なでしこ熊谷インタビュー(上):「ドイツ戦は自分にプレッシャーをかけた」

フランクフルトでの成長も実感
2011年、日本サッカー界には忘れられない出来事が起こった。世界一への到達。「なでしこジャパン」こと、日本女子代表のワールドカップ(W杯)優勝は、日本中に大きな感動と勇気を与えた。

その中心選手としてプレーしたのが、熊谷紗希だ。決勝のアメリカ戦では、もつれ込んだPK戦で最後のキッカーを務めた。現在はドイツでプレーする熊谷に、あの大会、ドイツでのプレーなどについて話を聞いた。

―ドイツに来た経緯は?
「10年11月に話をもらって、行ってみたい、と言いました。正式に見てみたいと言ってくれたのは、フランクフルトとヴォルフスブルクで、1月に練習参加 することになりました。こちらのチームは実際にプレーを見ないと正式なオファーなんて全然くれないんですよ。当初は両方のチームに練習参加しようと思って いましたが、たまたまフランクフルトにしか行けなかったんです。その中で私もフランクフルトのサッカーやトレーニングが気に入ったし、フランクフルト側も 良い答えをくれたので、フランクフルトに決まりました。」

―その時のフランクフルトのチームの印象は?
「代表が選手すごくいるな、と思いました。でも一緒にやっていて、これは無理だな、とは思わなかった。トレーニングは個人を鍛えるものだったので、私もこ ういうことをやっていたら、もっともっと良くなるんじゃないかな、と感じました。そういう期待を込めていたので、フランクフルトからも来てほしいと言って もらえてよかったです。」

―当時のドイツのイメージ、また実際に来て見ての感想は?
「やっぱり速くて強いんだろうな、と思っていました。実際そうなんですが、もっと蹴って走るサッカーだと思っていたんですよ。でもうちのチームは、すごくボールをつなぎます。欧米は蹴って走って、みたいなイメージがあったんですが、それは全然違いましたね」

―レッズの時と特に違うと思ったことは?
「パスのスピードと距離ですね。あまり取りやすいボールは求められませんね。とにかく速いボール。取りやすいと思って私が置いても、速いパスを出せ、と言 われます。逆にどんなに速くてバウンドしても、ボールが私の方に来たら(取れないと)こっちのミス、とはっきりしています。そこは監督にもすごく要求され ている。そこが一番違いますね」

―日本人として通用すると思ったところは? また、課題として感じたところは?
「技術については、日本人はすごく上手だと思いました。ポセッションの練習などで、自分もできることがあるし、ゲームの中で、プレッシャーが早くなった時 にそれをどれだけ出せるかは私の課題。言葉ができたらもっとやりやすいんだろうな、と思います。私はディフェンスだから、間違いなくしゃべれるに越したこ とはないんです。でも言葉だけでサッカーするわけではないので、そこは自信を持って、というか割り切ってもいます」

―言葉は課題?
「一言二言、右とか左とかの指示は出せる。でも、実際サッカーをしていて、ドイツ語ができないと駄目ですね。言いたい事があっても言葉が出てこないから、たまに日本語で言いますけどね。相手はまったく分かっていませんけど(笑)」

―安藤梢選手からはドイツについての情報は?
「決まる前に安藤さんには『ドイツはどうですか?』などと聞きました。レッズでも大学でも先輩なので、安藤さんとはずっと一緒にトレーニングしてきまし た。私がレッズで2年目の時に安藤さんがドイツ行くことになり、その半年後、代表の招集がありました。その時に日本代表に帰って来て、『安藤さんが全然違 う! 一体、何をしてるんだ』と(笑)」

―特に違うと思ったのは?
「スピードとキレ、まあパワーですか。身体能力的なところですね。機械を使ってのトレーニングは元々大学などでやっていましたが、機械だけではないですね。どんなに機械でやっても、実際、こっちのスピードのなかでの当たりは体感できないじゃないですか」

―ワールドカップでのドイツ戦について。
「ドイツ代表選手の中にフランクフルトの選手が7、8人いて、ここで普通にドイツに負けたら、いろいろ言われるだろうな、などとすごく思っていたし、そう いう意味で結構自分にプレッシャーをかけていました。負けてたらずっとドイツ人になめられるだろうなと思ったし、ここで戦えない、と。それで結局勝ちまし たが、あの試合をおそらくドイツの人は皆見ていたと思います。だから、そういう意味ではドイツ移籍に向けての良いスタートが切れたかな、と思います」

―PK戦の4番手と知ったときの感想は?
「『へ、うそでしょ?』と思いました。というか、実際にそう言いました(笑)。笛が鳴って『あー、PK戦だ…』と思っていんたんですが…。でもできること はやったんだ、と思っていましたが、まさか自分が蹴るとは思いませんでした。もちろんPK練習は全員ていますが、練習なんて関係ありませんよ。運ですから ね」

―熊谷選手のPKも運?
「運ですよ。2分の1の確率で入った、みたいな感じですよ」

―心の準備はできていた?
「アヤさん(宮間あや)、ナガちゃん(永里優季)、ミズホさん(阪口夢穂)、私、の順番だったんです。私を落ち着かせるために言ったのか分かりませんが、 完全に落ち着かせてくれる言葉がありました。『ワールドカップの決勝でPKを蹴れることってもう二度とない』って。確かにそうだな、と思いました(笑)。 アヤさんは、もう楽しまなければ損だよ、と言っていて、私も単純だから、本当にそうだな、と思いましたし、完全に落ち着きました(笑)。もう楽しまなけれ ば、と思って。本当にその言葉は大きかったですね。」

―なでしこジャパンの社会的な影響についてどう思うか?
「そういう影響はうれしいですね。私達、全員が(日本の女子サッカーを)良く結果を出すしかないとは分かっていましたし、そういう話もしてました。それで 実際に優勝したら、知り合いの方から、娘がサッカー始めました、などと話を聞きます。それはうれしいですよね、やっぱり」

―ドイツで安藤選手や永里選手と戦うことについては?
「正直、いるいないは関係ないですね。もちろん、相手が日本人だから絶対負けたくない、というのはあります。でも特に安藤さんだから、永ちゃんだから、と か思わないです。ただ、会える、嬉しいという感じです。試合中はそんなに意識しないですね、相手のこと。相手のことを知ってることに越したことないし、安 藤さんに関しては知っているから、その分やられたくないですけど。いつも通りやるという感じですかね。(笑)。」


取材/アライワ・アキラ