いったいどれだけアムステルダム・アレナはこんな日を待ちわびていたのだろうか。ヨーロッパの準決勝という舞台で、活きの良い若いチームが4ゴールという驚くほど最高のパフォーマンスを見せ、クラブのアイコン的なスタジアムに興奮を巻き起こした。
ルイ・ファン・ハールがこの試合を観戦し、将来有望なクライファートという選手の名前がメンバー表に名を連ねていた。黄金期を知るファンは、1990年代半ばにタイムスリップしてしまったのかとさえ思ったのかもしれない。しかし、そんな錯覚も許されるほどの快勝であった。
準々決勝でシャルケを劇的な勝利で下した後の祝いようはまるで優勝したかのようなものであったが、そうしたのも正しかっただろう。しかし、水曜夜に準決勝という舞台でリヨンを4-1で下した試合はまたそれとは別の次元の話であった。
先週末に行われたPSV戦で敗れ、エールディビジ優勝のチャンスをフイにしてしまった後であったが、ペーター・ボス率いるアヤックスはヨーロッパの舞台で戦うためにしっかりと立ち直り、この試合に照準を合わせてきた。
バートランド・トラオレの2得点、そしてカスパー・ドルベルクとアミン・ユネスのゴールがスタジアムを震わせた。この試合に居合わせた幸運なファンとメディアが戦前に抱いた疑念は忘却の彼方へと葬られ、若いチームへ畏怖の念さえ覚えたことだろう。

Getty Images攻撃的、プレッシング、エンターテイメント。この試合で見せたのは、そういった多くの意味で、伝統的なアヤックスのようであった。攻撃の選手が守備をし、守備の選手が攻撃をする。それを見るまでに随分と長い時間を要してしまったが、ファン・ハールが率いた黄金時代のサッカーと近いものであった。
「この20年で初の準決勝であり、ここまで来たことですでに大きなことを成し遂げたと言ってもいい。しかし、それをどのようにやってのけたのかが重要だった。守備的なサッカーではなく、我々のスタイルのサッカーでここまで来たというのがね。我々は勝つことと、魅せることを両立させたサッカーを展開してきたんだ」
試合後に、監督であるペーター・ボスはそう強調し、パフォーマンスの質を誇った。
この日のアヤックスのスターティングメンバーは、平均年齢22歳137日と今シーズンのヨーロッパの大会で2番目に若いチーム編成であった。さらに驚くべきことに、今シーズンのヨーロッパリーグにおけるスターティングメンバーに名を連ねた選手を若い順に10名挙げていくと、1位はゲンクの選手であるが、その他はアヤックスの選手で占められている。
経験の浅いホームチームは序盤、少しナーバスな様子が見られた。開始から25分、アヤックスはリヨンのペナルティ・エリアに近付くことができず、逆にアウェーチームに押し込まれている様相であった。
ハキム・ズィイェク、ラセ・シェーネ、デイヴィー・クラーセンの3人で構成された中盤は距離があまりに近く、またポジションが深すぎたことで、ビルドアップにおいて機能不全だった。だからトラオレとユネスという両ワイドアタッカーへボールが渡ることはほとんどなかった。
しかし、ズィイェクのフリーキックからトラオレが頭で合わせて先制点を奪うと、アヤックスはスピードとパワーを思い出したかのようなプレーを披露し始める。
そして先制点から10分と経たないうちに、リヨンDFの中途半端なクロスをトラオレがそのままヘディングで送ったボールがドルベルクに渡ると、多くのサポーターはスコアボードの数字が2に変わることを確信しただろう。ドルベルクは期待に違うことなく、ストライカーとしての本能を発揮したゴールでリードを2点に広げた。
そしてそこからは、アヤックスの勢いはさらに増した。ボブ・マーリーの“Three Little Birds”という歌がハーフタイムにスタジアムで鳴り響き、“心配ないさ、何もかもうまくいく“と歌った彼らに、実のところ何の不安もなかったことは想像に難くない。
彼らは自分たちのスタイルを貫いて戦った。アウェーゴールを与えてしまったのはもったいなかったが、それ以外は文句の付けようがない試合だっただろう。ジョエル・フェルトマンとニック・フィエルヘフェルという本来出場している2人のディフェンダーが累積警告により欠場したことで、変わって出場したケニー・テテとジャイロ・リーデワルトという2人のバックアップの選手も素晴らしい出来であった。
テテは試合序盤からマテュー・ヴァルブエナをうまく抑え、リーデワルトは強固な守備を披露していた。そして、20歳のデイヴィンソン・サンチェスと17歳のマティアス・デリートの2人のセンターバックも安定したプレーを披露している。
Getty Images後半開始早々に生まれたユネスによる3点目は彼のこの日のプレーぶりに報いるものであり、ヴァルブエナに許したアウェーゴールも大勢に影響はないものであった。最も警戒すべき選手にクリアボールを渡してしまいゴールを許すという、不必要なもろさを露呈するものではあったが。
しかしゴールを許しても勢いを弱めることのなかったアヤックスは、ズィイェクの左からのクロスをトラオレが合わせる。ボールはがリヨンGKアンソニー・ロペスを破り、ゴールに吸い込まれて4点目を奪った。
“ヨハン・クライフよ、永遠に”という巨大なバナーは片方のゴール裏スタンドに掲げられ、スタジアムの名前がクライフの栄誉を称えたものに変えられることになった。しかし、そうした冠をスタジアムに付けることはなくとも、この日のアヤックスはプレーで示してみせた。クラブの象徴であるクライフの誇りを汚すことのない見事な戦いをしたと胸を張って言えることだろう。
文=ペーター・マクヴィティ/Peter McVitie




