不定期連載『スペイン通信』:スペインメディアの重鎮、『アス』編集長に聞く(上)

レアル・マドリーとの付き合い方
スペインのサッカーメディア、特にスポーツ新聞は、欧州の中でも特に異質と言える。レアル・マドリーとバルセロナを中心とするひいきのクラブを持ち、偏重とも呼べる報道スタンスを取るのだ。その中で、トップの『マルカ』に次ぐ発行部数を誇るのが『アス』だ。今回Goal.com日本版は、その編集長を務める、アルフレッド・レラーニョ氏に話を聞く機会に恵まれた。

1951年生まれのレラーニョ氏は、『マルカ』の記者から始めて『ムンド・デポルティボ』『エル・パイス』などで経験を積み、96年に現職に就いた。同紙でさらに名を馳せ、EURO2008の解説やサッカー討論番組にも出演と、テレビでもサッカーファンにお馴染みとなっている。また、スペインサッカー連盟の会長アンヘル・マリア・ビジャールと懇意にあるチームが審判の恩恵を受けるという“ビジャラト”の存在を主張し続ける人物としても有名だ。

■「中立の立場を取るのは難しい」

―簡単に『アス』を紹介していただけますか?
「1967年に創刊したスペイン第2の発行部数を誇るマドリッドのスポーツ新聞で、サッカーではマドリーに特に力を入れている。でき得る限りのマドリーの情報を伝えようとしている。もちろんマドリッドのクラブであるアトレティコ、マドリーのライバルであるバルセロナも対象だ」

―スペインのメディアは、ひいきのクラブを持つことに特徴があります。
「マドリッドとバルセロナという都市が、3番目以下を大きく引き離しているためだ。それがサッカーにも通じ、マドリッドとバルセロナのクラブに資金を与え、多くのファンを生み出している。どこにでも右翼と左翼が存在するように、ここにはマドリディスタとバルセロニスタがいる。それがスペインのサッカーメディアにおけるニーズの解釈だ。我々がニュートラルな立ち位置を取ることは難しい。説得力に欠けてしまう」

―ライバル『マルカ』紙を意識した紙面づくりはしていますか?
「アスが創刊された40年前、我々は9万部で、マルカは50万部だった。だが、現在はアスが190万部で、マルカが215万部だ。私はマルカを意識することなく、自分のやり方を貫き通している。マルカを読むことはないよ。我々の相手は読者であり、彼らのことだけを意識して紙面をつくる」

―マドリーの勝利は、直接売り上げに反映されるのでしょうか?
「マドリーが勝てば、もちろん伸びる。それはアトレティコでも言える。ただ、現在のマドリーは常に勝利を収めている。昔の方が、比率ははっきり表れた。マドリーが勝てば20%増、バルセロナ戦やスペイン代表が優勝したEURO2008であれば50%増と言った具合にね。EURO優勝では、翌日だけでなく、その後1週間は好調な売り上げを維持した。それが発行部数の底上げにつながるんだ」

―マドリーとバルセロナはクラブ自身で情報を流すことにより、メディアを扱わなくなっていると言われます。
「彼らはスポーツメディアの戦争を引き起こしている。どうしてかは、私には分からない。私には、彼らが間違いを犯しているように映る。特にマドリーがそうだね。我々が従事すべきことを、ジョゼ・モウリーニョは切り捨てた。選手たちは、スポンサーやクラブのインタビューに応じるだけで、我々に向けた会見をほぼ行わない。バルセロナはまだましで、練習後の選手の会見をこれまで通り続けている」

―マドリーはファビオ・カペッロがチームを率いた時代から、練習がほぼ非公開となりました。
「メディアへの対応が冷淡になったのは、確かにあの頃からだね。しかし練習の非公開については理解し得る。第一に戦術を暴かれないために、そして選手の衝突や、チーム内に何かしらの不和が生まれることへの用心としてね。だが、会見やインタビューの要望に応えないなど、我々の問いかけに応じないことは理解できない」


■モウリーニョの暴言は売り上げには関係ない

―モウリーニョのチームは正しい道を進んでいるのでしょうか?
「スポーツ面ではそうだね。ピッチ内では、真っ当な道を進んでいる。しかしモウリーニョの存在は、時にマドリーに被害を与えている。彼の挑発的で反感を抱かせるような姿勢、ティト・ビラノバ(バルセロナ助監督)への目潰し行為などは、マドリーのイメージを損なうものだ。その振る舞いや言動は、少しずつ改善されてきているがね」

―モウリーニョが巻き起こす議論は、メディアにとって恩恵でしょうか?
「そんなものは恩恵ではないよ。恩恵はマドリーが試合に勝つことだ。モウリーニョの議論を呼ぶ発言や、けんか腰な態度は誰にとっても恩恵ではない。確かに注目を集めるだろうが、それによってスポーツ紙が売れるわけではない。スポーツ紙が売れるのは、試合に勝つなど良いニュースがあるからだ。日本でどうかは分からないが、スペインでは『一般紙のニュースは悪いニュース、スポーツ紙のニュースは良いニュース』と古くから言われている」

―モウリーニョの振る舞いや言動は、選手への注目を逸らす手段とも言われます。
「そうは思わない。ハビエル・クレメンテもそのような手段を講じているとされるが、エキセントリックな性格によってだろう。彼らは生来、そういった類の人間なんだ。他人の眼に指を入れるような、インテリジェンスのある人間は存在しない。選手を守るための計算であるとは、私には思えない」

―モウリーニョの指揮官としての手腕はどうでしょうか?
「人間性はともかく、彼のチームのプレーには好感を持っている。彼のサッカーが守備的という見解がスペインではあったが、それはインテル対バルセロナ(09-10シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝)の内容を反映したものだろう。しかしモウリーニョのマドリーは今季、リーガの最多得点記録を塗り替えるペースでゴールを重ねている。ゴールを決める際のプレースピードは、バルセロナよりも上だろう。指揮官としてのモウリーニョは、私の好むタイプだ。彼は自身の戦術を柔軟に変えることができる。バルセロナには苦杯を喫し続けてきたが、コパ・デル・レイでのクラシコは、勝利も収められるプレーを見せた」

―現在のマドリーは、カンテラを大切にしていると言えるのでしょうか?
「重視してはいないね。はっきり言って、良いことだとは思えない。カンテラの統括部長も務めたビセンテ・デル・ボスケを追い払ってから、軽視が始まった。カンテラから生まれたトップチームの重要選手は、イケル・カシージャス以降現れていない。その前にはラウール・ゴンサレスやグティ、マリアーノ・ガルシア、ミチェル、エミリオ・ブトラゲーニョなど、トップチームには3~5選手のカンテラーノがいた。しかし、もう10年はトップチームでプレーできる選手が出てきていない」

―ラウールとグティは、引退までマドリーにいるべきだったとの意見もあります。
「彼らはマドリーの競争力に追いつけなくなった。そのような選手たちが、退団を強いられるのがマドリーだ。ラウールはマドリーにいられるレベルではなくなったが、シャルケ、また移籍の噂があったトッテナムではプレーができた。マドリーは超エリートクラブであり、そのレベルに追いつけなくなった彼ら自身が退団を望んだ」


取材・構成/江間慎一郎

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