コラム:中国サッカーバブルに対し、日本は何ができる?

日本人選手、日本人指導者のさらなる世界進出へ
今、空前の中国サッカーバブルが到来している。今夏、ディディエ・ドログバはチェルシーから上海申花へ、ヤクブ・アイェグベニはブラックバーンから広州富力へ、ルーカス・バリオスはドルトムントから広州恒大へ移籍することが決まった。すでに中国サッカーにはニコラ・アネルカ(上海申花)、ダリオ・コンカ(広州恒大)、フレデリック・カヌーテ(北京国安)のほか、監督としてはマルチェロ・リッピ(広州恒大)など、ビッグネームがずらりと名を連ねている。

中東のカタールやUAEが『年金リーグ』と揶揄されるのと同様に、中国スーパーリーグにもそのような性格があることは否めない。しかし、後者の場合はキャリアの終焉を迎えた選手だけでなく、29歳のヤクブ、27歳のバリオスに代表されるような欧州トップレベルで十分プレーできる20歳代の『働き盛りのサッカー選手』の獲得にも成功しているのは事実である。彼らの選択肢として中国でのプレーが現実的になっていることには、正直、驚きを隠せない。

このように現在、世界の注目を集めている中国サッカーだが、一方、その中に日本人選手の名前はそれほど挙がっていない。

中国クラブが日本人選手に興味がないわけではない。中国スーパーリーグは外国人枠を7人(うち1人はアジア枠)と定めており、また、ACLに出場する場合は外国人枠が4人(うち1人はアジア枠)と狭まる。このため、アジア枠として使える日本や韓国やオーストラリアから選手を獲得するメリットは大きい。先日、J1大宮からの移籍が決まったキム・ヨングォン(広州恒大)のほか、獲得が失敗に終わったもののパク・チソン(QPR)やイ・ジョンス(アル・サッド)なども交渉を進めていた。当然、日本代表クラスの選手も補強ターゲットに挙がっている。

しかし、海外移籍に関しては、今のところ日本人選手の気持ちとしては欧州志向が強く、2部リーグでのプレーや条件の悪いクラブを受け入れてでも、欧州を望む選手が圧倒的に多い。いまだ中東で日本人選手が1人も誕生していないのも同様の理由である。中東のサッカー関係者が「日本人はお金で動かない」と語るように、サラリーよりも名誉や、選手としての欧州でのステップアップを望む傾向があるようだ。

個人的にはそうした日本人選手の性格を好ましく感じる一方、現在のマーケットの規模を考えると、今後は遠藤保仁、楢崎正剛、中村俊輔、佐藤寿人といったアジアで知名度のあるJリーガーが欧州以外のマーケットへ流出するのも避けられないのではないかと思う。それが表面化したとき、「あの選手はお金に魂を売った」という冷ややかな反応をするサッカーファンは少なくないだろう。「私たちを捨てた」と感じるサポーターもいるかもしれない。自然な感情だろう。

しかし、逆らうことのできない時代の流れを嘆いてばかりいても仕方がない。大切なのは、そこから何を得るかだ。

例えば中国クラブからの移籍金を得ることで、日本人選手を送り出したJリーグのクラブは潤い、さらに若い選手の育成にお金を使うことができるだろう。それはイコール、Jリーグの発展に他ならない。あるいは中国クラブへ移籍した日本人選手が活躍して人気を得れば、中国での日本のイメージ向上に寄与し、さまざまな分野のビジネスが有利に働くかもしれない。日本サッカーが日本の後押しをするということだ。

また、それは選手に限った話ではない。筆者は今シーズンから杭州緑城で監督を務めている岡田武史氏こそが、今後の中国サッカーの鍵を握るチャレンジをしているのではないかと考えている。

それはなぜか? 先ほど、中国サッカーの投資が世界の注目を集めていると述べたが、その継続性については疑問符も付く。つまり、最近の中国における経済成長の減速を鑑みるに、中国サッカーがこれからも資産家オーナーによる巨大な投資を続けられるのか否かが不透明であるということだ。しかも、そのようなサッカー選手に対する豊満な投資が、果たして将来的な中国サッカーの発展に役立つのか、少なくとも筆者は懐疑的である。獲得したスター選手が怪我をしたら終わり、スター選手がチームメートとケンカを始めたら終わり、スター選手が監督と反りが合わなかったら終わり。そして後には何も残らない。今の中国サッカーの巨大投資には、どうしてもそのようなリスクがつきまとうのが事実である。

そう考えると、若い選手の育成を重視するクラブであり、中国では希有な存在である杭州緑城だが、そのクラブコンセプトは中国サッカーのもう一つの指針になるべきではないかと思う。杭州緑城の岡田監督は、リーグ戦30節終了時点で10位と結果こそ平凡だが、若い中国人選手の生活態度を改めさせ、プロ意識を植え付けようとする岡田監督の人間力を磨く育成術は、中国でも評価が高まりつつある。このような状況をすべて予測していたのかどうかは分からないが、中国の杭州緑城を新たなチャレンジの場に選んだ岡田監督、そして小野剛コーチの先見の明には驚かされるばかりだ。

もう一つ育成に関して言えば、日本の若い世代に対する中国からの評価は非常に高く、中国人指導者からの講習会や指導者派遣の依頼はひっきりなしだと聞く。外国人スター選手の獲得に反比例し、若い選手の育成に弱みを抱える中国としては、その問題を解決する鍵が日本サッカーにあるとも言えるのではないだろうか。日本としても悪い話ではない。日本はどうしても年功序列の意識が根強いため、優秀な指導者がステップアップする場が少ないのが現状だが、今後はその就職先として、中国クラブが自然な選択肢として加わるかもしれない。その日はそう遠くはないだろう。そして、アジアサッカーの底上げは、日本がワールドカップで優勝を果たす夢の瞬間にも近付けてくれるはずだ。

今の中国サッカーの動きは、我々に大切なことを教えてくれたと思う。それは『日本の強みを改めて考える』ということだ。世界が日本をどのように評価しているのか、どのように日本の強みを生かすべきなのか。日本が今まで培ってきた育成手腕が評価されているのなら、それは世界に羽ばたく新たなチャンスでもある。

サッカー選手の輸出が国の産業になっているアルゼンチンやブラジル、あるいは多くの指導者が世界に進出しているオランダやセルビア。さまざまな国の形がある中で、日本サッカーはどのような未来に向かって歩んでいくのか。今が非常に大事な時期ではないかと感じている。



文/清水英斗(Hideto Shimizu)
Goal.com Japanの編集長を務める。サッカーライター&編集者。ツイッターアカウントは @kaizokuhide