コラム:高校時代から変わらない本田圭佑のメンタル

報道陣に無言を貫く本田には…
試合後のミックスゾーン。本田圭佑は報道陣の問いかけにも反応せず、無言のままバスに乗り込んだ。

ブラジルワールドカップアジア最終予選、オマーンとのアウェー戦で、日本は岡崎慎司の終了間際の決勝弾で2-1の劇的勝利を収めた。しかし、背番号4の日本のエースは、思うようなプレーが出来ず勝利に貢献できなかったという自負があったのだろう、試合後の彼の表情がそれを物語っていた。

確かに全体的なパフォーマンスは精彩を欠いていたが、それをもってしても彼の存在感はピッチ上で相手にとって脅威になっていた。オマーンでの本田圭佑の認識度は非常に高かった。マスカットに到着すると、さっそく「ホンダ~」と声を掛けられた。オマーンはサッカー熱が高く、ヨーロッパで活躍する選手たちに詳しい。「カガワがいないのはラッキーだが、ホンダがいる」と口にする人たちもいた。

試合でもオマーンは当然のように、本田のマークに人数を割いてきた。本田がボールを受けると、すかさず2、3人で囲み、前を向かせないようにした。だが、それでも本田は屈強なフィジカルを生かしてボールをキープし、FW岡崎慎司の飛び出しやDF長友佑都のオーバーラップを引き出した。そして64分にFW前田遼一に代わってDF酒井高徳が投入されると、本田は1トップにポジションを上げ、前線のターゲットとして日本の攻撃をけん引した。同点に追い付いて勢いに乗るオマーンも、前線のこの男を警戒し、ある程度の枚数を守備に残していた。だからこそ、オマーンの攻撃の厚みが少し減ったこともあり、最終的にはカウンターから決勝弾をもぎ取ることが出来た。

得点に絡むことなく終わったが、前述したように存在の大きさは際立っていた。本田にとってこの試合は非常に難しいものだった。オマーン入りの直前まで極寒のロシアでプレーをしていた。氷点下まで気温が下がるモスクワから、30度を超えて湿度も高いオマーンへの移動。コンディション面での調整は非常に難しいものがあった。だが、前日練習でも彼はいつもの表情で、明るくチームを盛り立て、練習後のミックスゾーンでは鋭い眼光でまっすぐに歩いていく。無言のままミックスゾーンを抜けると、ファンが待つゾーンでは一人一人丁寧にサインをしてからバスに乗り込んだ。

試合前に本田が語らないことは有名だ。それは試合に向けて集中力を研ぎ澄ますため。試合前の彼が見せる表情は、高校時代から変わっていない。口を真一文字にして、鋭い目をする。そして、試合前の一瞬一瞬の緊張感を楽しむかのように、自らの中に闘志を徐々に燃え上がらせていく。いつもの本田がそこにはいた。そして試合後、冒頭で書いたように、納得できない出来に無言を貫いたが、その表情は怒りではなかった。これは憶測に過ぎないが、おそらくこのコンディションの中で自分が何をすべきだったのかを整理しているように見えた。自らの出来をゆっくりと噛み砕き、これからさらに自分に必要なものを追求していく。この姿勢の表れだったと筆者は感じた。

全員が乗り込み、ゆっくりと動き出すバス。筆者が最後部に座る本田に手を挙げると、彼もこっちを見て手を挙げた。そのときの表情で十分に彼の気概は伝わった。さらに成長を欲する本田圭佑。オマーンの地でも相変わらず妥協を一切許さない彼がいた。


文/安藤隆人(あんどう・たかひと)
1978年生まれ。元銀行員の異色の経歴を持つサッカージャーナリスト。ユース年代を日本全国、世界各国取材し、『ユース教授』の異名を取る。今年月に自身の取材活動をノンフィクションでまとめた『走り続ける才能たち 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)を出版。若き日の本田圭佑、岡崎慎司、香川真司などの素顔に迫った内容は、好評を博している。