2018-03-25 Nagatomo Yuto Japan

田嶋会長の言う「信頼関係の薄れ」とは何だったのか?日本代表選手の言葉から見えるもの

■流れ続けていた不穏な空気

「マリ戦、ウクライナ戦の後、選手とのコミュニケーションや信頼関係が多少薄れてきた。(不安要素とポジティブな要素が)逆転してしまったのが3月だった」

4月9日会見を開いた日本サッカー協会・田嶋幸三会長は、1分1敗に終わった3月のベルギー遠征が指揮官交代の最大の引き金になったことを再三再四、強調していた。

2017年9月、日本代表はアジア最終予選を首位を終え、ロシア・ワールドカップの出場権を獲得。しかし、その後は満足いく結果が出ていなかったこともあり、今回の2連戦では終始不穏な空気が流れていた。特に1つのポイントになったと思えるのが、23日のマリ戦(1-1)の後半だ。ボスニア人指揮官が「決定力解消の切り札」と期待を寄せた中島翔哉を投入してからの時間帯だった。

以下に続く

「翔哉のサイドにずっと『蹴れ蹴れ蹴れ』と監督は言っていたけど、そんなに全部が全部蹴れない。こっちは右サイド(酒井高徳・本田圭佑)で時間を作りながらやっていこうと話してたけど、ああやって『蹴れ蹴れ』と指示されるとほぼサコ(大迫勇也)頼りになってしまう。毎回サコも勝てるわけじゃない。そこはもっとうまくやらないといけない」

ハリルジャパンの大半の試合に出場していた山口蛍が苦渋の表情を浮かべたように、指揮官の強硬な指示をどうピッチ上で実践すればいいのか。選手たちは戸惑い、考えあぐねていた。その結果、チームの統一性やまとまりがなくなっていったのである。

たとえば川島永嗣や長谷部誠のように、代表経験が豊富でチームの軸を担う選手たちは分かっている。指揮官は、「戦況を見つつ自分で判断しながらプレーする」ことを求めているだけであり、ボールを回しても文句を言うわけではない。そしてそれは3年間ずっと変わっていない。だから仮に強引な指示が飛んだとしても、ある程度自分たちで柔軟に判断してプレーできる。ウクライナ戦(1-2)に先発し、代表落選のリスクを承知で自らタメを作り、チーム全体が攻撃に出ていく時間を稼ごうとした本田にしてもしかりだ。

けれども、全員がそういった柔軟性や判断力を備え、ピッチ上で表現できるとは言い切れない。山口や酒井高徳のように「ピッチでやるのは選手」だと分かっていながら、指揮官の指示が気になって迷う選手もいれば、「監督の言うとおりにやらなければ代表から外される」という強迫観念をどこかで抱きながらプレーしていた当落選上の選手も少なからずいたように見えた。

■協会は交代のタイミングを見誤った

2018-03-25 Nagatomo Yuto Japan

「みんな考えすぎて自分のプレーができてなくて、楽しめてなくて、全然イキイキしていない。むしろ何かオドオドしてるというか、怖がってるように見える。1人がそういう怖さを見せるとチームに伝染していく。人間の体って恐怖を覚えたり、ネガティブになると体が固まる。今の代表はそういう方向に行っている気がする」

トルコで記者の取材に応じた長友佑都(ガラタサライ)は神妙な面持ちで語った。また、本田もウクライナ戦後にこう指摘している。

「実際、いい形の中ではもっといいプレーができる選手が日本代表にいるのは事実。誰が本来以上のパフォーマンスを出せているのか。それを個の問題と言ってしまえば話は終わってしまう」。全員が持てる力を出し切れていない現状がそこにはあった。

こういった負のスパイラルを、田嶋会長が「選手と監督のコミュニケーションや信頼関係が薄れた状態」と捉えた可能性は大いにある。ロシア本大会を乗り切るために、「選手が伸び伸びと自分のよさを出せる環境を再構築すべきだ」と協会サイドが判断したのなら、それはそれで正しいのかもしれない。

しかし、ハリルホジッチ監督による「恐怖政治」ようなアプローチは、今回の3月2連戦に始まったことではない。体脂肪率12%以下を厳守させ、オフシーズンに突入したばかりの欧州組に猛烈な走りのトレーニングを課し、意見をぶつけてくる人間を遠ざけるようなやり方は、2015年3月の就任当初から一貫していた。そういった部分が選手のメンタル面にマイナスに働いていたのは確かだろう。

15年6月、ホーム・埼玉スタジアムで行われたロシアW杯アジア2次予選初戦・シンガポール戦のスコアレスドローに始まり、同年8月に中国で開催されたEAFF東アジアカップ選手権での最下位という成績。16年9月、埼玉スタジアムで行われたアジア最終予選初戦・UAE戦での1-2という黒星。そして、最終予選突破後の停滞など、結果も出ていなかった。その事実も加味するのなら、指揮官交代に踏み切るタイミングはもっと前であるべきだった。

17年12月のE-1選手権で宿敵・韓国に4失点で大敗したときなどは、その最たるものだろう。それを見誤ったことは協会サイドも深刻に捉えるべきだ。2年間、技術委員長としてチームに帯同しながら問題を解決できなかった西野朗新監督にも責任はある。それをしっかり受け止めて、ロシアに向かうしかない。

■選手たちに求められる自覚と気概

いずれにせよ、もはや日本代表には5月21日から始まる3週間の準備期間しか残されていない。そこで、“やる”のは選手たちだ。今までのように迷ったり、戸惑ったり、恐怖を感じたりしていたら、絶対に結果は出ない。自分たちでアクションを起こしていこうという強い自覚と気概を持たない限り、チームに希望は見えてこない。

過去のW杯を見ても、グループリーグを突破した大会ではつねに選手自らアクションを起こせる強さがあった。2002年日韓大会。初戦・ベルギー戦を2-2で引き分けた後、松田直樹、森岡隆三(現・鳥取監督)ら守備陣がフィリップ・トルシエ監督の指示をいい意味で無視して、フラット3のラインを下げ、現実的な戦い方に変えることを決断し、勝利に結びつけた。岡田武史監督が指揮し、崖っぷちに立たされた8年前の2010年南アフリカ大会もしかり。田中マルクス闘莉王(現・京都)がミーティングで口火を切ったことで、超守備的な戦術へシフトし、それが奏功している。

選手が自主的に動き、覚悟を持って戦わなければ、悪い流れは変わらない。代表経験が豊富だろうが、少なかろうが、ピッチに立てば関係ない。選手として、日本代表として、ロシアで戦うつもりがあるのなら、まずは選手自身が強くなること。そこから始めるしかない。

文=元川悦子

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