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英国視点からの欧州訪問紀(9):サッカーはじゃんけんのようなもの

■殺伐とした雰囲気のもと行われたビッグマッチ

セリエA第25節、ローマ対ユヴェントスの一戦は1-0でホームのローマが勝利を収めた。試合前から、イタリアではおなじみの発煙筒が投げ込まれ、爆竹音が鳴り響く少々危険なイタリアらしい雰囲気の下、試合は始まった。

改めて書くまでもないかもしれないが、スタディオ・オリンピコの席とピッチの距離は遠い。スタジアムの質では英国に圧倒的に劣ることを再確認させられた。そしてイタリアが英国に比べて劣るのがスタジアムでの安全性だ。英国もときには、スタジアムに危険な香りがすることもあるが、基本的には身の危険を感じることはない。しかし、イタリアでの観戦は少し注意が必要なのだと感じた。

とはいえども、ローマ対ユヴェントスというビックマッチというのもあり、普段は空席が目立つスタジアムも、この日ばかりはほぼ埋まり、これはこれで素晴らしい雰囲気であったのは言うまでもない。


■プレミアではあまり観ることのできない3バック対決

試合が始まると、プレミアを中心に追いかけている私にとっては3バック対決という面白い絵がピッチに描かれ始めた。

プレミアで3バックを採用しているチームは少ない。基本的に3バックを採用しているのはウィガン、アストン・ヴィラ。オプションとして採用することがあるのはマンチェスター・シティ。よって3バック対決というものは頻繁に観られるものではなく、とても興味深かった。

この日のローマは3-4-3、ユヴェントスは3-5-2。特にユヴェントスの3-5-2は、2人のセンターハーフ(CH)にトップ下(OH)を配置する典型的な中盤が△型のものではなく、中盤の底(DH)にアンドレア・ピルロを置き、CHとしてポール・ポグバ、アルトゥーロ・ビダルを配置する中盤が▽型のものだった。


■攻める続けるユヴェントス、集中して守るローマ

この日のユヴェントスの組み立ては、3バックとDHのピルロの4人で行った。特にピルロ、バルザーリが前線へ縦パスを供給し、後方から組み立ての起点となっていた。

そして崩しの局面においては、2人のセンターフォワードに加え、CHの一角もペナルティーエリア内に入る。そこにウイングからのクロスや、もう一人のCHからの縦パスを入れることでローマDFの攻略をねらっていた。

一方のローマは、ユヴェントスが4人で組み立てるのに対して、フォワード3人でサイドに追い込むようにプレスをかけていた。しかし、そのプレスのかけ方はどこかダメ元のようで、そのプレスを突破されるのは予想済みとばかりに残りの7人の選手は引いて守っていた。

そしてその引いた7人は、5バックと2人のCHのシステムでゴール前のスペースを消し、奪いに行くというより、ペナルティーエリアに来るボールを跳ね返すように守っていた。また3トップのうち、ラメラのみが遅れて戻ってきて、かなり重心の低い5-2-1-2のようなフォーメーションで守り、、ローマの低い位置での守備は、5バックのうち4人は常にペナルティーエリアにいる状態だった。

この状態でユヴェントスが強引に得点をするのは難しい。そのためユヴェントスはローマDFをペナルティーエリアから引きずり出す必要があった。しかしそれが出来ず、ユヴェントスはチャンスらしいチャンスを作れずに前半を終えた。

だが、ローマも重心が低い上に、カウンターに2人しか人数をかけないために、チャンスはほぼなかった。

両チームとも前半は得点の匂いを感じない、静かな展開だったと言える。


■少しオープンな展開になった後半

後半が始まると、ローマが少し戦い方を変えてきた。前半のラメラは戻って守備をするようにしていたのだが、後半になると、比較的高い位置をとるようになっていた。結果、カウンターにかける人数が増えたのと、ユヴェントスが連戦の疲れからか攻守の切り替えが遅くなったのもあり、ローマにもカウンターからのチャンスが増えてくる。

すると58分、ピアニッチのFKのこぼれ球をトッティがペナルティーエリア外からダイレクトでシュートし、それが見事にネットに突き刺さる。こぼれ球の位置を予測し、あらかじめ動き出し、素晴らしい技術で強いシュートを飛ばす。年を取り、身体能力は落ちても、インテリジェンスと技術があればまだまだやれる…それを証明するかのような見事な一発だった。

点を取り返したいユヴェントスだが、連戦の疲れからか、一向にスイッチが入らない。そのままローマの牙城を崩せず90分を終了した。

ユヴェントスが不甲斐ないパフォーマンスだったのも否定出来ないが、ローマが組織的に集中して守ったのも褒めておきたい。そして選手個人で素晴かったのは、2人のCHの一角として奮闘したデ・ロッシだ。スペースを埋める傾向が強かったローマDFの前で、センターからサイドまで球際で奮闘したからこそ、ローマは無失点で切り抜けた。


■バルセロナの攻撃をしのぐのは、英国的守備ではなくイタリア的守備

最後に、せっかくセリエAの取材をしたので、今回は守備についてもう少し触れておきたい。

現代サッカーでは低い位置での守備は「+1」が基本だ。この日のローマもユヴェントスもそうだが、2人のアタッカーの選手に対して3人のCBでマークし、ゴール前の守備において「+1」の状態を維持し続けた。「+1」の状態を保つことで、チャレンジする選手とカバーする選手をつくるのだ。

一方、プレミアリーグだと、2人のフォワードに対して2人のCBでつくことが多い。なぜかプレミアリーグでは、「+1」を作る意識が低い。それが疑問で一度、ライセンス講習の際、インストラクターに「+1」の状態のほうがベターなのではないかと尋ねたところ、

「いや、基本的にCBは1対1で負けるな」

と返された。なるほど、「1対1で負けるな」をモットーとする英国ならではの考え方だと妙に納得させられた。そういう考えの下、育成を行った結果、対人のみ強いCBが英国ではたくさん生まれてくるのかもしれない。

ただ、その対人にのみ強いCBで、1対1で負けるなという志向で行う守備は、バルセロナを初めとするスペイン的なパス&ムーブを繰り返すサッカーに、とことん相性が悪いのは明らかだ。

そういう意味では、ACミランとバルセロナの対決は楽しみではある。英国的な選手が英国的な守り方をするより、イタリアの選手がイタリア的な守り方をすると、対抗出来るのではないか。また、もし仮にミランがバルセロナに破れたとしても、ユヴェントスがセルティックを相手にアウェーで3-0で勝利し、ベスト8進出が濃厚な今、今後ユヴェントスがバルセロナと対決して勝利する可能性も多いにある。

サッカーは、じゃんけんのようなものだ。グーのようなチームがあれば、パーのようなチームもあり、チョキのチームもある。漫画、宇宙兄弟からの引用だが。だから見た目の戦力だけでは計れない部分があり、それこそが面白いのだ。

セリエAは残念ながら、今は世界のトップではないかもしれない。しかし、セリエAにも強みがあるのは間違いなく、組み合わせ次第ではチャンピオンズリーグでも上位進出し、優勝する可能性は十分にある。なんと言っても、サッカーはじゃんけんのようなものなのだから。


文/内藤秀明
ロンドンに在住し、FA Coaching license level1、level2取得。小学生、中学生年代の指導をしつつ、現在は執筆も手がける。
Twitterアカウントは @nikutohide