データコラム:王国ブラジルに何が起きたのか?

1-7の悲劇的な大敗で浮き彫りになるドイツの完成度の高さ

なぜセレソンは大敗を喫したのか?

ブラジルは2002年の日韓ワールドカップ(W杯)以来となる準決勝進出を果たした。当時は決勝まで進み、FWロナウドのゴールでドイツを破ってチャンピオンに輝いている。一方のドイツは02年以降の全ての大会で準決勝まで進んだ世界で唯一のチームとなった。W杯におけるこの2カ国の戦いはこれが2度目。W杯を除けば、11年8月のコンフェデレーションズカップでぶつかり、その時はドイツが3-2で勝利を収めた。

過去の戦績を見れば誰もが拮抗した好試合を期待した事だろう。しかし残念ながらその期待は前半30分で無残に裏切られてしまう事となった。大会期間中、スタンドを映し出す映像は美女や、笑顔のサポータたちの姿をとらえてきたが、この日のカメラに映ったのは失点を重ねるごとに涙にくれるブラジルの子供たちだった。

負傷によって大会を後にした背番号「10」の勇気あるコメントを胸に、64年ぶりの自国開催で国民の期待を一身に背負ったセレソンに何が起きてしまったのだろうか?

主将のDFチアゴ・シウバと、エースのFWネイマールという攻守の柱を欠く影響、地元開催のプレッシャー、原因を考えれば切りは無い。だが、表面上のデータはブラジルとドイツのポゼッション率は47%対53%、シュート数18本対14本、オープンクロス数14本対5本、Duels(フィフティフィフティのボール奪取の数)もブラジルの38勝42敗(勝率47.5%)。これらの数字から1-7というスコアを想像することは難しい。

 

浮き彫りになるドイツの奇襲

しかし、データを深掘りしていくと、結果との相関関係をそれなりに説明できる。

ドイツのこれまでの5試合で失点わずか3という結果をみれば、前半の5-0ですでに勝負はついていた。従って、前半を中心に試合運びを見ながら全体的にはどのようなゲームだったか分析をしてみる。

データ提供: 

このイラストは前半どのエリアでプレーが行われていたかを示したものだ。通常それぞれのチームのゴール前が20%前後ずつ、中盤が60%前後になることが多い。ドイツのゴール前での20.9%はほぼ平均的なものだが、中盤が60%を大きく割り、その分ブラジルのゴール前でのプレーが多くなっている。相手ゴール前を崩せず、中盤でパスを回してチャンスを探るというのではなく、中盤を素早く駆け抜けてブラジルゴール前にボールを運び込んでいるのが一目でわかる。

 

モビリティの高いドイツのパスワーク

前半それぞれのチームがどのようにボールを回していたのかを見てみたい。

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この表は両チームの中盤より前の選手が前半何人の味方から何本のパスを受けたかをまとめたものだ。ボール回遊率というのは6人の選手がそれぞれ自分を除く全選手からパスを受けた場合を100%として算出したものだ。この数値が高ければ高いほど各選手がいろいろな選手からパスを受けていることになる。ブラジルは6人の選手が平均で一人7人(回遊率70%)からのパスを受けているのに対し、ドイツは平均で8人(85%)を超える結果となった。さまざまな選手からパスを受けているということは、つまり一人ひとりがさまざまなエリアに顔を出していることにつながる。そして、パスの総本数にも大きな差があった。ブラジルは6人の選手の中で20本以上パスを受けていたのはMFオスカルとMFルイス・グスタボの2人だけだったが、ドイツはFWミロスラフ・クローゼ以外全員が20本以上、MFトーマス・ミュラーとMFトニー・クロースに至っては30本以上のパスを受けていた。

ブラジルは前半で210本のパスが回っていたので、そのうち45%が前の6人で回っていたことになる。一方ドイツは249本のパスのうち150本、60%が前線でボールを動かしていたことになる。

さまざまな出どころからのボールを受けるためには頻繁にポジションを変える必要がある。そのモビリティ(流動性)こそがこの日のドイツの強さで、それに対応しきれなかったことがブラジルの大敗の一つの要因だ。

そのモビリティを生かすために運動量は欠かすことができない。マイボールの際、ボールを追い越す動き、左右に入れ替わる動きは守備時に自陣に戻って陣形を整えるために大きな体力的負担を強いる。

実際ドイツはブラジルがボールを保持している時に相手の走行距離42,682mに対し47,832mと12%多く走っていたことになる。一方ドイツの攻撃時の走行距離は46.599mでブラジルより10%多いものだったが、その際ブラジルは44,125mと相手の95%しか走れていなかった。(データ出所:FIFA.com)

 

後手を踏んだブラジルの守備陣

次に、ドイツの流動性ある攻撃に対して劣る運動量の結果何が起きたか見てみたい。

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このイラストは上がスタート時のフォーメーション、下がこの試合の先発メンバーの平均ポジションだ。ドイツは右サイドバックのDFフィリップ・ラームが攻撃参加するために高い位置にいる。ミュラーとMFメスト・エジルが内側にいるのは前線での積極的なポジションチェンジの結果だ。このフォーメーションのマッチングではドイツの3トップに対し、ブラジルは4バックでの対応が基本となるはずだ。だが、両サイドバック同士がマッチングする機会が多くなり、必然とエジルとミュラーのマークが浮く結果に。ミュラーにはダンテが対応していることになるが、エジルは恒常的にフリーな状態になっている。そうして次から次へと「ずれ」が生じた結果、ブラジルは自陣に湧き出てくるドイツの選手への対応が追い付かなくなってしまったというわけだ。

ブラジルは最終ラインの統率者が累積カードで欠場を余儀なくされ、前線で相手の脅威となっていたエースを欠いた。実はデータには現れない選手の「名前」というのは試合運びの上で非常に大きな要因となりうる。それは日本代表がドログバや、ハメスの登場によってプレーバランスを大きく崩したのを見れば分かるはずだ。ブラジルが攻守における2枚看板を欠いたのは不幸な側面もあるが、W杯が総力戦であることを考えれば、それを大敗の要因にはし難い。しかし、その2人の欠場がかすむほど、内容そのものに明確な優劣がついてしまったのだ。

このドイツをどの国が打ち破ることができるのか? 現時点では想像できないくらいその戦い方は成熟している。これから始まるアルゼンチンと、オランダの勝者と戦うわけだが、この2カ国よりも1日長い休養期間があり、準決勝ではけがのリスクまで考えた上で選手交代も行っている。そうした決勝に向けて万全のマネジメントができているドイツに一日の長があるような気がしてならない。


analyzed by ZONE World Cup Analyzing Team
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データ提供元: 

サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

 

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