リーガコラム:S.A.D.が切り離したリーガの地域性

クラブの株式会社化、リーガにおける是非
リーガエスパニョーラのクラブの正式名称において、S.A.D.と書かれているのを見たことがないだろうか? これはSociedad Anonima Deportivaの略で、スペインで株式会社として経営するプロスポーツクラブを指している。

スペインプロリーグ機構(LFP)が管轄するリーガ1部、2部Aに所属するクラブは、1992年から株式会社化することをスポーツ法によって義務づけられた。法的、財政的責任を与え、また収支決算の公表などが、クラブの健全経営に役立つものと思われたためだ。ただし、レアル・マドリー、バルセロナ、アスレチック・ビルバオ、オサスナの4クラブは例外。彼らは1992年以前の5シーズンの決算で赤字を出さなかったことで、ソシオ制の廃止を強要されなかった。

このS.A.D.は、スペインで長らく議論の的となってきた。それもそのはず。クラブの健全経営を後押しするスポーツ法のはずが、1部&2部Aのクラブを併せた負債総額が約35億ユーロにまで膨れ上がる始末だ。ファンがスタジアムで首脳陣の辞任を要求する光景は、もはや日常的なものとなっている。

そのような状況で、スペインサッカー株主&ソシオ連盟(FASFE)がクラブにおけるファンの存在、影響力の重要性を討議するフォーラムを開催した。これはファン組織の存在を通じてスポーツクラブの健全運営を促す機関、サポーターズ・ダイレクト・ヨーロッパ(SD)と連携して開かれたもので、SDは事前にリーガのクラブのファンを対象としたアンケート結果を発表。それは、ファンがクラブの運営から切り離されていることを明確にするものだった。「クラブの運営方法に同意していますか?」、「クラブの方針にあなたは関与していると思いますか?」という問いに対し、それぞれ70.9%、90.2%がNOと返答。「S.A.D.をどう捉えていますか?」には、85.1%がネガティブなものと答えている。さらに、「クラブの経営を一語で表すと?」との問いかけには、「腐敗」「無能」「汚職」「悲劇」「泥棒」などが並ぶ結果となった。

S.A.D.のクラブによる泥沼経営

ファンがこのように答える理由は十分だ。S.A.D.の名を冠するクラブが、泥沼の経営を行った事例は枚挙にいとまがない。アトレティコ・マドリーであれば、故ヘスス・ヒル前会長がカンテラを解体し、数々の汚職が暴かれた際に2部降格。バレンシアならばフアン・ソレール前会長が新スタジアム建設計画を打ち立てた際に、不動産融資関連などで3億5000万ユーロの負債を抱えた。またクラブのファンデーションは、2008年にバンキアからの融資によって8100万ユーロの増資を行ったが、利息の560万ユーロすら返せない有様。貸し付けを保証したバレンシア自治州政府が対応に苦慮しているところだ。

最悪なケースとしては、ラシン・サンタンデールのものが挙げられる。インド人投資家アリ・サイド氏が率いるウェスタン・ガルフ・アドバイザリー(WGA)社に買収されたラシンだが、不動産詐欺などの容疑にかけられる同氏は、債務支払いなどの公約を守らず。財政難どころか経営の操縦桿すら失ったクラブは、昨季に2部に落ち、創立100周年を迎えた今季に3部降格への道をたどっている。地元ファンの小株主は先の株主会で、WGA社の人間にこう声を荒げた。「お前たちはクラブの所有権を持っている。だがファンは一切持っていない。我々はラシンだが、お前たちのラシンじゃない。そうアリに伝えろ!」。

積極的に経営に介入するファン組織も…

さて、今回のフォーラムでは、S.A.D.のクラブであるにも関わらず、積極的に経営に関与したファン組織の代表者も出席。“ポル・ヌエストロ・ベティス(我々のベティスのために、通称PNB)”のカミロ・プエルト氏は、同組織が収めている成果を発表している。

前述の例に漏れず、筆頭株主であったマヌエル・ルイス・デ・ロペラ前会長の汚職によって、大きな混沌に包まれていたベティス。PNBはクラブの危機的状況を危惧するファンを中心に2007年に設立され、2009年にはクラブ史に残る大規模なデモ運動を発起。そして、ロペラ前会長が経営する会社とクラブのつながりを暴き出すことに貢献し、裁判によって同氏が保有する株式を凍結させることに成功した。PNBはクラブの株式の5%を集め、臨時の株主総会を開くほどの権力を有するまでとなっている。

S.A.D.である限り…

PNBの実績は誇れるものだ。しかしS.A.D.の全クラブに言えることだが、経営が泥沼化する恐れを拭い去ることはできない。現にベティスは、セビージャ検事局がロペラ前会長の保有する株式の凍結解除を裁判所に求めたことで、現経営陣と旧経営陣の対立が生まれている。

またスペインの大不況の煽りを受け、2部Aに昇格したクラブにとってS.A.D.へと移行することは大きな問題となっている。今季であれば、昨季のコパ・デル・レイで準決勝まで進出し話題となったミランデス、そしてルーゴが6月までにS.A.D.となることを義務付けられ、そうしなければ強制降格に。ルーゴのカルロス・モウリスSD(スポーツディレクター)は、現状におけるS.A.D.への移行をネガティブに捉えている。「CSD(スペイン政府・スポーツ上級審議会)からは、300万ユーロの資本金が必要と言われたよ。今日のような不況下でその額を用意するのは、負債をつくらない限り不可能だ。オビエドは倒産を回避するための増資を行ったが、大きな苦労を強いられた。アルバセテも同様の状況に陥っている。ルーゴより規模が大きい彼らのようなクラブが解散の危機に陥り、どうして我々に同じ問題が起こらないと言い切れる?」。

ソシオ制こそが理想的な経営か


一方で、ソシオ制を維持するマドリー、バルセロナ、アスレチック・ビルバオ、オサスナはどうか。ソシオ制は株主総会に代わり、ソシオが出席する総会が毎年開かれ、その場で収支決算や新事業などの承認が投票によって行われる。4年に一度会長選挙が実施されることも、大きな特徴だろう。またカンプ・ノウの老朽化が進み、全面改装か移転という選択を迫られるバルセロナは、ソシオに決定を委ねる方針だ。ファンは、クラブの経営に確実に関与している。

ただソシオ制にも問題はある。バスク主義を貫くアスレチックは特別としても、増資という選択肢がないオサスナはその成長性を妨げられる。またマドリーとバルセロナもそれぞれ1億2400万ユーロ、3億3500万ユーロの負債を抱えており、健全な経営を行ってきたとは言い難い。2強のソシオからの収入は総収支のわずか15%程であり、彼らの強大さを維持するのは銀行からの融資、そして全世界を対象とすることが可能な放映権&マーケティング収入だ。

ブンデスリーガに見るもう一つのモデル

今回のフォーラムで討議者が目を丸くしたのは、ハンブルガーSVのファン組織代表、ジェンズ・ワグナー氏の発表だった。ブンデスリーガではクラブが株式会社、有限会社として経営する場合にファンが議決権の51%を持つことが義務付けられ、地域ガバナンスが保証される。今季ならばハンブルガーSVは年間チケット料金を25%増やす予定だったが、それを覆すことに成功。そのほか、クラブ公認の様々なイベントを開催するなど、ファンの拡大にも一役買っている。これを聞いたスペインメディア、ファン代表の意見は、「我々の道のりはまだまだ長い」だった。

クラブとファンが向かい合う時

スペインにおけるサッカーの存在価値は、我々の想像を超えるものだ。スペイン最大の発行部数を誇る新聞はスポーツ紙の『マルカ』であり、その記事の7~8割近くをサッカーが占めている。ここではサッカークラブの広報・広告のコンテンツとしての価値が非常に高く、地域を越えたところで株式を買い求める動きが栄えることとなった。しかし2強との格差によるリーグ全体の競争力の欠如、そしてこの大不況下にあって、S.A.D.というスポーツ法が失敗であったという事実が浮き彫りとなっている。

ただ2013年には、放映権料分配方法の改善含め、スポーツ法の大幅な改正案が立法議会に提出される見込みとなっている。FASFEはこの機会に乗じ、S.A.D.の義務排除や新たな経営の形について、CSDとの交渉を開始したようだ。情勢は、変わりつつある。

リーガが世界的なコンテンツであることは、現在も揺らいではいない。現に海外への放映権売却額は、プレミアリーグに次ぎ2番目だ。だがテレビから伝わるべきは、選手たちのプレーのほか、試合の熱狂を形成するファンの姿のはず。リーガには鬼門、難所と称されるスタジアムが多々あるが、その呼称がファンによって生み出された事実を忘れてはならない。今季にはセビージャ、バレンシア、ヘタフェらのウルトラスが、クラブへの不満を理由にストライキを敢行したが、クラブとファンが正面切って話し合う時を迎えたのではないか。今年、一歩を踏み出せるかに注目したい。

文/江間 慎一郎
1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトに勤務した後、リーガエスパニョーラを直に体感するために2008年に渡西。マドリッドでプロサッカークラブや現地メディアとのつながりを深めながら、日本に生きた情報を提供している。寄稿する媒体は「Goal.com」「スポニチ」「TheWORLD」など。WOWOWの現地通信員も務める。Twitterアカウントは @ema1108madrid