野々村xチェーザレ:日本サッカーレボリューション(1)

GOAL JAPAN編集長&札幌社長 対談企画第1回
コンサドーレ札幌代表取締役社長・野々村芳和氏とGOAL JAPAN編集長チェーザレ・ポレンギが日本サッカーの現在と未来を考える対談企画「野々村×チェーザレ・日本サッカーレボリューション」を今回から連載でお届けします。第1回のテーマは「Jリーグの外国人選手」です。

◇疑問点:
・日本に海外からビッグネームが来ることが少なくなった理由とは?
・日本のクラブが新たに目を向けるべき市場は?
・東南アジアから初の選手を獲得した札幌の意図するところは? 


【ビッグネームの来ないJリーグ】

チェーザレ(以下C): Jリーグをどうやってより面白くするか、という議論が色々とある中で、今はトップクラスの選手たちがほとんどヨーロッパに行ってしまっている現状があります。その代わりという意味でも同じくらい良い外国人選手を加えるべきではないかと思いますが、それができているかというと…。

野々村(以下N): できていないですね。基本的には、Jリーグのサッカーの質はそれほど低いとは思いません。ただそれが、コアなサッカーファンにはある程度伝わっているけど、その外側にいる、これからサッカーファンになってもらいたい人たちには伝わっていないという問題があります。

C: 1993年のJリーグ開幕時にはリトバルスキーやジーコ、リネカーなど海外から有名な選手を何人も呼んで、「あ、こういう選手が来るならJリーグは本物のリーグなんだ」という感じもあった。今はそれがほとんどないのは問題でしょうか?

N: いないならいないなりに、リーグの質の高さをもっと分かってもらうという努力は必要だと思いますが、一番分かりやすいのはビッグネームが何人かいるということだとは思います。

C: たとえばオーストラリアのAリーグだと、デル・ピエーロやヘスキー、小野伸二などを呼んですごく盛り上がっている。日本だと最近ではユングベリが短期間来たくらいで、ほとんどビッグネームは来ていません。これはなぜでしょうか。

N: お金がないというのもあるかもしれないですが…。たとえばデル・ピエーロだとしても、ピークを過ぎた選手ではありますよね。それならもっと若くて、簡単に言えば「動ける」選手を獲った方がいいと考えるチームばかりなんじゃないでしょうか。

C: 確かにデル・ピエーロは今39歳で、ユヴェントスのデル・ピエーロ、トヨタカップのデル・ピエーロとは違いますが、それでも獲得しようとすること自体がクラブの価値をアップさせる面もあると思います。

N: 私もそう思いますね。Jリーグ関係者の多くは、ピークを過ぎているから試合でのパフォーマンスが不安だという、そこしか考えていないから呼びません。特にお金があるチームは、そういう選手を呼ぶべきだと思います。

C: 今のデル・ピエーロの年俸は手取りで2億円くらいだと思いますが、日本のクラブは出せるでしょうか?

N: 普通にやったら出せないですね。でもデル・ピエーロが来ることによってこういう効果があって、十分に回収できる、ということをお金を出してくれるところにしっかり言えれば、出せるクラブはあると思います。

C: Jリーグでもお金のあるクラブだと年俸は結構高くて、それこそ今のデル・ピエーロと同じとまでいかなくとも近い選手もいるとは思いますが。

N: まあ、どこのクラブも経営が大変だというのはあるとは思います。もともとマイナス2億円のところに、さらに2億円を支払ってデル・ピエーロを獲ったとして、マイナス4億円になるところからプラス5億円の効果が出るとしても、そういう発想になかなかなりづらいというのは分かります。でも、どこかやってほしいなとは思いますけどね。

C: レベルは違いますが、たとえばシンガポールだと、それぞれのチームが一人レベルの高い外国人選手を獲るためにリーグがお金を出しています。日本ではこういうことは不可能でしょうか。

N: できなくはないと思いますよ。発想の問題ですので。それがリーグ全体に与える影響が大きなプラスになると考えられるのなら、投資してもいいとは思います。


【決して高くない選手もいるが…】

C: 一人例を挙げると、今年からヴェローナでプレーしているルカ・トーニは年俸5千万円。今季セリエAですでに7ゴールを決めています。彼のような選手がJリーグに来たとすれば?

N: 具体的にルカ・トーニが活躍できるかどうかではないですが、たとえば運動量はないけどペナルティーエリア内に入れば仕事をするというセンターフォワードがいたとして、そういう選手を必要としているクラブがあるかどうかは分からないですけどね。

C: トーニがいるから試合を観に行こう、という人も増えるのでは? ポスターに起用したり、番組やイベントに出てもらったり…。20年前、Jリーグのスタートはそれで成功したと思います。

N: でも20年前は、結果としてビジネス的に成功したこともあったけど、おそらく戦力として獲得している発想の方が強かったと思いますよ。

C: プレースタイルが合う合わないの問題もありますが、今日本で最も必要とされる可能性があるポジションはセンターバックではないかと思います。たとえばボローニャのチェーザレ・ナターリなんかだと、彼も年俸5千万円。他にもトリノだとか、セリエAのスタメンクラスを2千万円や3千万円で獲得することもできる。フランスやスペインや、ブラジル以外の南米でも変わらない。そういう選手を獲りにいかないのは、ネットワークがないということでしょうか?

N: それもあるとは思います。やっぱりブラジルにはコネクションがあるし、言葉や通訳の問題も解決しやすい。お金のないクラブの場合だと、1人の通訳でブラジル人選手3人を雇うというのが一番経済的ではあります。ブラジル人選手が3人いれば3人でコミュニティーができて、精神的にも安定するという理由もありますね。

C: ブラジルや韓国にはパイプがあって、1人選手を放出してもまたすぐに別の選手を獲得するのも簡単。逆に向こうからは、Jリーグでプレーするのも一つのチャンスだと捉えられています。逆にヨーロッパではまったくそういうことがなくて、日本へ行くとなるとまだすごくエキゾチックなことだと思われてしまいます。どうすればパイプを作れるでしょうか?

N: どうでしょうね。クラブ単位で提携して、というのもあるだろうし、リーグとして何らかの流れを作ってあげた方がやりやすい部分もあるかもしれないですね。

C: 今はイタリアは不景気で、ヨーロッパ人としては選手はすごく安いです。他にも地中海諸国、スペインやフランスやギリシャなどもそうです。ネットワークを作るなら、今はすごく良いタイミングだと思います。


【新たな歴史を作ったレ・コン・ビン獲得】

C: コンサドーレはレ・コン・ビン選手を獲得して、新しい歴史を作りましたね。東南アジアの選手の獲得はJリーグで初めてですが、そのきっかけは? ある程度リスクもあったのではないでしょうか。

N: リスクは「探せばある」という程度ですね。彼がJリーグで通用するかどうか分からないというのはあったかもしれないですが、そのほかに特にリスクがあるとは思いませんでした。それ以上に、彼はベトナムの代表として、ベトナムの国を背負って日本に来るわけだから、そのメンタリティーは絶対にウチの若い選手に良い影響を与えると思いましたから。そういう面をポジティブに捉えて獲得しようと思いました。

C: 正直に言えるとすれば、経済的にはレ・コン・ビンのような選手を獲得するのはプラスなのかマイナスなのか、どうでしょうか。

N: プラスにするために獲ったと思っています。クラブは色々なところからスポンサードされて成り立っているわけですが、今まではコンサドーレ=北海道だから、コンサドーレに対してお金を出してくれるということは、その企業が伝えたいことをコンサドーレを通して北海道に伝えるということでした。だけどレ・コン・ビンが入ると、ベトナムの9千万人に対しても伝えることができるということになります。クラブが持っている価値は相当大きくなるわけです。

C: コンサドーレは今のJリーグで、世界でのサポーター数が一番多いクラブということになるかもしれないですね。でもそういうことは大切だと思います。

N: そういうことですよね。それがすぐにお金になるとは思っていないですが、世界中の多くの人たちにそのクラブに注目してもらえるかどうかでクラブの価値が決まってくる部分もあると思います。9千万人のベトナム人に対して何かをPRしたいような会社が新たにスポンサードしてくれるということもあるかもしれない。常に価値を大きく保っておこうと思ってレ・コン・ビンを獲りました。


【結論:クラブ社長としての立場から、外国人選手の選び方は…】

C: 結論として、今クラブの社長である野々村さんの立場としては、外国人選手を選ぶ上での理想と現実はどういったところにあるのでしょうか。

N: まず、自分のクラブがどういうサッカーをするのか。これがすごく大事だと思います。それに合わせて、監督と選手を決める。ベースとなる日本人選手が最も輝けるサッカーをするとなると、たとえばこの前のU-17代表がやろうとしていたようなことがベースになると思います。そこに外国人選手を3、4人加えるとすれば、どういうタイプになるか。屈強なセンターバックが必要だと思うなら獲ればいいと思いますが、強いだけでボールをさばけなかったら困る。そういうことを考えていくと、どこに行き着くかとなると、それは南米かもしれませんし…。予算のこともありますが、ベースはそういうところにあると思います。

C: クラブの立場としては、プレーの面だけではなくほかの色々な要素を考えるということもあるのではないでしょうか。

N: 色々なことを考える必要もあると思いますよ。集客なども含めて。たとえばデル・ピエーロが獲れればいいですし、そういう選手も獲れるなら獲ってみたいというのはあります。試合で勝つためだけではなくて、普段の練習で若い選手たちに良いモノを見せられる選手がいた方が、絶対にいいですので。

C: それはある程度、海外から監督を獲るとしても同じでしょうか。

N: 監督もそうですけど、「教える」というより「見る」方が選手は絶対にうまくなると思います。特に若い選手、まだまだ伸びしろがある選手は。クラブとしてはクリエイティブなことをやりたいと思うから、クリエイティブな選手は年齢に関係なくチームにいてほしいと思いますね。