コラム:アジアのパイオニア、パク・チソンの7年間

QPR移籍が決定したパクのユナイテッドでの軌跡を振り返る
オールド・トラフォードでの7年間を経て、パク・チソンのマンチェスター・ユナイテッドでの輝かしいキャリアに幕が下ろされた。疲れを見せることなく走り続けた韓国のMFは、ようやくそのスピードを緩め、クイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)に加入することが決まった。

新たな章に目を向ける前に、前章を振り返ってみるのもいいだろう。アジア大陸出身の選手としては、パクは前人未到の領域に足を踏み入れて大きな成功を収めた選手だった。プレミアリーグ優勝のタイトルを獲得したアジア人も初めてなら、UEFAチャンピオンズリーグの決勝でプレーしたアジア人も彼が初めて。「赤い悪魔」の一員としての活躍で新たな地平を開いただけでなく、多くの才能あるアジア人選手たちに対して西方への扉を開いたことは賞賛に値する。

パク・チソン、ユナイテッドでの経歴
シーズン
2005-06
2006-07
2007-08
2008-09
2009-10
2010-11
2011-12
出場数
45
20
18
40
26
28
28
得点数
2
5
1
4
4
8
3
パクがオールド・トラフォードにやって来たのは2005年6月。フース・ヒディンク率いるPSVの一員としてエールディビジでの優勝とチャンピオンズリーグ準決勝進出を成し遂げた直後だった。その3年前には、やはりヒディンクの率いる韓国代表の一員として、2002年W杯での準決勝進出に貢献。この躍進が、欧州のクラブが本格的にアジアの選手たちに興味を持つ契機になったと見る者は多い。

パク以前にプレミアリーグでプレーした韓国人選手はおらず、アジア全体でもその数はわずかなものだった。中国の孫継海や日本の稲本潤一、また短期間ながらイランのカリム・バゲリといった選手たちがイングランドのトップリーグに在籍したが、大きな成功を収めるには至らなかった。だがソウル生まれのMFは、すぐにその流れを一変させることになる。ユナイテッドというトップクラスのクラブで前例のないインパクトを見せ、チームは2007年から09年までリーグを3連覇、08年には欧州の頂点に立つことになった。

「3つの肺を持つ男」と呼ばれることになるその運動量と献身的な動きによって、パクはユナイテッドのファンに熱烈に愛される存在となり、サー・アレックス・ファーガソンもすぐに彼をレギュラーの一角に起用するようになった。ユナイテッドでの初ゴールを記録したのは2005年12月。アウェーでバーミンガム・シティに3-1の勝利を収めたリーグカップ5回戦でのことだった。なお、ユナイテッドは最終的にこの年のリーグカップに優勝している。続いてリーグ戦では、宿敵アーセナル相手にゴールを奪い、プレミアリーグで初めて得点した韓国人選手となった(それ以前にフラム戦でもネットを揺らしたが、後に相手のオウンゴールに訂正されていた)。







2006-07シーズンは膝の怪我のためフル稼働することができなかったが、それでも出場試合数の基準を満たしてユナイテッドのリーグ優勝メダルを獲得。2001-02シーズンには日本の稲本が所属していたアーセナルが優勝したが、この時稲本はリーグ戦に出場しなかったため、パクはアジア人で初めてプレミアリーグの優勝メダルを手にした選手となった。

この優勝も始まりに過ぎなかった。怪我から復帰したパクは、成功への快進撃を続けるユナイテッドにおいて重要な役割を果たし続ける。2007-08シーズンのチャンピオンズリーグ決勝トーナメントのローマ戦、バルセロナ戦で見せたバイタリティ溢れる活躍は特に印象的なものだった。このバルセロナ戦では彼は走行距離12kmを記録した。

ユナイテッドは最終的にこの年の欧州タイトルを獲得。だが残念なことに、ファーガソンはこの決勝の18名のメンバーからパクを除外することになった。のちにファーガソンは、この決断はキャリアの中で最も難しいものの一つだったと話している。それでも、決勝以前に果たしてきた役割によって、パクは所属クラブで欧州制覇を成し遂げた初のアジア人選手となった。


"ビッグゲームでこそ必要になる規律とインテリジェンスを備え、サッカーをよく知っている。
チームが冷静さを保つために
頼りになる、そういう選手の一人だ"


- サー・アレックス・ファーガソン

その翌シーズンは、チャンピオンズリーグ準決勝のアーセナルとの第2戦できわめて重要な先制ゴールを記録。今度こそ、アジア人として初めて欧州の頂点を争う試合のピッチに立つことができた。結果はバルセロナに対して2-0の敗戦に終わってしまったが、彼は3度のチャンピオンズリーグ準決勝(2005、07、08)に出場した初のアジア人選手にもなった。

2010-11シーズンの決勝ではバルセロナと再戦。決勝に出場して勝利する初のアジア人となる2度目のチャンスだったが、この時もやはり敗戦に終わった。それでもこのシーズンのパクはビッグゲームで真価を発揮し、アーセナル戦での決勝ゴールやチェルシー戦での重要なアシストなどでユナイテッドのリーグ優勝に貢献した。

オールド・トラフォードでの最後のシーズンとなった昨季はシティにタイトルを奪われたが、パクはユナイテッドでの通算200試合出場を達成。新たに赤い悪魔に加入した日本の香川もその域に辿り着きたいところだろう。4度のリーグ優勝と3度のリーグカップ優勝、クラブW杯優勝とチャンピオンズリーグ優勝を成し遂げたパク・チソンが、アジアの選手たちが目指すべき水準をトップレベルにまで引き上げたことは間違いない。

文/ベン・サマーフォード