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Jリーグマスコット総選挙の歴史…一平くんがもたらした笑顔を指摘したある人物の言葉/コラム

新しいシーズンが間もなく始まる。SNSをのぞいてみると、マイクラブのキャンプやプレシーズンマッチの情報と並んで、「ウチの子が一番」みたいな書き込みが目立つようになった。「ウチの子」というのは、もちろんクラブマスコットである。FUJI XEROX SUPER CUP(以下、ゼロックス)で発表される、Jリーグマスコット総選挙。早いもので、2013年にスタートして以来、今年で5回目を迎える。本稿では、Jリーグが総選挙を行う意義と背景について、歴史的見地から検証することにしたい。

Jリーグが開幕した1993年当時、半ば「おまけ」のようにオリジナル10に与えられたのがマスコットであった。あえて「おまけ」と書いたのは、「マスコットなんかいらねえよ!」と思っているような、試合オリエンテッドなクラブにも付与されているからだ(浦和レッズのレディアの「その後」を見れば明らかであろう)。誤解を恐れずに言えば、クラブにとってマスコットは「トップダウンで、あてがわれたもの」。よってクラブ側も当初は「試合の前後とハーフタイムで適当に愛嬌(あいきょう)を振りまいておけばいいだろう」という感じで、そこにマーケティングな戦略などは、ほぼ皆無であった。

Jリーグのマスコットに大きな変化をもたらしたのが、J2が新設された1999年である。これによりJクラブは、それまでの18クラブからJ1・J2合わせて一気に28クラブに増加。このビッグバンの際、新たに参入したJクラブに対して、マスコットが事実上「自由化」されたことは見逃せない。新たにマスコットを作るクラブは、ソニー・クリエイティブ・プロダクツ社が制作したものではなく、自分たちのスタイルに合ったものを作ればいいし、また「作らなくてもいい」という選択肢も生まれる。結果、ベガルタ仙台のベガッ太のように「ソニクリっぽくない」ニュータイプのマスコットが相次いでデビュー。FC東京の東京ドロンパが登場したのは、ビッグバンから10年後の2009年である。

Jリーグのマスコットに与えた、もう1つのインパクトは1993年から2007年まで15回にわたって行われたJリーグオールスターサッカーである。オールスターといえば、東西に分かれてスター選手が対戦する華試合もさることながら、各クラブのマスコットが大集合してPK合戦をするイベントに夢中になった御仁も少なくないだろう。そこでのマスコット同士の交流は、やがて各クラブに「他クラブのマスコットとの差別化」を意識させる転機となった。そしてオールスター終了後、新たな交流の場としてクロースアップされたのが、新シーズンの開幕を告げるゼロックスである。

キッカケとなったのは、日産スタジアムで開催された2011年大会。この時、愛媛FCの非公認マスコット、一平くんが東ゲートにひょっこり出現し、ファンが群がって大賑(にぎ)わいとなった。その様子を克明に記録し、Jリーグに「マスコットの重要性」を説いたのが、当時Jリーグメディアプロモーションに籍を置いていた山下修作氏(一平くんを仕込んだのも、この人だ)。山下氏はその後、Jリーグ内部でのプレゼンで、一平くんと戯れる人々の笑顔を指し示しながら、こう力説している。

「この笑顔こそが、大会の価値そのものなんです。大会の価値を上げるということは、笑顔を増やしていくということです。これがわずか1体のマスコットで生まれたのだから、J1クラブのマスコットが18体そろったら、もっと笑顔が広がるじゃないですか!」

山下氏は、『J's GOAL』での編集・取材経験から、スタジアム観戦におけるスタジアムグルメとマスコットの重要性に知悉していた。だからこそ、当該クラブのみならず、全てのJリーグファンが注目するゼロックスにマスコットを集結させることで、大会のブランド価値を高め、大会そのものを盛り上げることを思い立ったのである。そんな山下氏の願いが結実したのが、2012年大会での「J1マスコット大集合」であり、翌2013年大会ではJ2クラブのマスコットも参加して第1回総選挙が行われた。

これ以降、センターポジションの座をめぐってサポーターの愛と意地のこもった投票合戦が繰り広げられ、総選挙は主催者側も予想しなかった盛り上がりを見せるようになる。クラブ側も本気度をあらわにするようになり、2015年に1位に輝いたサンチェ(サンフレッチェ広島)のように「今後はチームのタイトルだけでなく、マスコットにも力を入れなければ」と考えるクラブも現れるようになった。これと呼応して、JリーグがSNSによる拡散を重視するようになり、投票方式も大幅に変更。かくして開幕直前のこの時期は、TwitterやInstagramでマスコットたちの自己アピールを目にしない日はなくなった。

そうして考えると、マスコットが「おまけ」だった黎明(れいめい)期からは隔世の感を禁じ得ない。今年はJ1・J2に加えて、J3からも9体のマスコットも参戦。総勢49体という過去最多のエントリーをもって争われることとなった。とはいえマスコット好きにとって、ゴールは決して「ここ」ではない。私の夢は、年末のJリーグアウォーズにおいて「ベストマスコット賞」が新設されることである。これまでマスコットが果たしてきた役割、そして現在のファンの巻き込み方を考慮するなら、マスコットもまた表彰されてしかるべきである。今年の総選挙が、その気運を高めることを切に期待したい。

文=宇都宮徹壱