2017-11-15-japan(C) Getty Images

アンカーで躍動した山口蛍…欧州遠征の経験が「長谷部ロス」解消の糸口となるか

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表にとって、11月のブラジル(リール)・ベルギー(ブルージュ)の欧州2連戦は現時点での世界での立ち位置を測る重要な機会だった。指揮官も続けてベスト布陣を送り出したかったはずだが、14日の2戦目はキャプテン・長谷部誠(フランクフルト)を控えに回した。

「(右ひざの状態は)別に悪くなっているわけじゃない」と本人は前日に語ったが、今季のフランクフルトでもたびたび欠場を強いられている選手を中3日で立て続けに起用するのはリスクが高すぎる。来年1月に34歳になるベテランを2018年ロシアワールドカップ本大会でフル稼働させるのも難しい。その彼に頼り切りになるわけにいかないという事情もあって、今回の采配に踏み切ったのだろう。

とはいえ、10月のニュージーランド(豊田)・ハイチ(横浜)2連戦を筆頭に、キャプテン不在の代表が意思統一を失うケースは少なくなかった。「長谷部ロス」を解消できるか否かは、2018年ロシアワールドカップ本大会に向けての極めて重要なテーマなのだ。

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ベルギー戦の日本は4-3-3の布陣を採用。本来、長谷部が陣取るアンカーには山口蛍(セレッソ大阪)が入り、両インサイドハーフには初キャップの長澤和輝(浦和レッズ)とチーム最年少の井手口陽介(ガンバ大阪)が陣取った。

ロシア切符を手にした8月31日のオーストラリア戦(埼玉)では、長谷部が両インサイドハーフの山口と井手口に指示を出し、相手にボールを回させないほど効果的なプレスができていた。その役割を山口が的確にこなせるかが1つのポイントと位置付けられた。

今回のベルギーもオーストラリアと同じ3-4-3。長澤がアクセル・ヴィツェル(天津権健)、井手口がケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)を見る形でスタートし、山口はサポートに徹したが、この日はブラジル戦とは見違えるほどプレスがはまっていた。

「行く時と行かない時について結構みんなで話し合った。それがよかった」と山口が言えば、井手口も「みんなの声を聞きながらでしたけど、多少はうまくやれたんじゃないか」と前進の手ごたえをつかんだ様子。指揮官が「沢山走り、沢山守備をしてくれた」と労った長澤の献身的プレーもあって、前半は0-0で首尾よく折り返すことができた。

後半に入ってから山口の守備範囲はさらに広がっていく。前半は真ん中のスペースをカバーするだけにとどまりがちだったが、徐々に左右に動いてインターセプトする回数が増える。後半開始9分の大迫勇也(ケルン)のシュートシーンも彼のボールカットが発端だった。ハリルホジッチ監督も「国内組の中では蛍だけがフィジカル的な能力が高いのではないか。こういった試合のリズムに十分ついていけるのは彼だけ」と絶賛するほど、凄まじい走りと出足の鋭さで守りのスイッチを入れていた。

だからこそ、後半27分の失点シーンが悔やまれた。ここまで仕事らしい仕事をしていなかった相手左サイド・ナセル・シャドリ(WBA)がドリブルでスルスルと上がりだした時、久保裕也(ヘント)と森岡亮太(ワースラント・ベフェレン)の途中出場組の寄せが中途半端になり、山口の対応も遅れてしまった。最終的にはペナルティエリア内で守っていた吉田麻也(サウサンプトン)までもがかわされ、ロメル・ルカク(マンチェスター・ユナイテッド)に決定的なクロスが入ってしまった。そこで背番号16が持ち前のデュエルの強さを前面に発揮していたら、ボールを奪えていたかもしれなかっただけに、このプレーは残念だった。

結果的にはこの1点が致命傷となり、日本はベルギーに苦杯を喫した。4年前と同じく敵地での勝利とはならなかったが、外から山口の一挙手一投足を見ていた長谷部は「蛍の良さは運動量。アンカーで出ればもちろん運動量が求められるけど、今日の彼は非常にいいプレーをしていた。僕個人的にもこの2試合で競争がもっともっと生まれてきているんじゃないかと思う」と前向きに評価した。「誰がいなくなるからどうのこうのっていうのは今のチームにはないのかなと感じるし、そういう意味でポジティブな部分があった」ともコメント。キャプテン自身は「長谷部ロス」の懸念が少なくなったことを認めた。

ご存知の通り、山口は2014年のブラジル・ワールドカップ3試合全てに出場した経験豊富なボランチ。だが、3年が経った今も「自分は上の選手たちについていく立場」という意識がどこかにあって、自らアクションを起こすことを苦手としていた。今年3月の最終予選・タイ戦(埼玉)でも、長谷部に続いて今野泰幸(G大阪)が負傷離脱し、本職のボランチが彼1人となった際には大きな重圧を感じ、考えられないようなミスを連発するに至った。「みんながボランチは1人しかいないっていう余計な迷いが生じた」と本人も吐露したことがあったが、こうしたメンタル面は前々からの課題だったのだ。

しかし、今回のブラジル戦で改めて世界基準を突き付けられたことで、明らかに目の色が変わった。雹が降る悪天候に見舞われた12日の練習時。プレスが機能しないことに顔を曇らせ「今日に関しては全く守備がはまらなかった。どこで行くのか行かないのかって指示は僕のポジションとかセンターバックの選手が出していくのが一番だと思う」と自覚を強め、同じ問題意識を抱いていた吉田らとともに徹底的に話し合いを持った。それが功を奏し、長谷部不在の中盤をしっかりととコントロールすることができた。このベルギー戦が山口の大きな転機になる可能性もあり得そうだ。

ただ、攻撃面では課題も出た。彼の横パスをさらわれ、トルガン・アザール(ボルシアMG)の決定的シュートにつながった前半13分のピンチに象徴されるように、Jリーグ基準のパス出しをしてしまう場面が何度か見られたのだ。国内では通るボールでも世界で出れば通らないケースは少なくない。1年半前、短期間ながらドイツ・ブンデスリーガでプレーした感覚を山口自身が忘れていたのかもしれない。

同じドイツ経験がある長澤も試合をやりながら感覚を取り戻していったようだが、やはり国内組は世界を体感しづらい環境にいるのは確か。長友佑都(インテル)も「結局、欧州でやっているのが何が違うかっていうと、厳しいレギュラー争いとか、厳しい環境で結果を残し続けることの大変さ。どれだけストイックにやれるかという意識の差はある」と話したが、Jリーグにいながらワールドカップを戦えるレベルに飛躍するのはホントにハードルが高い。そこに挑んでいくためにも、今回の2連戦で感じたことを日々のトレーニングや試合にフィードバックしていくしかない。

若い井手口は「世界トップクラスの選手たちとやれたので、海外でプレーしたいという気持ちは多少出てきた」と本音を吐露したが、海外に出られるなら出てしまった方がいいのかもしれない。7カ月間で世界に肩を並べようと思うなら、それくらい大胆なチャレンジが必要だ。彼も「長谷部ロス」解消の一翼を担う選手だけに、より高い意識を持つ必要がある。「今日もデ・ブライネにプレッシャーに行っていたつもりだけど、全然まだまだ甘い。攻撃のところもワンタッチ、2タッチでやれば監督の求めている攻撃の形ができる」と自分の進むべき方向が明確になっただけに、そこに突き進んでいくしかない。

こうやって長谷部の後を担うべき面々がガムシャラに高みを目指していくことができれば、ロシア本大会にも光明が差す。山口を筆頭に、井手口、遠藤航(浦和)ら同じポジションの面々がこの先、どう変貌を遂げるか。そこに日本の成否が託されているといっても過言ではない。

文=元川悦子

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