自分の居場所を見つけるサッカープロジェクト『love.futbol』

サッカーグラウンドを協力して作り上げ、育成されるコミュニティの能力
昨年、知人の紹介で出会い、一際面白いと感銘を受けたアメリカのNPOがあります。それが『love.futbol』。

まさに名は体を表すように、サッカー愛にあふれる団体です。ワシントンD.C.に本拠地を構え、創設者兼代表のDrew氏がけん引するlove.futbolは、その独自の手法が国際的にも注目されています。

love.futbolは、子どもたちが安全にサッカーをできる環境を整えるために、貧困コミュニティと手を組んで、サッカーグラウンドを作る活動をしています。これまでにグアテマラで9つ、ブラジルで3つの貧困コミュニティと一緒にグラウンドをつくり、約8000人の子どもたちがその恩恵を受けています。

ただし、love.futbolはサッカーグラウンドを与えるだけの団体ではありません。「サッカーグラウンドは彼らへのプレゼントではない」とDrewは言い切ります。

love.futbolは「Community-Driven Development」という思想に根付く独自の手法を使って、貧困コミュニティが主役となるコミュニティ開発に取り組んでいます。彼らは安全な場所をつくるという本題とともに、グラウンド建設を通じて人と社会の希薄な関係に「繋がり」をつくることを重要視しています。

「どこかに所属している感」や「誰かに頼られている感」を通して、自己肯定感、つまり「自分を大切にする気持ち」を育み、人間的成長とコミュニティの成長に取り組んでいるのです。

昨今、「繋がり」はサッカーを通じた社会活動の分野でも国際的に重要なテーマとなっています。代表例は「Social Integration」と呼ばれるもので、十分な学校教育や医療サービスを受けることのできない貧困街の人たち、障がい者、難民、少数民族などのマイノリティなグループを差別することなく、一緒に社会を作ろうという活動です。

途上国では生活面も教育面でも恵まれない環境ゆえに自分の価値・居場所を見つけることに悩む子ども、若者がたくさんいます。その結果、否応無しにギャングに入り、薬物や犯罪と関わってしまう子も少なくありません。一方で、多文化・多民族社会の欧米諸国、無縁社会が問題視される日本のような先進国にとっても「繋がり」は特別なテーマです。



love.futbolはグラウンドを「作るプロセス」に様々な工夫を取り入れることで、コミュニティに一体感を与え、活性化を実現しています。そうして子ども、大人、女性、障がい者、学校、行政、企業などあらゆるセクター間の「繋がり」を紡いでいます。

「貧困コミュニティのみんなが主役。」

Drewはインタビューの冒頭でそう強調しました。love.futbolは現地の人々を、プロジェクトを提供される相手ではなく、パートナーとして捉えています。

Drewいわく、「love.futbolによるコミュニティ発展は3つのフェーズがある。まずお互いが真のパートナーとなる。次にコミュニティにグラウンド建設のツールと機会を提供し、最後に彼らの目標実現を支援する」

つまり、仲間になる→ 一緒に挑戦する→ 独り立ちさせるという冒険漫画のようなストーリーです。最初にグラウンド建設を提案した後はコミュニティの主体性に委ね、互いが「仲間」になれるかどうかを試す期間を設けています。

「コミュニティとの最初のミーティングで『コミュニティの発展に興味があるか?』と質問する。『イエス』と答えれば、次のミーティングにリーダー数名とフィールド建設の候補地をまとめた資料を持ってくるように伝える。次のミーティングでそれが実行できていれば、今度はプロジェクトで働く労働者80名分のサインと作業計画書を持ってくるよう伝える。などなど、そうした幾つかのステップを経た後、はじめてlove.futbolはコミュニティの目標を実現する方法を明らかにしている」



その後の建設は地元民が主体となり、実行します。数百人が無給でプロジェクトに参画する環境において、彼らの一体感、モチベーションを維持する方法や、女性、派閥グループの巻き込み方にも様々な工夫がみられます。

そしてついにグラウンド完成。完成したグラウンドはコミュニティの財産として残りますが、これが最終ゴールではないとDrewは言います。完成後もlove.futbolは管理・運営面で支援を継続しています。「プロジェクトを通じてコミュニティは自信、一体感、新しい目標、目標を実現するためのスキルを身につける。グラウンドは自分たちで発展するための最初の足がかりにすぎない」

実際にここで得たノウハウを活かして、新しく公園や商店、観光センターを自力で建てて地域経済を活性化させているコミュニティがあります。また教育面でも効果が出ています。全12プロジェクトは元々、学校に行けない、行かない子や、薬物を使用する子が多い貧困コミュニティで実施されていますが、全体で83パーセントの子どもの成績が良くなり、70パーセントの子どもの学校出席率向上、薬物を使用する子どもの減少、女子チームが全国大会に初出場するなど、グラウンドプロジェクトのおかげで教育面、スポーツ面、経済面で良い変化が起きています。



love.futbolがグラウンド建設に特化するのは、大きな理由があります。まだ世界には「普通のグラウンド」で「普通の試合」をすることができない子どもがたくさんいて、大抵、彼らは路上でストリートサッカーをしています。しかし、その最中に車にはねられて死んでしまう子が後を絶ちません。元ブラジル代表のマイコン、ミシェル・バストスの弟たちもストリートサッカー中に車にはねられて死んでしまった被害者です。サッカー大好きな子どもたちが安全にサッカーできる場所をつくりたい、それがlove.futbolの原点です。

僕もサッカーによって多くのことを学び、たくさんの素敵な人に出会い、いわばサッカーに育てられた人間です。思い返すと、幼いころから今までどの時代に必ず場所がありました。サッカーをする場所があったからこそ、多くの学びと出会いがあったのだと今更ながらに気づかされます。当たり前にある場所のありがたみ。それだけでなく、love.futbolは場所を仲間と一緒につくることでコミュニティの繋がりと未来をつくる。これからの場所づくりの在り方を示してくれているように感じます。

さらには、スポーツ施設を単にスポーツする場所として使うのではなく、地域の社会課題を改善するハブとして機能させることに目を向けるのが重要な点です。



love.futbol は2014年末までにブラジル国内でさらに14個のプロジェクトを目標としています。

「ブラジルワールドカップは言わずもがな、世界中が注目しているから、love.futbolやパートナーにとっても国際的な価値を高める絶好のチャンスになると思う。そして、15年以降は他の中南米諸国、アジアへの展開をねらっているよ」

love.futbol の名前は、間の「.(ドット)」が英語のloveとスペイン語のfutbolを繋ぎ、マルチ言語・マルチ文化をサッカー愛で繋ぐという意味が隠されています。グローバルで人と人、人と社会の繋がりを紡ぐlove.futbolの活躍に今後も注目あれ!


文/加藤遼也(Ryoya Kato)
1983年愛知県生まれ。南山大学スペイン・ラテンアメリカ学科卒。サッカーを活用して社会開発に取組むstreetfootballworldに魅了され一念発起。スペイン、南アフリカ、米国を経て2012年7月よりstreetfootballworldのボランティアメンバーとして、日本でプロモーションおよび営業活動を担当。
Facebook: http://www.facebook.com/ryoya.kato.12