サッカー専用スタジアム、先進的なスポーツセンター、そしてユース部門への投資――。今日のサッカー界では、クラブを活気付け、安定させ、さらに、より勝てるチームにするための完璧な方法だ。多くのクラブがこの流れに向かっており、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、チェルシーといったそれをすでに整備したチームは、大きな利益を享受している。経済的利益と、ピッチ上で受ける恩恵だ。
この3次元的プロジェクトを献身的に、そして注意深く進めているクラブの一つは、疑いもなくビジャレアルである。スペインの中小クラブである“イエローサブマリン”は、2012年にセグンダ・ディビシオン(2部リーグ)に降格してしまったにも関わらず、確かな計画と実現性の高さにより最良な形で再出発を図ることを可能とし、スペインのビッグクラブの一つとなるまでに至った。バルセロナやレアル・マドリーと比べると、そのレベルは並んで語ることができるものではないことも間違いないが、通っている道筋は、同様に間違いなく正しいのである。
■新たな練習場: ”シウダ・デポルティーヴァ”
数年前までは”ミラルカンプ”で、現在は”シウダ・デポルティーヴァ”と呼ぶ。ビジャレアルが賢明なクラブと考えられる理由の一つが、設備が整った施設を自分たちのプログラムの最重要事項として扱ってきたことだ。ビジャレアルは常にトップチームと育成中の選手たちの事を考えてきた。1年と少し前、新生“シウダ・デポルティーヴァ”が生まれたのだが、その大きさは7万平方メートルに広がる。規定サイズのサッカー場が5つに(そのうちの2つは7人制サッカー用のグランド4つとしても使用できる)、8人制サッカー用のグランドが一つ、さらにフィジオセラピールームが一つ準備されている。これは、チャンピオンズリーグで優勝を争うようなビッグクラブと比較しても、見劣りしないものだ。

さらに、いやおそらく特にこれを言うべきであるが、この建物は”ミラルカンプ”(現在はビジャレアルBのスタジアムそしてビジャレアルのサテライトチームC.D. Rodaのホームとなった)にいる青年に加え、さらに100人もの若手選手を収容できる。つまり、イエローサブマリンは若手選手の数を約1000人近くまで管理できるという事になる。ビジャレアルがある地域の人口約5万人との割合、そしてかの有名なバルセロナのラ・マシア(カンテラ寮)が400人以上を収容できないことを知っていれば、この数字は驚きですらあるかもしれない。
■下部組織には一層の力を
こんなに近くで数多くの才能あふれる若者たちを管理するということは、一流選手を輩出する可能性を大幅に上げることができるのは明らかである。フェルナンド・ロイグ会長は、この地域の選手が後に大きなことを成し遂げた時に、チームがその恩恵を受けられるようなプロジェクトを推し進めている。実際、”Endavant Fùtbol Provincial” プロジェクトを通してビジャレアルはカステリョンの地域のサッカースクール37校とのコラボレーションをスタートさせた。チームはスクールに医療サービスや監督育成プログラムを提供する代わりに、約6000人の青年に対しての先買権を持っている。
Twitterさらに言えば、非常に小さな街であるビジャレアル市が16ものサッカー場を抱えているのは、まさにロイグ会長の寄与のおかげだ。実質、住民3000人に対して1つの計算。退廃したこの地域の環境を向上させようと出資したのがロイグ会長で、クラブチームの財務状況改善のため、彼が会長を務めるセラミック会社パメサを通して300万ユーロ(約3.6億円)を投資した。成果はすぐに出たと言っていい。イエローサブマリンの育成所で育った数多くの青年たちが、ラ・リーガへ放たれていったのだ。ビジャレアルに所属する選手もいれば、経験を積むためにレンタル移籍する選手もいる。どちらにせよ、クラブにとっては大きな利益となった。ビジャレアルの未来を明るく照らすようにピッチに立つ選手もいれば、他のクラブへ売却され、年間平均1200万ユーロ(約14.4億円)を若手育成部門へ投資するビジャレアルの金庫を潤わせる選手もいるからだ。
■“マドリガル” から ”ラ・セラミカ” へ
「もう ”マドリガル” とは呼ばない、”エスタディオ・デ・ラ・セラミカ” だ」
もちろん名前の変更だけではなく、多くのことが変わった。”エル・フェウド・アマリージョ(黄色い争い)”との異名も持つ建物は、地中海から程近い位置に1923年に建設され、数か月前にその改築をほぼ終えた。何年も前からクラブは徐々に部分部分で改築を行い、”マドリガル”を常により先進的な建物に改良してきた。
villarrealcf.esしかし2015年に重要な方向転換が訪れる。クラブは命名権を、つまり建物の名前を決める権利を、ビジャレアル市全体の主要なリソースであるセラミック関連企業の組合に、譲渡したのだ。この組合にはロイグ氏が会長を務めるパメサ社、そしてポルセラノーサ社(セラミック業界の世界的リーディングカンパニー)に、アルヘンタ・セラミカ社が参加している。それだけではなく、さらに4社が加わり、規模は小さいがこのプロジェクトに貢献した。話はここで終わりではない。ビジャレアルはセラミック業界のローカル企業すべてをこのプロジェクトに巻き込みたいと考えている。目的は2つある。クラブがスタジアム改築と調整業務に使える資金を増やすこと、そして、かつて”マドリガル”だった建物をその共同体全体の所有物にすることだ。
2つあるゴール裏の1つの外壁は約2千平方メートルのセラミックで覆われている。そして、スタジアム正面の広場はクラブの費用で新装され、セラミック関連の国際的イベントが催される。さらに、ロイグ会長の表明によると「プロジェクトの進捗はまだ25%程度」だという。先4年間、このプロジェクトは継続し、ミュージアムの開設やスタジアム内部も改良される予定だ。ビジャレアルは、つまり、より心地良く先進的なスタジアムを所有するチームとなるのだ。ただ単純に“見栄え”を良くするだけにとどまらないのが、ビジャレアルがここまでの地位を確立した要因である。
「2017年に300万ユーロ(約3.6億円)の利益を得られる予定だ」。ロイグ会長は続ける。「この金額は年々上がり1シーズン800万ユーロ(約9.6億円)まで到達するだろう。今現在、このプロジェクトにはスペインのセラミック関連企業の30%が参加しているが、徐々にこの数をさらに増やしていける予定だ」つまり、お金を使わずにクラブを改良させる。むしろ稼ぎながらにして、可能となるのだ。ビジャレアルの未来は明るい。深海を進むサブマリンが、いつ欧州という表舞台に浮上してきてもおかしくないだろう。
文=レナト・マイサーニ/Renato Maisani
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