コラム:タムード残留の道は残されているか

エスパニョールの「象徴切り」

「クラブが僕との契約を延長してくれるのならば、すぐにでもサインしたい。キャリアのすべてをここで全うしたいんだ」。32歳となったチームの象徴は、涙を流しながら訴えた。

エスパニョールのカンテラで育ち、FWラファ・マラニョンが保持していた111得点のクラブ最多得点記録を塗り替えたリーガエスパニョーラ屈指のストライカーFWラウール・タムード。2度のコパ・デル・レイ制覇(2000、06年)の原動力となるなど、象徴としての地位を確固たるものにしている。

しかし昨季途中から就任したマウリシオ・ポチェッティーノ監督が、衰えの見られるタムードを主力として扱わなかったため、エスパニョールは「象徴切り」を画策し始めた。そして10月14日、エスパニョール幹部の会見をきっかけに、クラブとタムードの間でいさかいが起こった。

その会見でダニエル・サンチェス・リブレ会長、ヘルマン・デ・ラ・クルスSD(スポーツ・ディレクター)が、昨夏にタムードが退団のための移籍金引き下げを要求してきたと伝えたのだ。

タムードはすぐに個人会見を開いてその事実を否定し、冒頭のように語った。「その会見にとても憤慨しているし、怒りに駆られている。こんな扱いを受けるなんて信じられない」という言葉とともに。

どちらのコメントが真実かは明らかになっていない。しかしタムードの会見後、ポチェッティーノ監督は「クラブとの問題が改善されるまでタムードは出場させない」とコメントし、象徴はエスパニョールの招集リストから姿を消した。「試合に出場しないまま退団するのではないか」。そのような可能性も報道された。

だが11月10日のコパ・デル・レイ4回戦セカンドレグで、タムードは再びピッチに戻ってきた。

クラブとタムードのいさかいが解決したと思われたが、その理由は別にあった。エスパニョールが深刻なゴール欠乏症(リーガでは下から3番目)に陥っていることにより、ポチェッティーノ監督が得点力を求めたためのようだ。

予期せぬ形で再びピッチに戻ってきたタムード。だがエスパニョールは、冬の移籍市場での「象徴切り」断行の考えを捨てたわけではない。カタルーニャの新聞は冬にタムードが退団する可能性もあるとして、彼の下に届いているとされるオファーを伝えている。

現代のフットボール界、特にこの不況下で、中堅クラブが高年俸のベテラン選手を支え続けるのは難しい。昨季の総収支が約9億円の赤字だったエスパニョールも例に漏れない。

だがエスパニョールには、タムードに夏までチャンスを与えるという選択肢もあると考える。冬の移籍市場での選手獲得にはリスクが伴うものだ。シーズン途中に獲得したストライカーの能力がどんなに高くても、チームにフィットさせるのは難しい。

逆にタムードはシステムを熟知しているだけでなく、スピードこそ衰えたもののベテランならではの得点技術が備わっている。そして、今の彼は象徴と呼ばれた選手しか持ち得ないものを持っている。

それは、コパ・デル・レイの試合後の言葉から感じられた。

「これからは一日一日に集中したい。今言えるのは、エスパニョールで再びプレーできることに幸せを感じているということだけ。皆が僕への優しさを示してくれことが、とてもうれしかった。ファンは僕の心に再び愛を届けてくれた」

タムードはクラブから切られることを覚悟している。そして「その時」が来るまで、ファンのため、14年在籍したチームのためにゴールを奪う気構えだ。それはクラブの他のどんな選手も、胸に宿すことができないものだろう。

得点力不足解消のきっかけが、タムードの新たなモチベーションになる可能性は十分にあるのではないだろうか。それは象徴が象徴として、キャリアのすべてを一つのクラブで全うできる道につながっている。

文/江間慎一郎