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【日本代表コラム】多様性とコーディネート力 初陣に見えたハリルホジッチの「適性」

岡崎慎司と本田圭佑のゴールはヴァイッド・ハリルホジッチ監督の演出がピタリと決まった「劇的」得点だった。

ハリルホジッチ監督の日本代表初陣で、チュニジアは立ち上がりこそ攻勢に出てきたが、その後は疲れの色が出て、守備一辺倒になってしまった。そこに日本代表歴の長い選手たちの投入である。 日本はプレースタイルを変え、チュニジアの混乱を誘った。

代表経験の浅い選手たちがプレーしているときは、大胆に前方へとパスを送り、縦に速いサッカーでチュニジアを疲弊させた。ところが本田と香川真司を同時投入した時点からは、選手たちが自分で判断してタメをつくり、細かく丁寧にボールを動かす去年までの日本代表の姿に戻り、崩していったのだ。

78分の得点では酒井宏樹、長谷部誠、岡崎、香川、本田、岡崎と揺さぶりながら最後は岡崎をフリーにして決めた。83分は本田、宇佐美貴史、岡崎、香川、こぼれ球を本田と、これまた多くの人数をかけてゴールしている。 ハリルホジッチ監督が球際の厳しさと攻守の切り替えの早さを要求しつつも、選手の自由度を残したことが2人のゴールを演出した。しかも監督に正式就任してわずかに2週間、練習にして4日間を経ただけで、成果を上げた。

「基本的な守備の方法は、短い間ですが練習もしましたし、特別なことはありませんでしたから混乱しませんでした。ただ、細かいところをまだまだ詰めていかなければいけない。今日の試合のフィードバックを得てミーティングもあるでしょうし、選手たちでも話し合わなければいけないと思います」(吉田麻也)

「どんな質問をしても監督は同じ話から答えをスタートする」。試合前日会見では、そうぼやく記者がいた。何を聞いても「私は皆と話をしています」と必ず付け加えられたからだ。チームスタッフによれば、監督はいろいろな人たちと連日深夜までディスカッションを続け、コミュニケーションを深めているという。そこで生まれた理解が監督の采配の一助になったのは間違いないだろう。

一方で、チュニジア戦勝利の要因には相手の調子の悪さがあったことも忘れてはならない。 「相手は思ったよりも相手の攻撃のパターンが少なかった。ダイアゴナルに走るところだけをケアしていました。あとは大きな選手が多かったので無駄なファウルをしなようにとミーティングで言われていて、守備に関してはほとんどうまくできました」と吉田は話した。パターンが少なかったどころか、チュニジアのシュートは前後半1本のみ。日本は脅威にさらされなかった。そのため、大胆に守備ラインを組み替えた今日のメンバーでも混乱は生じなかったと言える。

31日に対戦するウズベキスタンはこの日、韓国とアウェーで対戦して、先制を許しながら引き分けに持ち込んだ。そのウズベキスタンならば、監督の采配から劇的演出という要素を減らして、新生日本代表の実力を明らかにしてくれるかもしれない。

それでもこの日の采配を観る限り、これまで「堅守速攻」だけを主体とするかのように思われていたハリルホジッチ監督が、実はベースをカウンターに置きながらも選手たちの個性を取り入れ、複数のパターンをコーディネートする能力に長けているとも思える。そしてその多様さこそが、引いた相手を崩さなければならないアジア予選と、相手に攻め続けられるワールドカップ本大会の両方に対策を練らなければならない日本において、指導者に求められる思考でもある。

まだ1試合で判断することはできないが、新監督が日本を率いるのに適した資質を持っている可能性は、十分にあると言うことができるだろう。


文/森雅史