フランス人MFポール・ポグバは、シーズンを通じて圧倒的な存在感を示すシーンが限られているため「金の無駄だ」と揶揄されることが少なくない。ソーシャルメディアなどでも実力を疑問視され、ユナイテッドの順位が上がらない原因の一つとして槍玉に挙げられてきた。
だが、スコアレスドローに終わったマンチェスター・ダービーで、ポグバがジョゼ・モウリーニョのチームに何をもたらしてきたのかが改めて浮き彫りとなった。一番の問題は、彼の不在そのものだった。
マンチェスター・ユナイテッドはFWズラタン・イブラヒモビッチ、DFマルコス・ロホとDFフィル・ジョーンズらが離脱。さらにポグバが欠場することになり、チームは大きな痛手を負った。この夜、ユナイテッドがカウンターアタックを仕掛けようにも、推進力あるドリブルと一撃で流れを変えるパス精度を持つ9000万ポンド（約125億5000万円）の男の不在で上手く機能しなかった。クラブが大金を費やしたスター選手がピッチに立てず、同地区のライバルであるマンチェスター・シティを相手に10人で辛くも引き分けたことは多くの関係者にフラストレーションを与えたことだろう。
Getty
試合はマンチェスター・Cがポゼッションで大きく上回り、ピッチ上の大部分を支配した。ユナイテッドは反撃の瞬間すらおぼつかず、プレーのきっかけを見つけることに苦慮していた。彼らの目論見は明らかで、シティのプレッシャーを吸収し、俊足の前線3枚にボールを託して相手守備陣を破ることにあった。しかし結論から言うと、チームはFWマーカス・ラッシュフォード、FWアントニー・マーシャルら攻撃陣に十分なスペースを与えることができなかった。
ラッシュフォードとマーシャルの俊足ストライカーは、ともにシティのCBニコラス・オタメンディとCBヴァンサン・コンパニを容易に攻略できる脚を持っている。にもかかわらず、ユナイテッドの選手たちは「自分たちにアイディアはない」と自ら示すように浮き球ばかりを選択した。こうした明らかに誤ったアプローチのおかげで、空中戦に強いホストチームのCBたちは難なくユナイテッドの攻撃を防ぐことができていた。結果として、シティはすぐボールを取り返し、長期に渡るポゼッションを展開した。ユナイテッドにとって、かつてないほど手も足も出ない状態が続く試合となった。
彼らが守備的な戦いぶりを意味あるものにするには少ないチャンスを仕留めるほかなかったのだが、それをつかむことは最後まで叶わなかった。GKクラウディオ・ブラーボの不用意なクロス処理のあとMFヘンリク・ムヒタリアンは足元にこぼれてきたボールを蹴り込むが、チリ人GKの守備範囲内に収まってしまった。MFアンデル・エレーラはノーマークで飛び出したものの、ラッシュフォードからのクロスをゴールマウスに入れることはできなかった。
繰り返しになるが、モウリーニョのプランはあくまでもカウンターであった。大前提としてシティの攻撃を抑え、その後ろに空いたスペースを十二分に生かして誰かが走り込み、得点を奪う、というものだ。スピードにおいて、前線にはミスマッチが存在するとモウリーニョは見抜いていたからこそ選んだ選択である。ポグバがピッチ上に立っていれば、比較的簡単にできたタスクだっただろう。
FAカップ準々決勝のチェルシー戦では、アンデル・エレーラの退場によって10人で守備を形成し、ファイナルサードでのチャンスに懸けるほかなかった。しかしこの試合では、何も退場のみが一方的な展開にしたわけではない。84分のMFマルアン・フェライニの狂気的な退場劇の前からユナイテッドは守備一辺倒となっていたのだから。
ベルギー人MFは試合を通してディフェンスラインの前で果敢な守備を見せていたが、FWセルヒオ・アグエロへ放った怒りのヘッドバットが彼の最後の“プレー”となってしまった。フェライニの退場によって、ユナイテッドは試合終盤にポゼッションを高めたかったところで、的確な戦術変更や選手交代ができなくなってしまった。
この試合でユナイテッドやファンが得たものがあるとすれば、それは2つほどだろう。
一つはフェライニが退場したにもかかわらず、勝ち点1を獲得したこと。そしてもう一つは、ポグバがいかに重要な選手だったか、分かったこと。
120億円の男はオールド・トラッフォードで十分な影響を及ぼせていないと非難を浴びている。しかし、皮肉なことに彼がいない試合で、彼の存在がいかに大きなものか、示される形となったのだ。
文＝クリス・ヴォークス／Kris Voakes
●サッカーのライブを観るならDAZNで！1ヶ月間無料のトライアルを今すぐ始めよう。
