インタビュー:Jリーグ・中西大介理事に聞く(1)

Jリーグの現状と未来を語る インタビュー第1部
誕生から20年間成長を続けてきたJリーグの現在地と、これから向かうべき目的地はどこにあるのか。Jリーグが積極的に推し進めるアジア戦略や、J3の創設、メディアやサポーター、そのほか様々な論点について、Jリーグ理事であり競技・事業統括本部長の中西大介氏に話をうかがった。

インタビュアー:チェーザレ・ポレンギ(GOAL JAPAN編集長)


【設立20年のJの現状は?】

チェーザレ(以下C): Jリーグ創設からこの20年間を見てきて、ゼロからこれだけの期間までここまで来たというのは世界のサッカーの歴史でも前代未聞のことだったと思います。この20年間、日本のサッカーは何を成し遂げてきたでしょうか?

中西理事(以下N): まだまだ欧州の一流国には追いついていないとしても、欧州を訪問することなどがあると、Jリーグ創設からの日本サッカーの発展はすごいですね、というのはよく言われます。ただ、子供の身長が1年間で10cm伸びる時期というのはあっても、大人になってからは1cm伸ばすのも大変です。一方で、この20年間には世界のサッカーの方でも大きく環境が変化してきました。日本は日本で成長してきましたが、世界は世界で大きく変わっていて、新しい課題も出てきている。それが今直面している状況だと思います。

C: アジアの中での位置づけはどうでしょうか。今回AFCチャンピオンズリーグ(ACL)で柏レイソルが中国の広州恒大と準決勝で対戦しました。ある意味で柏は、クラブとしてのコミュニティーを作り上げて、自前で育てた若手も多く、良いスタジアムもあって、Jリーグの理念に沿った理想的なクラブの一つだと思います。それが、予算が4倍ほどある相手に完敗した。Jリーグのモデルというのは、世界の中で戦えるものだと言えるでしょうか。

N: そこはまさに今のJリーグが置かれている状況の核心だと思いますが、問題は2つあります。ひとつは、日本は中国に比べて選手の育成がうまくいってきたというのもあるので、良い選手が大勢ヨーロッパに行ってしまっているという事実が一つ。そこが、ACLをタイトルとして獲りにくくしているというのはありますね。UEFAの中で選手の供給国に回っている国のクラブがチャンピオンズリーグの上位に行くのはなかなか厳しくなっているということにも似ていますし、コパ・リベルタドーレスでブラジルやアルゼンチンのクラブがそう簡単に勝てなくなっているのとも似ています。

C: クラブ・ワールドカップ(W杯)でもブラジルのアトレチコ・ミネイロが決勝進出を逃していますね。

N: 選手の育成がうまくいった結果として選手が出て行ったことで、代表のビジネスとしてはとても潤う一方で、Jリーグが少し頭打ちになっていると。そういう状況なんだとは思います。一方でもうひとつの問題としては問題としては、日本の経済環境がそれほど良くなくて、サッカーに対する投資が少し難しくなっているという状況もあると思います。そこでサッカーにどうやって投資を促すかということと、ブラジルやアルゼンチンのように、選手を供給してもどんどん次の良い選手が出てくるという環境をつくること。そこが今の日本のサッカーが直面している大きな課題だと思います。

C: 全体的には、経済的な面でのJリーグの状況はいかがでしょうか。

N: やはり2008、09年頃をピークに、Jリーグ全体の収入としては少し落ちているというのはあります。2011年の震災で苦しい時期があったというのもありました。大都市圏のチームが少し伸び悩んで、ローカルのチームはそれなりに成長してきている部分もあり、これは日本のサッカーがまだ成長している証拠だとは思います。本当にポテンシャルの高い都市圏のクラブというのが、もう少し伸びたらいいなとも思いますが、なかなか投資に踏み切れないところもあって、まだまだ「ビッグクラブ」は出てこないですね。


【Jリーグに”ビッグクラブ”は必要なのか】

C: たとえば浦和や横浜FMなど、巨大なスタジアムがあり、良い選手も大勢いてビッグクラブに近いようにも見えますが、タイトルが獲れなかったりして次のステップに行けないようにも感じます。

N: 広島が2連覇したというのが、今のJリーグの状況をよく表していると思います。ローカルだけど健全な経営をしながら、若い選手の育成やスカウティングがうまくいって、そういうサンフレッチェの努力はすごいし、素晴らしいことだと思います。ただ、そういうクラブが中位を占めるのではなく、優勝できるというのがJリーグですね。

C: 今年は本当にそういう感じだったと思います。本当に強くて勝つべきチームがあったわけではなく、優勝争いをしたチームの中で、最もミスが少ない広島が優勝したという印象です。リーグとしては、ビッグクラブが出てきてほしいでしょうか?

N: 今年のJ2では、ガンバ大阪が降格して、日本代表の遠藤選手や今野選手もいるチームを見たいということでガンバ大阪をホームに迎えた試合はどの試合も満員になっていました。スーパーチームというものがファンを引き付けて、みんな対戦を1年間楽しみにする。ある種、そういうクラブがリーグの成長を促す側面もあると思います。ただ、それを意図的に作るというのはとても難しいですよね。Jリーグは今までマーケティングをセントライズして、配分金をある程度均等に配ってきました。この20年は各地に一定水準以上のクラブを作るということでやってきて、その戦略が功を奏してきたと思います。ですが今後は考え方を変えることによって、共生だけでなく競争を少し促すような仕組みも、ひょっとしたら今の日本サッカーに必要かもしれないですね。

C: 一つの例として、Jリーグは少し前までの、どこが優勝するか分からなかったブンデスリーガと似ている部分もあるかもしれません。それが今はバイエルン・ミュンヘンが圧倒的になって、ビッグクラブが存在することの楽しみもあるけど、少しリーグが死んじゃっている感もある。Jリーグがそうなったらどうでしょうか。

N: コンペティティブ(競争が激しい)であることがJリーグの魅力の一つであることは間違いないと思います。世界の中で、コンペティティブなリーグのランキングというものがあって、日本は確か3番目らしいです。ほかにはアルゼンチンなんかも上位で、どこが勝つか分からないリーグ。そういう面白さというのは確かにJリーグにあると思います。だから、それぞれのローカルの人たちは楽しめるんですが、今のJリーグが日本代表と同じように日本中の注目を集められるかというと、そうはならない。スターがいないとか、誰もが注目するスーパーチームがないというのが影響しているかもしれないですね。

C: 一番良い選手たちがヨーロッパに出て行って、ある程度レベルがフラットになるというのもあるでしょうね。アルゼンチンも似ている部分だと思いますが、選手を供給する側のリーグということで。

N: そうですね。飛び抜けた選手が出て行ってしまうとどうしても戦力が平均化するし、それが分散していれば混戦のリーグになります。選手の輸出国に回った国のリーグが混戦になる傾向はありますよね。お金を得られるリーグでは、お金を得たクラブが世界中のスターを集められるので1強になったり2強になったりするんでしょうけど、供給国側が混戦のリーグになるというのはある種やむを得ないところもあります。それは世界的な傾向と一緒だと思います。積極的な投資を行って、外から選手を持ってくるようなクラブが出てくれば、変わってくる可能性もあるとは思いますけどね。
C: 日本版バイエルン・ミュンヘンが出てくることもあるでしょうか。

N: UEFAにいると、選手やお金が一部の国やリーグに集まってしまう環境の中でも、そうでないクラブがチャンピオンズリーグでチャンスをつかんで、大きなクラブになるチャンスもあるんだろうと思います。日本はUEFAチャンピオンズリーグに出場するチャンスはないので、そういう機会はありません。ACLで優勝して、FIFAクラブワールドカップでバイエルンと戦うとか、そういう限られたコースしかない。だからアジアで勝つことはとても大事なんですが、戦力が平均化しているとなかなかアジアのタイトルは獲りにくい。日本でも世界でも同じですが、やはり過密日程の中で勝とうとすると、2セット分くらい選手を持てるクラブでなければリーグ戦とチャンピオンズリーグを並行して戦えないような状況があります。クラブの財力が平均化しているとなかなかそういうチャンスもないのかと思いますが、それがバイエルンはできているというのはすごいですよね。

C: ヨーロッパではもちろん、スポンサーからも大きなお金がクラブに入っていると思いますが、Jリーグとスポンサーとの関係は今どうでしょうか?

N: ヨーロッパの場合、スポンサーシップというのが自国の中だけでのマーケティングじゃなくて、今はヨーロッパのサッカーが世界中で見られているので、世界中をマーケットにして投資が集まりやすい環境がつくられていますよね。日本は今まで20年間、スポンサーシップというのは国内だけで動いてきましたが、すぐ近くに6億人、7億人の人口がいるというのは今後考えていかなければならないことだと思います。特に東南アジアは世界の経済の成長センターで、それが時差の少ない場所にあるというのは強みになりますので。


【フロントやメディアも次のステップへ】

C: クラブ経営という面においては、全体的にJクラブのフロントのレベルはいかがでしょうか。以前にサガン鳥栖の竹原さん(運営会社社長・竹原稔氏)が言われていましたが、今の日本のサッカーの中で最も成長すべきはフロントであると。選手は欧州で経験を積んでいますが、たとえばクラブのフロントの人が海外へ行って勉強や研修をしたり、そういうことも必要でしょうか。必要だとすれば、十分に行われているのでしょうか?

N: まだまだ必要だと思いますね。私自身なんかも、若い頃から毎年必ずヨーロッパに行かせてもらって、そこで築いたヨーロッパでのネットワークだとか、電話1本で色々なことを教えてもらえる関係だというのは今でもとっても役に立っていますし、大切なものです。特に私たちはブンデスリーガをお手本にしてやってきたので、色々なことを教えてもらってとても感謝しています。そういうノウハウが組織としても必要なんですが、たくさんの人がそういう機会をもっと得るということも、まだまだ必要だと思います。選手が海外で色々な経験を得て、帰国してそれを還元してくれるように、これからサッカーのビジネスを志す若い人が、ヨーロッパのフットボールビジネスの中で何かを身につけて帰ってくるような、そういう人の循環ももっとしなきゃいけないと思います。

C: メディアについてはどうでしょうか。日本のサッカーは成長して、スタジアムの雰囲気もすごく楽しかったりもしますが、日本のサッカーメディアは、自分自身も含まれますが世界で一番面白くないんじゃないかな、と。20年間同じことばかり言っているように思えます。テレビの解説もそうだし、ヒーローインタビューもいつも同じ質問だったり…。たとえば欧州や南米だとメディアはもっと意見が厳しくて、審判や監督や選手への批判は当たり前です。ただ、それは今のJリーグの平和な雰囲気を少し壊す可能性もあるかもしれない。平和的、家庭的な雰囲気を壊さずに、メディアをもう少し面白くすることはできるでしょうか。

N: たとえば映画を見るとすれば、見て楽しむだけじゃなくて、それがどう批評されているか、その批評が自分の思ったこととどう違うかとか、そういったことも含めて映画の楽しみですよね。サッカーもまったく同じで、そういう楽しさを増幅させるのが、メディアの役割の一つだと私は思います。日本のサッカーは始まってまだ20年で、しっかりサッカーのことを見る目を持っている人たちと、日本代表の試合や大きなイベントだけ見ているというような人たちとの差が大きい。ヨーロッパのように均質ではないので、そこに日本のサッカーメディアの難しさみたいなところがあると思います。

でも、我々としても子供の頃にそういうメディアや専門誌に接したりして、いつの間にかサッカーの見方を覚えましたよね。メディアはある意味でサッカーの見方を啓蒙するという役割もあるわけですが、試合そのものについてファンが分からないからといって、だからこのぐらいまでレベルを落として語ろうとか、そういうことをする必要はまったくないと私は思っています。

C: 20年やってきて、リーグや選手たちが次のステップに行くのと同じように、ある程度はメディアもそろそろ次のステップに行けるかなと。ただ、メディアとしては批判をするのはちょっと怖いというか、失礼かなって思ったり、そういう遠慮もあるようです。選手やチームにミスが続けば、イタリアでは裁判みたいになりますが、日本だとちょっと残念でしたねとか、運がなかったねとか…。メディアももう少しはっきり言ってもいいのではないでしょうか。

N: これはサッカーだけではなく、この国全体のことですよね。うまくいかないときには、どこに原因があるかということを厳しく追求しなければその先への進歩がないと考えると、そこで事実から目をそらさないで見るというのは、きっと今この国全体に求められていることだと思います。今の日本が経済的に苦しくなっている中で、もう一度この国に誇りを持って立て直すためには、大事なことから目をそらさないメンタリティーは必要なものだと。サッカーは世界中どこでも、その国の国民性が一番よく表れたりするものなので、ある意味ではサッカーが変わることによってこの国が変わるかもしれないし、批評も必要だと思いますよ。それで大きく壊れることはないですよ。極端に壊さず、ぎりぎりでそれを止めるようなバランス感覚が日本人にはありますので。