データコラム:データで浮き彫りになるザックジャパンの敗因

「自分たちのサッカー」に縛られた日本とペナルティエリア内で勝負できなかったエース本田

日本は何ができて、何ができなかったのか

ワールドカップ(W杯)1次リーグ第2戦で日本はギリシャ相手に引き分け、首の皮一枚で決勝トーナメント進出の可能性を残した。迎えた最終戦のコロンビア戦。ザッケローニ監督は山口に代えて青山を今大会初先発させ、香川を本来の左サイドハーフ、大久保をワントップで起用した。

対するコロンビアはすでに決勝トーナメント進出を決めているため、第2戦のコートジボワール戦からメンバーを8人も入れ替えた。同じメンバーはGKオスピナ、左サイドバックのアルメロ、右サイドでプレーするクアドラドの3人だけだった。

この最終戦を迎える前から今回の日本は2006年のドイツワールドカップ(W杯)を彷彿させるとする声も聞かれたが、終わってみれば、当時の日本が最終戦のブラジルに負けた時と同じ1-4での敗戦となった。異なる点があるとすれば、当時のブラジルがカカ、ロナウジーニョ、ロナウド、ロビーニョらベストメンバーだったのに対し、今回のコロンビアが控え組だったということだ。

勝つことが1次リーグ突破の絶対条件だったこの試合で、日本は何ができて何ができなかったのだろうか。そして、何をすべきだったのだろう。

最初のイラストを見てほしい。これは試合を通じてのプレーエリアとポゼッション率を示したものだ。

データ提供: 

最後は「自分たちのサッカー」をやろう、「日本らしさ」を出して勝利しようと一丸となって戦った軌跡がこのイラストに表れている。まず、自分たちで試合のイニシアチブを取るための高いポゼッション率がデータ上に示されている。また、相手陣内の深い位置でプレーする勇気を持とうということで、中盤でのプレー回数が減少し、アタッキングサード(ピッチを縦方向に三分割した際、最も相手ゴールに近いエリアを指す)でのプレー回数が増加している。


「ボールの保持=主導権を握ること」ではない

試合当初から勢いと勇気を持って前へ前へと出ようという選手たちの思いは試合を見た多くの人にも伝わったはずだ。しかし「自分たちのサッカー」ができた先に待っていたのは1-4の敗戦、1次リーグ最下位という現実だ。

いくつか考え直さなければならないことがある。「ボールの保持=試合のイニシアチブ(主導権)を握る」という考え方は正しいのだろうか。だとするとグループリーグ全勝で突破したコロンビアは試合のイニシアチブを握っていなかったのだろうか。

サッカーではボールを持っている時と持っていない時の両局面と、どちらもボールを持っていない時の計3つの局面しかない。攻守、あるいは守攻の切り替えもこの3つのどこかに入る。コロンビアも、ギリシャも、日本にボールを持たれてはいたが、イニシアチブまで取られていたわけではない。ボールを「持たせ」、奪える場所とタイミングを耽々と狙い、奪った後に素早く「攻撃」のスイッチを入れていた。

つまり「ボールを持っている」という現象ではなく「ボールを持たせている状況」、「奪いにいく状況」、「奪った後は素早く攻撃に移る」という一連のプロセスをチームとして共有して「ゲームプランそのもののイニシアチブ」を握っていたのである。

逆に日本はボールを保持していてが決してイニシアチブは取っていなかった。何故ならボールを回して最後どこで突破するかというイメージを共有出来ていなかったからだ。


両国のエースの“仕事”に決定的な差

この試合に関して相手陣内でプレーが多かったのは「縦パス」が多かったからではない。「縦方向へのロングボール」が多かったことでシンプルに相手の陣内にボールが運べたことが一つ目の理由だ。そしてその結果発生したセカンドボールに対して必死で奪いに行ったことが二つ目の理由だ。

Duels(フィフティ・フィフティのボールをどちらが奪ったかを示すデータ)は28勝16敗(勝率63.6%)と圧勝だった。これが前半の日本代表の迫力の一つの姿だ。ただ問題は、そこで奪ったボールをどうするかというアイデア(Idea)と奪ったボールを何とかする個の力(Individual)という2つの「I」が不足していた。

Individualについて見てみたい。この日、コロンビアはロドリゲスが後半から出場したことで戦況を一変させた。それは初戦のコートジボワール戦のドログバ登場を彷彿とさせた。先発だろうが途中出場だろうが、エースにはエースとしての役割がある。ロドリゲスのパス数は後半の45分間で21本、成功率は85.7%だった。相手陣内でのパスの成功率は92.3%、アタッキングサードでの成功率は100%だった。

日本のエース本田のデータを見てみよう。パス数40本、パスの成功率は80%だった。それが相手陣内でのパスになると76.5%、アタッキングサードでは68%にまで下がる。高い位置にいけばいくほど成功率が上がるロドリゲスとは逆の傾向だ。理由は簡単だ。ロドリゲスが高い位置でパスを受ける時は日本のボールを奪った後のカウンターの場面が多かったからだ。

カウンターの利点は相手チームの守備組織が整っていない状況で攻撃を仕掛けられることにある。日本のディフェンダーは当然ボール保持者にまず目がいく。つまりロドリゲスに目がいったため、パスの受け手へのケアが足りなくなる。高い位置であれ、フリーの選手へのパスの難易度は低い。

一方、本田が高い位置でボールを保持した時、本当にイニシアチブを取っていれば、失わないように回すパス、勝負をかけるチャレンジのパスに対して、それぞれ味方の選手が反応するはずだ。日本の3失点目はまさに本田がバイタルエリアと呼ばれる高い位置で受けたパスに対して味方の反応のスイッチが入らず、出し場所を探しているうちにボールを奪われ、そのカウンターから生まれている。

二つ目のイラストを見てほしい。これは本田(左)とロドリゲス(右)のプレー位置を示したものだ。

データ提供: 

90分間、60%以上ボールを支配していたにもかかわらず、ペナルティエリア内でプレーできなかった本田と、後半45分間、ポゼッション率もパスの成功率も圧倒的に低かったにも関わらず、ペナルティエリア内で5回もプレーし、決定的な仕事をしたロドリゲスの違いが浮き彫りとなっている。


W杯は自分たちのスタイルの発表の場ではない

これは「Individual=個」のデータではあるが、個を責めているのではない。個が活きるためにはそれ以外の選手のサポートが必要であり、個を活かす戦術が重要なのだ。

2010年のワールドカップ南アフリカ大会で本田が輝いたのはそのフィジカルの強さと技術の高さが評価され、後方で徹底的に守備をして奪った後の前方でのボールの収めどころという役割がはっきりしていたからだ。当時の日本代表のパスの三分の一が本田経由だったという事実がそれを示している。

同様に今回のコロンビアも、ロドリゲスという個の才能を活かすための戦術を貫いていた。一方で、ポゼッションという言葉に象徴される「自分たちのサッカー」に縛られ、キープはするがブレークできず相手のゴール前で詰まってしまう状況が続いていたザックジャパンは、残念ながらエースを輝かせることはできなかった。

4年前、イタリアの名将ザッケローニと共に出航した日本代表の航海は1次リーグ最下位、勝点1という結果を残してブラジルの地を去ることになった。この航海の航路が正しいものだったか、そうでなかったかについては十分な検証をし、評価する必要がある。

ただ、その検証を待たずして分かったことがひとつだけある。W杯での戦いは自分たちのスタイルの発表の場ではなく、国の威信を背負って戦う場であり、その国の国民に夢を与える場であるということだ。そのことを、この大会の多くの日本代表戦「以外」の試合を見て分かったというのは正直寂しい限りだ。

そう考えると負けた後の渋谷のスクランブル交差点でハイタッチを交わす青いユニフォーム姿、1次リーグ突破が既定路線かのようなメディアの事前報道、勝利や敗戦について「自分たちのサッカー」の出来具合を理由にする選手のインタビュー……。とてつもなく、たくさんの違和感を覚えた日本のW杯狂想曲だった気がする。

決勝トーナメントはW杯の第2幕の始まりだ。日本代表の航海は残念ながらここで終了したが、厳しい1次リーグを勝ち抜いた歴戦の勇者たちの戦いを今後もしっかり分析していきたい。


analyzed by ZONE World Cup Analyzing Team
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データ提供元: 

サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

 

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