「嘉人さんに負けるな!」…小林悠の誓いと芽生えたエースとしての自覚/Goal25コラム

2015シーズン終了後、変化の必要性を感じた小林悠。クラブの偉大な先輩の背中を追って、毎日目標を確認することで大きく成長した2016シーズン。ただのストライカーではなく、”エースストライカー”として、チームを悲願のタイトルに導く決意を語った。

2016年を迎えるに当たって川崎フロンターレの小林悠は、ある誓いを立てていた。「2015年はケガも多かったので、自分の中の何かを変えたいなって思ったんですよね」 1枚の紙を取り出すと、そこに大きな文字で目標を書き記した。

・ケガをしない

・得点王

その紙を寝室のドアの内側に貼り付けた。起床して扉を開けるとき、その紙を見なければ、彼の1日は始まらない。すべては自分自身に強く言い聞かせるためだった。さらに気づいたことがあれば、そこに新たな指針を書き込んでいった。

・嘉人さんに負けるな!

いつしか「得点王」の横には、その言葉が書き加えられていた。「(大久保)嘉人さんが3年連続得点王を獲得して、常にゴールを取ってきているということもあって、どこか遠慮している自分がいたんですよね。嘉人さんだけじゃなく、(中村)憲剛さんにもそう。どこかで2人に頼ってしまっているというか。それではダメなんじゃないかなって思って、昨年のオフに何かを変えたいなって考えたとき、その言葉を紙に書いて、扉に貼ったんです。毎朝、その紙を見ないと、扉が開かないので、今も見てますね。その効果がどれくらいあったかは分からないですけど、確実に昨シーズンとは大きくメンタルが変わりました」

2015年、小林は度重なるケガに見舞われ、リーグ戦の成績は18試合5得点に終わっていた。「ケガさえしなければ、やれる自信はあった」と話す彼は、だからトレーナーからのアドバイスに従って、練習や試合中にはマウスピースをつけるようになった。加えて水分補給をこまめに行うようにしたほか、チームの練習以外にヨガへ通うなど、より身体のケアに細心の注意を払うようになった。その結果、2016年はシーズン終盤までケガすることなくピッチに立ち続け、2ndステージに入ってからは7試合連続ゴールをも記録した。そして、自身にとってキャリアハイとなる15得点を叩き出したのである。

「今季は頭も左足も右足もまんべんなくゴールが取れた。あと、チームを勝たせる、試合を決定づけるゴールというのも多かったと思うので、今までのシーズンとは自分でも違うなって感じますね。ケガをしないようにする取り組みもそうですけど、やっぱり一番大きかったのは、メンタル的に強くなったことだと思います。結局、得点王は獲れなかったですし、嘉人さんを超えることはできなかったですけど、15得点を決めて肩を並べることができたのは、『嘉人さんに負けるな』という意識を持って臨んだことが大きかったと思います」

チームの勝利と自身のゴールを積み重ねていくことで芽生えていったのは、紛れもない“エースストライカー”としての自覚だった。「前日に軽いぎっくり腰みたいになってしまって、腰がすごい痛かったんですよね。でも、リーグ戦残り2試合だったし、鹿島アントラーズとの大一番。腰が痛いくらいじゃ休めなかった」 2ndステージも佳境を迎えた第16節の鹿島戦に強行出場した小林は、前半37分に負傷すると、今季はじめて戦線を離脱した。結果、その鹿島に0-1で敗れたチャンピオンシップ準決勝は、スタンドから見守ることになった。

「(チャンピオンシップ準決勝の)ピッチに自分がいられなかったこと……自分で言うのもなんですけど、精神面においてもそうですし、自分がいれば、もっとこういうことができたんじゃないかと考えました。メンタルの部分でも、もっとみんなを勇気づけられただろうし、もっと鼓舞できたんじゃないかって。今季は、これまで勝負弱いと言われてきたフロンターレをどう変えられるかというのをテーマにしながらやってきた。その結果、少しずつチームとしても変わってきていただけに、一番大事な試合に自分が立てなかったことが何より悔しかったですね」 だから、来季に向けて複数のチームからオファーを受けていた小林だが、フロンターレに残ることを決めた。

「今回は正直、自分でも移籍を選択するんじゃないかなって思っていました。それくらい本当に悩んだんです。でも、チャンピオンシップ準決勝でチームが負けて、その場に自分がいられなかったとき、『このままじゃダメだな』って思ったんです。このまま他のチームに行くわけにはいかないって。あのとき、来年も自分がプレーするチームはフロンターレだということが決まりました」 そして、スタンドから見届けたチャンピオンシップ準決勝の帰り道、小林は代理人に電話を掛けると、こう伝えた。「オレ、来年もフロンターレでプレーします」

愛するクラブでゴールを積み重ねてきたことで、ストライカーとして成長し、自信を培ってきた。ただ、それ以上に今の彼には、自分のプレーで、ゴールで、チームを勝利に導くことができるという自負がある。ただのストライカーではなく、エースストライカーとしての自覚——「自分がいればチームを勝たせることができる」。

小林は、川崎の“エースストライカー”としてタイトルを目指す。

文=原田大輔