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驚きなきバイエルンとブンデスリーガ、“退屈な5連覇”後に必要なこととは?

サンティアゴ・ベルナベウで120分間に渡る激闘の終幕を知らせる笛が鳴った瞬間、真っ赤なユニフォームを身にまとった男たちは立ち尽くした。

アルトゥーロ・ビダルという情熱的なエンジンを失ったバイエルン・ミュンヘンは104分まで耐えた。しかし、クリスティアーノ・ロナウドのシュートがマヌエル・ノイアーの足をすり抜けていった時に勝負は決してしまった。10人のバイエルンに反撃する術は残されていなかった。以降の16分間、マドリードまで駆けつけたサポーターと選手たちの顔に浮かんだのは、悲壮感だけだった。

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カルロ・アンチェロッティ監督は試合後、片側の眉を釣り上げるお馴染みの表情を浮かべながら、“疑惑の判定”について厳しい言葉を発した。

「最終的に審判が下したいくつかの判断によって試合が決まってしまった。レフェリーが単純に間違いを犯したということだ」

「CLの準々決勝があのような形で決着してはならない。試合後に(ジネディーヌ)ジダンとも話をしたが、彼も審判のパフォーマンスが良くなかったことを認めていたよ」

もっとも、敗退の原因を判定に求めることが賢明かというと、必ずしもそうではない。なぜなら、CLを去ることになった理由はバイエルンが抱える“本質的な問題”にあると考えられるからだ。

■見えない「改革」

近年のブンデスリーガは「やっぱり」という言葉が口を突いて出てしまうリーグになっている。

今シーズンもバイエルンは強かった。心機一転してアンチェロッティに率いられることになったが、3試合を残してリーグ優勝を決めた。前人未到の5連覇を達成した事実は称賛に値する。もはや「日常的な光景」とすら言えるかもしれないが、それでもマイスターシャーレを掲げて選手とファンが喜びを分かち合うシーンは美しい。

もっとも、リーグ全体を見渡すと、必ずしも喜んでばかりはいられない。なぜなら、強すぎる王者の存在は「リーグ全体の魅力の低下」という副作用をはらんでいるからだ。

ジョゼップ・グアルディオラとの3年に渡る冒険を終えたバイエルンは停滞を嫌い、何よりもビッグイヤーを求めた。だからこそ、率いたクラブに多くのトロフィーと人脈を残すことで知られているアンチェロッティを招いたのだ。

バイエルンは順調なスタートを切った。ブンデスリーガで開幕5連勝を飾り、10節まで無敗をキープした。11節のドルトムント戦こそ落としたものの、そこから26節まで再び無敗を続ける。試合内容を紐解くと、シーズン中盤戦こそ最適なシステムを見つけられずに不振に陥ったが、4-2-3-1に固定して以降はライバルたちに地力の差を見せつけることになった。

シャビ・アロンソがボールを散らし、両翼からフランク・リベリとアリエン・ロッベンが相手守備陣を襲う。中央に待ち構えるのはロベルト・レヴァンドフスキだ。2列目、3列目にはビダルやリーグ随一のテクニシャンであるチアゴ・アルカンタラが控えている。当然のことながら、神出鬼没のトーマス・ミュラーや世界最高の守護神マヌエル・ノイアーの存在も忘れてはならない。

圧倒的なタレントたちが多少なりとも噛み合えば、2位以下との勝ち点差は自然と広がっていく。強いものが弱いものを倒していくのが自然の摂理だとすれば、バイエルンはまさに生態系の王者なのだ。

しかしながら、それはあくまでも物事を点で見た際の見え方である。もし線で見たとするなら、別の光景が浮かんでくる。要するに「グアルディオラ時代と比較したとき」という視点だ。

今のバイエルンは他の追随を許さないタレント力を誇るため、ボールを保持し続け、相手の守備網を個の力で破るという戦い方ができる。どのくらい効果的かは、ブンデスリーガの順位表を見れば明らかだろう。だが、個の力に頼る戦術は効果的であっても進化と呼べる代物ではない。

チアゴを不動のスタメンに固定したことはアンチェロッティ政権での数少ない変化と言えるものの、技術のある選手を中心に据えてパス回しをスムーズにするというありふれた意図以外に、効果を見て取るのは難しい。

少なくとも「改革」と呼べる変化とは言い難いのだ。

■懸念されて久しい競争力の低下

現地で記者を務めるピーター・ストーントン氏はバイエルンに関する考察の中で「(昨シーズンから)ただ一歩後退した」と書いている。さらに、その原因がバイエルンの運営方針にあると指摘する。

「レアル・マドリー戦で見られた停滞感は、ドイツ国内ではなかなか明るみにならなかった。なぜならブンデスリーガはバイエルンのようなクオリティを備えたチームにとって決して難しいリーグと言えないからだ。むしろ、バイエルンこそがリーグ全体の質を下げているという見方もある。バイエルンはノイアーやマッツ・フンメルス、レヴァンドフスキといったスター選手をライバルから引き抜き、強化を図っている。当然、強くなったチームで弱体化したライバルを相手にしているのだから、ドイツサッカー全体の犠牲の元にバイエルンの強化が行われていると見られても仕方がないだろう」

実際、リーグで独走し、余裕を持って最低限のミッションを遂行できた背景にはライバルたちの不調があった。王者を苦しめ、追随するはずだったドルトムント、レヴァークーゼン、ヴォルフスブルク、シャルケは思い描いたような一年を送ることができず、軒並みノルマより下の順位をうろつくことになった。代わりに浮上してきたチームをおとしめるつもりはさらさらないが、RBライプツィヒやホッフェンハイムはシーズン前に降格候補と見られていたクラブである。プレミアリーグにおけるレスター・シティのような事例もあるとはいえ、それにしてもマンチェスターの両雄やチェルシーなどの不振によるところが大きかったという論調が一定数あるのは事実だ。

残念ながら、現在のブンデスリーガにバイエルンを苦しめられるライバルはいない。

毎シーズン、激しい優勝争いが繰り広げられるスペインやイングランドとは根本から異なるのだ。競争相手がいなければ、自分を高めることは難しい。そもそも天敵のいない環境というのは大抵の場合、どこかしらに問題があるということを意味している。

競争力の低さは王者に、過信や油断、注意力の低下といった問題を引き起こす。そんな環境の中により強い敵が現れれば……。どういったことが起こるかは、チャンピオンズリーグの結果を見れば明らかだろう。

■欧州制覇に向け、必要なこと

今でもドイツ王者は欧州屈指の実力を持つと評されているが、チャンピオンズリーグを制したのはユップ・ハインケス時代……もう4年も前のことである。

以降は3年連続でベスト4の壁を破れず、今季に至ってはベスト8止まりに終わった。文字通り、一歩後退しているわけだ。クラブはアンチェロッティに対し、現状の力を維持しながら欧州のトップを目指すことを要求している。しかし、だからこそ進化に踏み切ることができないままシーズンを過ごし、結果的にブンデスリーガを“制してしまう”形になったのではないか。

Pep Guardiola Bayern München 30042016Getty Images

前任者のグアルディオラは惰性を許さず、3年間に渡ってひたすらに理想を追い求めた。フィリップ・ラームを中盤で起用し、サイドバックにボランチの役割を担わせるといった変革を行ったことは今なお驚きとして記憶されている。しかも3冠を獲得した直後に改革を断行したのだから、ドラスティックだったというほかない。

実際のところ、当時は賛否両論が飛び交っていたし、あまりに革新的なスタイルに眉をひそめるクラブOBも少なくなかった。もっとも、ポゼッションをトレードマークとするバイエルンには、ペップが作り上げた色が今でも染み付いている。

アンチェロッティは前任者より縦に速いスタイルへ舵を切り、栄華を誇ったハインケス時代の記憶を観衆に思い起こさせた。しかし、結果が残せなくなると、ファンたちは一転してグアルディオラ時代を懐かしむようになった。計算しつくされたポジショニングによって、素早いプレスがかかっていた昨季と違い、今シーズンは個人の能力に依存する側面が大きい。一人かわされれば、たちまち危険なカウンターを食らうリスクをはらんでいる。数字は正直だ。ブンデスリーガにおける失点数は3試合を残した時点で昨シーズンと並んでしまっている。

もしクラブが本気で欧州における地位の確立(=チャンピオンズリーグの制覇)を目指すなら、漂う停滞感を払いのけなければならない。どのみち、長期的な視点で見れば改革は不可欠だ。ラームとX・アロンソは今シーズン限りでユニフォームを脱ぎ、33歳のロッベンや34歳のリベリがいつまでも今のスピードを維持できるわけでもない。

現実的な話として、バイエルンがライバルクラブから主力を引き抜くという方針を変えることはないだろう。「出る杭は打つ」という補強策を推し進めてきたドイツの盟主が、今さらライバルたちに成長を許すとは考えにくい。だからこそ、もし周囲の助けを借りずに成長を望むとすれば、必要なのは痛みを伴う改革である。上を目指すことを宣言し、能動的に、自分たちで変化を追い求めていくべきだ。さもなければバイエルンに待っているのは「停滞」の二文字だけである。

仮にバイエルンが改革を成し遂げ、ライバルたちの台頭がなければブンデスリーガの“退屈な優勝”は「6」に伸びることになる。だがその代わり、アリアンツ・アレーナのファンたちはミッドウィークと5月の最終週に、最高の興奮を得ることになるはずだ。

優勝を遂げた今、改革へスタートを切ることに、躊躇する理由はなにもない。バイエルンは、アンチェロッティは、未来へ向けた変化を、いつでも始められるのだ。

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