C・ロナウドを読む(6):喜びの涙

ルジキニ・スタジアムでの夜
Goal.comでは数週間にわたり、ルカ・カイオリ氏の新著「Ronaldo: The Obsession for Perfection」の一部をご紹介していきます。貧しかった幼少時代から、スターダムを駆け上がる様子を追っていってください。

2008年5月21日のことだった。イングランドのビッグクラブ同士であるチェルシーとマンチェスター・ユナイテッドが、モスクワのルジニキ・スタジアムでのチャンピオンズリーグ(CL)決勝で顔を合わせていた。プレミアリーグ最終節を終えたばかりでのこの試合、26分にポール・スコールズが相手守備陣の裏へパスを出した。ウェス・ブラウンのクロスからクリスティアーノ・ロナウドが見事なヘディングでGKペトル・チェフを打ち破り、スコアを1-0とした。

レッド・デビルズでの5シーズンを過ごした23歳は、マデイラから来た少年から夢の世界の住人へと変貌していた。それだけではない。子供の頃からのプレースタイルも保っていた。タッチライン際の走り方、トリック、遊び心、バックヒール、「ソンブレロ」でのチップキック等である。さらにレパートリーも増やしていた。両足でシュートでき、FKでもヘディングでもシュートを放てるようになっていたし、チームプレーヤーとして成長していた。かつてのオリンピックスタジアムでのこのCL決勝は、彼の王者としてのステータスを固めるのに、絶好のチャンスだった。

「世界最高になるためには、プレミアリーグやCLのようなタイトルを勝ち取らなければいけないんだ」。試合前、このチャンスを十分に認識しながら、彼はそう語った。「僕は勝者だ。今季、僕は2冠を達成することを夢見てきた。間違っていないよね?」。

彼の夢は叶うかにみえた。クリスティアーノはウィングの位置で力を発揮し、すでに先制点も挙げていた。だがハーフタイムに入る数秒前、マイケル・エッシェンのシュートがユナイテッドの2人のDFに当たってこぼれたチャンスを、フランク・ランパードは無駄にはしなかった。少しの運と2度のディフレクション、エドウィン・ファン・デル・サールのスリップも重なり、スコアは再びタイに戻った。同点弾がチェルシーに自信の後押しを与え、マケレレやランパード、バラックにコール、さらにエッシェンが、攻めに出てきた。クリスティアーノは自由になれず、チャンスは少なくなっていた。



ドログバとランパードのおかげで、決勝は英雄的で厳しい試合となっていった。120分間を戦い終えても何も変わらず、試合はそぼふる雨の中でPK戦に突入した。最初のキッカーのカルロス・テベスが、ユナイテッドの1-0とする。次はバラックで、結果は1-1に。マイケル・キャリックもジュリアーノ・ベッレッティも決めて、2-2となる。3人目のキッカーは、マン・Uの背番号7だった。10日前の5月11日、クリスティアーノはPKを決めて、ウィガン戦勝利と17度目のリーグ優勝を引き寄せた。カンプ・ノウでのCLの準決勝バルセロナ戦では、PKを外したことがある。だがイングランドのテレビ解説者は、2006年夏にイングランド代表をドイツ・ワールドカップ(W杯)から敗退させた、ゲルゼンキルヒェンでのPKを忘れてはいなかった。

このポルトガル人は、1シーズンに42点を決めていた。彼は観客のお気に入りで、誰もが彼が何をしようとしているのか、固唾を飲んで見守った。世界最高のGKと、世界最高の選手の激突だ。専門家は、そう評した。ロナウドはボールにキスして、慎重にペナルティー・スポットにセットした。いつものように尻に手を置き、頭を少し垂れて、深く息をついて審判のホイッスルを待った。彼は足を踏み出し、ブラジルスタイルの「パラディーニャ」で、一瞬止まってGKを混乱させようとした。だがチェフは動きを予測して、この一撃をブロックした。

「止められた!」。マイクに向かって、解説者が絶叫した。クリスティアーノは手で顔を覆い、ゆっくりと歩み去って、途方に暮れた。多くの偉大な選手が、決定的な場面でPKを失敗してきた。ロベルト・バッジョやラウール、ミシェル・プラティニ、それにジーコらがそうだった。だがマデイラからやって来た少年にとって、そんなことはちいとも慰めにはならなかった。

「PKをミスした後、僕らは負けると思った」とCR7は言う。「人生最悪の日になると思った。でも、僕が失敗してしまったというのに、チームメートは勝利を信じ続けていた」。そして本当に、ハーグリーブス、ナニ、そしてギグスが決め、ファン・デル・サールがニコラ・アネルカの最後の一撃を止めて、彼らは勝利したのだ。

チェルシーキャプテンのジョン・テリーには勝利を決定付けるチャンスがあったが、濡れたピッチで足を滑らせPKを失敗し、これがユナイテッドに勝利をもたらした。ブルーズのCBは、この試合をフラストレーションの涙で終えた。一方でクリスティアーノは、最後は歓喜の涙を流すことができたのだ。チームメートたちは、ファン・デル・サールがすでに喜び始めているゴールに向かって、狂ったように走り出した。クリスティアーノはボックスの端におり、顔を芝生に埋めて泣いていた。彼はこれまでのサッカー人生の中で、最も美しい瞬間を味わうために、一人になりたかった。「最後に、僕の人生で最も幸せな一日になったんだ」。のちに、彼はそう話した。