ベン・メイブリーの英国談義:サッカー観戦のコスト、日英の差

チケットの高い英国、ユニフォームの高い日本
『Foot!』で私の立派な体格を目にしたことのある視聴者の方なら(あるいは、単にこのページの写真を見るだけでも)、私が体の状態をベストに保つことに執念を燃やすタイプだと聞いても驚きはしないはずだ。そういう意味では、健康増進の理念に捧げる国民の祝日として、日本に体育の日が存在しているのは喜ばしいことであり、私は毎回この機会を存分に活用することにしている。今年は友人たちとともに、たっぷりの食べ物と飲み物、そしてF1の日本グランプリを満喫する楽しく長い週末を過ごした。第2コーナー付近の硬い座席は、快適さという点では少しばかり物足りないものではあったが、午前のうちから1杯か2杯のビールをいただくことが社会的に受け容れられる「祭り」のような機会のひとつだと思えばそんな不満は十分に埋め合わせることができた。

鈴鹿に到着してまず最初に印象的だったのは、日本のモータースポーツファンがチームやドライバーのグッズ購入に向ける熱心な姿勢である。たとえばマクラーレン・メルセデスのソックス4000円という値札は私の予算を少々オーバーするものだったが、普段着姿の私が観客席に出ると、自分が仲間外れというか、裏切り者ですらあるかのように感じられた。周囲の誰一人として、オフィシャルグッズの野球帽やチームウェアを着ていたり、フラッグを持っていたり、あるいは(これが一番多かったのだが)その全てを組み合わせていない者はいなかったのだから。私の目から見れば、これが素晴らしいほどにカラフルな舞台背景を作り出しているように見えた。遠く向こう側のメインスタンドから、私の左側のS字カーブ席やそのさらに先まで、様々なチームやドライバーを応援するファンがパッチワークのように広がっているのだ。

考えてみれば、F1だけが特別である理由はない。Jリーグの観客は画一的だと批判されることもあるが、いつも歌い続ける彼らの応援は素晴らしいものだし、色彩という点で言えば、ベガルタ仙台の黄色一色や浦和の赤一色(これらはほんの一部の例に過ぎない)を上回るようなスタンドは古くからサッカーの本場である欧州でも滅多にお目にかかれない。日本のレプリカユニフォームは通常1万円以上と高額であり、さらに背中に背番号とネームを入れるだけで場合によっては4500円ほども加算されるが、それにもかかわらずこの状況である。

比較のために挙げると、イギリスではプレミアリーグのユニフォームが40~45ポンド(現在のレートで約5000~5600円)で売られていれば高いと見なされる。オフィシャルの背番号・ネームの追加は通常12ポンド(1500円)を超えることはない。また日本とは異なり、いくつかの店を回ってみれば、背番号・ネーム入れの無料キャンペーンや、シーズンの半ばになると大幅な値下げセールなどを見つけられるチャンスは十分にある。単純に言えば、日本のサッカーファンが購入するとしても、近所のスポーツショップへ足を運ぶよりもイングランドにまで商品を注文した方が基本的にはかなり割安となる。輸送費用がかかるとはいえ、EU圏外の購入者に対しては英国の消費税20%(上記の金額に含まれている)が免除されるため、それで相殺することができる。

円高ポンド安の影響を無視し、リーマンショック以前の「通常の」為替レートを適用したとしてもこれは変わらない。大阪のあるサッカーショップの店主に、なぜ日本ではユニフォームが高額なのかと理由を訊ねてみたところ、彼の返答は、供給側の事情によって両手を縛られてどうしようもない、といったことを暗に示すようなものだった。欧州では自由競争に関するより厳格な法が存在するため、こういった状況が起こり得ないことはほぼ間違いない。もちろん価格を決定する側の者たちは、彼らの方針は市場経済の基本原理によってその正しさを裏付けられていると反論することだろう。試合を観戦に行くファンの多くが、ユニフォームの購入に喜んで5桁の金額を支払うのであれば、それだけの価値があるということだと。

だが日本とイギリスのこの不均衡も、実際に試合に行くとなると解消されてしまう。先日のアーセナル-チェルシー戦はプレミアリーグ史上最もチケットが高額な試合となり、大人用の最も安いチケットでも62ポンドだった。現在のレートで実に8000円相当であり、J1の同タイプの座席価格の4倍はする計算になる。だが英国の一般市民が実際に感じる財布への負担としては、おそらくリーマンショック以前の1ポンド200円のレートで換算した方がより妥当だろう。チケット料金は12400円もするというわけだ。

ガナーズは決して特殊な例ではない。かつてマンチェスター・ユナイテッドの入場料金体系はトップリーグの中で安い方から5番目か6番目であったが、それにもかかわらずチームがプレミアリーグ創設後の最初の10年間に成功を収めたことはサポーターの誇りであったし、チケット料金の低さは彼ら自身の利益にもなっていた。しかしその後、冷徹なオーナーのグレイザー一家は、2005年から11年にかけてチケット料金を平均55%引き上げた。これは物価上昇率の3倍以上にあたる値上げ幅である。厳しい金銭的負担は、下部リーグも含めて国中のファンへと及んでいる。私の故郷の小さなクラブ、トーントン・タウンは8部リーグに相当するサザン・フットボールリーグ・ディビジョン1サウス&ウェストに在籍しているが、現在の入場料は7ポンド。はるかに魅力的なチームであるJ2の松本山雅と同程度のチケット料金である。

こちらはこちらで、イングランドの各クラブの会長たちは、彼らの「商品」を「消費者」によって受け容れられる価格で販売しているのだという経済論理を持ち出してくることだろう。だがもう一度観客席に目を向けてみれば、この手法には文化の継続性を損なうリスクがあることがすぐに明らかとなる。プレミアリーグの現在の観戦者の平均年齢は41歳。Jリーグとは対照的に、若いファンの姿は少ない。父親は家族を連れて来ることができないし、学生もチケット料金を払えないからだ。一方で、昔からずっと試合を観戦してきたオールドファンも経済的理由で締め出されている。代わりに席を埋めているのがその日限りの旅行者である。彼らは以前では考えられなかったようなビッグゲーム入場の機会を得て観戦しているが、コーラスに参加することはできない。スタジアムはますます静かになるばかりで、本当にどうしようもないほどシーンとしていることも少なくない。

サポーターが搾取されるのは今に始まったことではないが、それはどこまで許容範囲なのだろうか? 社会的基盤がまだ磐石ではない中、Jリーグのクラブが限られた範囲で副収入の道を模索しようとするのは正しいのだろうか? イングランドの上位クラブが、トップに立ちトップを維持するために、地元の応援よりも「グローバル」市場への拡大を優先するのはフェアだろうか? 日本のファンの皆さんがどう考えているのか、ぜひ聞いてみたいところだ。


文/ベン・メイブリー(Ben Mabley)
英・オックスフォード卒、大阪在住の翻訳者・ライター。『The Blizzard』などサッカー関係のメディアに携わる。今季は毎週火曜日午後10時よりJスポーツ3『Foot!』にてプレミアリーグの試合の分析を行う。ツイッターアカウントは@BenMabley