLのスポンサーになったり、横浜ゴムがチェルシーの胸スポンサーになったり、エプソンや日清食品がマンチェスター・ユナイテッドのスポンサーになりましたよね。マツダがリーガのスポンサーになるなんてことも起きています」

――日本市場が次第に縮小していく中で、もう一度世界市場に向かって出て行く動きを加速させているということでしょうか。
「そうした面もありますし、それだけグローバル化した世界市場に対して(欧州サッカーでのスポンサーシップが)非常に有益的であることが分かってきているのだと思います。サッカーは世界中にファンがいますからね。そもそもスポーツの親和性は他の活動よりも高いと言われているんですよ」

――それはどういったことでしょうか?
「ブランドの訴求力。つまり認知を広げるという第一段階のみならず、スポーツには親和性の高さという武器があります。スポンサーシップを通じてファンに関心を抱いてもらい、切っ掛けとなり、商品を吟味してもらい、そして購入に至るという過程があるわけですが、当たり前のことですが、ファンはスポンサーを観に来ているわけじゃない。ただ、ユニフォームは、ファンからしたらクラブと一体となれる象徴ですよね。そこに名前を出すことで親和性が高まります。だから、スポーツのファンというのはスポンサーに対して特別なものを感じてくれるんですね。特にミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭生まれ)については応援しているチームのサポートをしてくれる企業について特に手厚い。実に7割とか8割の人がスポンサーの商品を買うというデータもあるほどです。広告業界でスポーツのスポンサーシップに対する評価が高まっているのはこうした背景があります」

――楽天の投資もそうした流れの中にあるんですね。
「今後の課題としては認知を広げる第1ステージは成功すると思いますから、いかに第2ステージに持って行けるかになってくるでしょう。どういったサービスを提供していって、購入に繋げてもらうかですね。消費者のニーズに合わせて訴求していけるかどうか」

――そもそもバルセロナが楽天を選んだ理由も気になります。
「高い金額を提示されたからこそという面も当然あると思いますが、単に金額だけではないでしょうね。サッカーファンの皆さんもご存知だと思いますが、もともとバルセロナは胸スポンサーを入れてこなかったという特別な歴史を持つクラブですから。パートナーシップとして自分たちのクラブ理念を理解してもらえることも大切にしています。今回は三木谷さんが日本国内でサッカーや野球のチームに関わり、スポーツへの理解があることも大きかったのではないでしょうか。これから世界により広く出て行こうとしている企業と一緒に伸びるということはクラブにとっても刺激でしょう」

――楽天は国内での認知拡大手段としてプロ野球を利用して成功し、それを世界版に応用する形でバルセロナのスポンサーになったということもあるでしょうか。
「(プロ野球における)オーナーシップと(バルセロナの)スポンサーシップは違いますけれど、権利の活用という意味では経験値を踏まえてやられるところはきっとあると思います。ブランド訴求として有効なことをグローバル規模で行っていくことになるでしょうね」

――Jリーグがいきなりバルセロナにはなれないでしょうけれど、より良いスポンサーシップを獲得するために必要なことは何でしょうか。
「Jリーグの場合は逆の目線ですよね。日本に市場を求める企業も世界に目を向けると、まだまだたくさんあります。世界の企業が日本のプラットフォームを狙うこともある。中から外という現象が今回の契約ですが、グローバル化が進んでいるわけですから、外から中という現象もあり得る。ニーズのマッチメークの問題にもなってくると思っています。あとは企業との親和性をどう高めていくか。よりもっとパートナーシップという目線で、胸スポンサーといかに組めるかということが重要だと思います」

――スポンサーシップからパートナーシップという考え方ですよね。
「世界はもう完全に切り替わっていますよ。Jリーグでも、たとえば明治安田生命とJリーグの契約は欧米型のパートナーシップです。クラブにとって最大のパートナーシップが胸スポンサーになりますが、当然のことながら胸スポンサーに入る企業には企業なりの思惑がある。そことの親和性をどう強化していくか。クラブと企業が相互に貢献できるかだと思います。ただのメディア露出だけでは限界があります。日本は五輪という大きな歴史的イベントが控えている中で、スポンサーシップのあり方が見直されつつあります。Jリーグは2020年の先にあるものを盛り上げていく使命がある。この波に乗ってスポンサーシップのあり方、お互いにWin-Winとなれる新しい形を作っていくタイミングが来ているのだと感じています」

フリージャーナリスト/川端暁彦